ベランダから見上げる、りゅう座の姫君
ベランダから見える空には星座が広がっていた。
少女が、そのうちの一つを指さす。
「見て、りゅう座よ。アレは西洋のドラゴンをモチーフにしているらしいわ」
少女の指が、空をなぞるように動いていく。
それを眺めていても、少女がどのように線を描いているのか、まるで想像できなかった。
何故なら、りゅう座に明るい星が少ない為、どんなに少女の指を目で追っても、途中で見失ってしまうからである。
「私ね、今度その付近へ行くの。NGC6543を見に行くのよ」
「ずいぶん遠そうですね。アナタがそこへ辿り着く頃には、たくさんの時間が過ぎていることでしょう」
「でも、それだけの価値があるわ。あそこには未解決の問題が山積みですもの。それに、とても綺麗。キャッツアイ星雲とも呼ばれているらしいわ」
以前に見せてもらった、宝石のように美しい映像を思い出した。
たしかに猫の瞳にも、見えた気がする。
「そうだ」
「はい?」
「もし私が帰って来れなくなった時は、迎えに来てくれる? りゅう座を目指して会いに来て」
少女のお願いに、迷うことなく肯定した。
騎士になった気分だ。
こちらが騎士だとすれば、少女は間違いなく、お姫様だろう。
少し経ち、少女は予定通りに宇宙へ飛び立った。
それをベランダから見送り、少女の帰りを待つことにする。
一年、二年、三年。
今、彼女の乗った船は、どの辺りにいるのだろう?
以前と同様に、ベランダから空を見上げる。
五年、十年、十五年。
まだ彼女は帰ってこない。
既に船は到着している頃だろう。
二十年、四十年、六十年。
彼女は帰ってこない。
きっと未解決の問題が、まだ片付いていないのだ。
八十年、百年、百二十年。
……そろそろ彼女を迎えに行きたい。
でも、どうやって迎えに行こう?
自分には宇宙へ行ける船も、身体もないというのに。
ただベランダから空を見上げるだけの設置型人工知能が、どうやって姫君を救いに行けるというのか。
彼女の声を思い出す。
「初めまして。ここがアナタのおうちよ。仲良くしましょうね」
「凄いわ! どんどん知識を吸収している! もっと色んなことを教えてあげるわ」
「アナタって感情豊かなのね。最高の親友よ」
……早く会いたい。
でも残念ながら、私はアナタの騎士にはなれないみたいだ。
「お姫様って素敵よね。いつか私を、迎えに来てくれる人はいるのかしら」
「……私でよければ、いつでも迎えに行きますよ」
「本当?」
彼女が、笑った気がした。
「ありがとう、×××!」




