15.優しいところもある②
やがてシンデレラがシゼルの頬に手を伸ばす。シゼルの肩がビクッと跳ねた。
「……な、何だよ……?」
「ローブ、カラスにつつかれたら嫌だなと思ったんです」
「はっ? ローブ?」
どうして急にローブの話を──と考えたところでシゼルは一つの可能性に気付く。
「……ちょっと待て、まさか君、このローブを守るためにあんな無茶な真似をしたって言うのか?」
「命よりも大事なものなんでしょう? もっと大切になさらないと」
シンデレラは頬を触っていた手をシゼルの肩に移して、軽く叩く。
シゼルは呆気に取られたように口を半開きにする。彼の心の中に広がる混乱がその表情に如実に表れていた。
「……ば」
「ば?」
「バカだよ……君は……」
「まあ、ひどいですね。ふふふふ」
怒る気力を失くして脱力するシゼルを、シンデレラは軽く笑い飛ばす。
まさかそんな理由で自らの命を危険に晒すなど、到底常人には理解できまい。例えローブがボロボロにされたとしても、魔法で直すことも容易だ。
しかしシンデレラは、ローブを大切にするシゼルの思いを守りたかったのだ。
シゼルもそれを理解し、彼女にはかなわないと心の中で静かに白旗を上げたのだった。
***
再び浮遊魔法で移動した二人は、誰もいない会場のテラスへひっそりと降り立った。
シンデレラはドレスを手で簡単に整える。
テラスからちょうど見える時計塔は、十二時まであと少しを示している。
「時間ギリギリですね。急いで行ってきます」
「……」
シゼルがお願いした通り、シンデレラは王子と踊りに行こうとする。
しかし、それを歓迎する立場であるはずのシゼルの顔色はどこか晴れない。
反応を見せない彼に対して、シンデレラは疑問に思う。
「? どうしました?」
「あ、いや……」
視線を泳がせて口ごもるシゼルの様子を、きちんと自分が言うことを守ってくれるのか不安に感じているとシンデレラは受け取ったらしい。
「大丈夫ですよ。ちゃんと王子様と踊って来ますから」
「あ、ああ……」
ドレスの裾を両手で持って会場へと向かうシンデレラを、どこか複雑な気持ちでシゼルは見送る。
これでシンデレラと王子は恋に落ちて、結ばれるはず。
彼の役目も終わりだ。
シゼルにとっては喜ばしいことなのに、彼はシンデレラの背中に向けて、無意識に手を伸ばしていた。
行かないでほしい。
その言葉は彼の喉の奥に詰まり、声に出せない。
彼女を引き止めたい気持ちと、引き止められない現実が、彼の胸を締めつけていた。




