表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/10

今日も扉の向こうで

「三日月堂」の扉が静かに開き、日が沈んだ村の広場にぽつんと光が灯る。


成瀬悠馬は、店の前に立ち、少し考え込んでいた。商会との交渉が一応決着を見たとはいえ、まだその影響が完全に去ったわけではない。しかし、何かしら心の中に決意のようなものが芽生えていた。


「店長、今日は何か特別なことがあるんですか?」

ティナが軽やかな足取りで店に近づきながら尋ねてきた。


成瀬は少しだけ笑顔を見せ、答える。

「いや、特別と言えば、今日も普通に雑貨を売るだけさ。だけど、最近、ちょっと思うことがあってね」


ティナが首をかしげる。

「思うこと?」


成瀬は店の中を見渡した。棚に並べられた様々な雑貨。日本から持ち込んだ品々が、異世界の人々にとってどれも新鮮で、使いやすく、時には懐かしいものに感じられるようだ。


「僕がこの店を始めた時、こんなに大きな話になるとは思わなかった。異世界との繋がりなんて、考えもしなかった」


成瀬はしばらく静かに言った。


「でも今、こうしてみんなと一緒にいると、やっぱり感じるんだ。この店はただの商売のための場所じゃなくて、ここで過ごす時間が、みんなにとってかけがえのないものになっているって」


ティナは少し照れたように微笑んだ。


「私も、ここに来てから色んなことを学びました。そして、毎日がとても楽しいんです!」


成瀬はティナの言葉にうなずき、もう一度店内を見回した。


「それに、こうして店を続けることで、村のみんなの笑顔も増えている。僕がここにいることで、誰かの力になれているって実感できるんだ」


その時、村長が静かに歩み寄ってきた。


「成瀬さん、少し話をしませんか?」


成瀬は村長の顔を見てうなずき、二人は店の外に出た。ティナもその後を追い、三人は少し離れた広場の片隅に腰を下ろした。


「商会の件ですが、今後どうするつもりですか?」


村長が尋ねた。


成瀬は目を閉じ、しばらく黙ってから答えた。


「商会との契約は結ばない。僕が求めているのは、この店が人々にとって大切な場所であり続けること。もっと大きく、もっと力強くなりすぎることは、僕には合わない」


村長はしばらく考え込んだ後、静かに言った。


「私も、成瀬さんの考えには賛成です。確かに、商会の力を借りることができれば、村もより豊かになるかもしれませんが…それでも、この『三日月堂』が持つ温かさ、そして穏やかな生活の方が、私たちには大切なものだと思います」


「その通りだ」


成瀬は微笑みながら言った。


「だから、僕はこの店を続けていく。村の人々にとって、ここが『家』のような場所であり続けるために」


その言葉に、村長も深く頷いた。


「私も、できる限りサポートします。ここに来る人々が安心できる場所が、これからも守られるように」


ティナも笑顔でうなずき、成瀬の隣に座った。


「私も手伝います!みんなが笑顔でいられるように、頑張ります!」


その時、遠くから笑い声が聞こえてきた。


広場の向こうでは、村の子どもたちが風鈴を揺らしながら遊んでいる。成瀬はその光景を見守りながら、心の中で決意を新たにした。


「これからも、ここは僕たちの場所だ」


成瀬は静かに呟いた。


その後、村の広場に小さな市が開かれることが決まった。


成瀬はその市場で、雑貨屋としてだけでなく、村のコミュニティの一員として、もっと多くの人々と交流を深めていくことを決めた。


日常の中で少しずつ広がっていく幸せ。それが、成瀬にとっての最大の喜びであり、何より大切なことだと感じていた。


そして、その日が訪れる。


「三日月市場」の初日、広場には色とりどりの品々が並び、村人たちが笑顔で足を運んでいた。成瀬とティナは並んで店を開き、笑顔でお客さんを迎え入れた。


ティナは元気よく呼びかけた。


「ねえ店長、今日もお客さんが来てるよ!」


成瀬はその言葉を聞いて、心からの笑顔を浮かべた。


「うん、ありがとう。これからも、みんなの笑顔を届けるために頑張ろう」


その日の夕方、太陽が沈んだ広場で、成瀬は静かに空を見上げた。


「これからも、ずっと。この場所で、皆と共に」


物語は、まだまだ続いていく。


新たな出会い、発見、そして時には挑戦が待っている。


それでも、成瀬はこの村と「三日月堂」で、幸せなスローライフを守り続けていくのだった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ