表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/10

雑貨は橋をかける

異世界に来て、まだ半日も経っていないというのに、どうしてこうも心が落ち着くのだろうか。


夜が明けて、俺は村長の許可を得て、早速三日月堂の営業を始めることにした。

今のところ、雑貨屋というよりも、異世界の品物を売る、ちょっとした出張所みたいな感じだ。


だが、予想外だったのは、俺が提供する品々に対する村人たちの好奇心の強さだ。


「これは何ですか?」


「これは、ライトと呼ばれる道具です。暗いところを照らすことができます」


村人の一人が、俺が持ち込んだ懐中電灯を興味津々に覗き込む。


「それは、どうやって動くのですか?」


「スイッチを押すだけです。電池というもので動いています」


俺の説明に、周りの村人たちは口々に驚きの声を上げた。

電気という概念がないこの世界では、懐中電灯すら魔法の道具のように見えるらしい。


その後も、俺は「懐中電灯」「カセットコンロ」「ホウキ」「使い捨てカメラ」など、地球のちょっとした道具を、次々に見せて回った。


その反応はどれもこれも予想以上だった。


「これで村の広場も明るくなる!」


「うわ、これで料理が簡単にできるんだ!」


「これがカメラ!? 本当に写るのか?」


それぞれの村人たちが歓声を上げ、無邪気に喜んでくれる。

まるで、ずっと待っていたかのように、心から感動してくれている様子が伝わってきた。


そして、俺が一番驚いたのは、ティナが楽しそうに村の人たちに説明している姿だった。


「成瀬さん、これ、すごいです! 皆さん、すごく喜んでいます!」


「いや、まだ始めたばかりだからな。でも、こうして受け入れてくれるのは嬉しいよ」


ティナは、俺が準備していた商品を一つ一つ丁寧に渡しながら、村の人々と楽しそうに会話をしている。

その顔には、やはり希望のようなものが浮かんでいた。


俺の心の中で、少しずつではあるが、この村との繋がりが深まっていくのを感じる。


「さあ、次はこれだ!」

俺は手に取った道具を村長に向けて見せた。


「これは『ポケットラジオ』って言ってな、音楽を流すことができるんだ」


村長は興味津々でラジオを手に取る。

その瞬間、ラジオが音を立てて、静かな村に音楽が流れ始めた。


村の広場が、どこか懐かしいメロディに包まれる。


「すごい……音が、空気を変えますね」


村長の言葉に、俺は少し驚きながらも笑顔を返す。


「まあ、ちょっとした魔法のようなもんだ。電気があれば、こんなことができる」


村長はしばらくそのラジオの音に耳を傾けた後、深く頷いた。


「これは、まさに私たちの生活を変えるかもしれません。異世界の品々が、こんなにも私たちを豊かにしてくれるとは……」


その言葉に、俺は胸の奥で何かが弾ける音を聞いたような気がした。

物を売る、という行為がただの商売ではなく、何かもっと深い意味を持つような気がしてきた。


——俺が持ってきたものは、単なる道具じゃない。


——それらが、この村に希望を与えているのだ。


その感覚が、どこか誇らしい。


「いや、ただの道具なんですけどね。こうやって喜んでもらえると、こっちも嬉しくなります」


ティナが小さく笑う。


「成瀬さん、きっと、これからもいろんなものを持ってきてくださいね。私たち、もっといろんな世界のものを見たいです」


その言葉に、俺は思わず答えた。


「それじゃあ、次は……そうだな、風鈴を持ってきてみようか」


「風鈴?」


「うん。涼しげな音で、夏の風を感じることができるんだ」


ティナは目を輝かせて言った。


「それ、絶対に素敵です! 私も欲しいです!」


その言葉に、俺は少し照れくさくなるが、同時に確かな手応えを感じていた。


——俺が持ってきた道具が、村の人々に笑顔をもたらす。

それがどんなに小さなことでも、確かな喜びを生むことができる。


俺は決心した。


——この異世界での商いを、もっと大切にしていこう。


 


====


その日の営業が終わり、夕方が訪れた。


俺とティナは、広場の片隅に腰を下ろして、村の風景を眺めていた。


「成瀬さん、今日は本当に楽しかったですね」


「そうだな。こうやってみんなが喜んでくれるのは、やりがいがある」


「これからも、いっぱい持ってきましょうね。たくさんのものを、たくさんの人に」


俺は静かに頷くと、もう一度、目の前の風景を見渡した。


——異世界の村と、雑貨屋。

そして、ティナの明るい笑顔が、ここでの生活の始まりを告げている。


俺はふと、心に誓った。


——この場所を、守りたい。

——そして、この店を通じて、もっと多くの人々を幸せにしたい。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ