13.敵に回したくないタイプ②
「いいのかなあ、いいのかなあこれ!」
「なぜです? 出られたら何でもいいじゃないですか」
「何か正攻法じゃない気がする! 物語として!」
シンデレラの言う通り身体が縮む魔法を使い、扉の隙間から二人は無事出たのだった。
廊下に出て通常サイズの身体に戻ったあと、シゼルはシナリオのルール的なものに反しているような気がしてならず、思い悩む。
神のお告げに従う云々関係のないシンデレラは至って冷静だ。
「神が描いたストーリーとやらは、既に綻びが出ているのでは? 私を邪魔する魔法使いなんて、恐らく本来はいなかったのでしょう?」
「う……確かにそうなんだが」
舞踏会へシンデレラを連れていけば、王子と運命の恋に落ちて結ばれる。
結末までにある苦難は、魔法が解ける十二時にシンデレラが落とすガラスの靴を、拾った王子が国中探し出すことくらいだ。
シンデレラと王子が出会うまでに何か問題が起こるとは聞いていない。シンデレラの指摘はシゼルにとって耳が痛い。
「お相手は私と王子をどうしても引き合わせたくないのですよね。……そんなことをするなんて……」
「さすがの君も落ち込んだか?」
「逆に意地でも王子と踊りたくなりました」
「君は本当に期待を裏切らないな!」
珍しく気落ちしたかに見えたシンデレラをシゼルは一瞬意外に思ったが、彼女は落ち込むどころか反発心に燃えている。
自分に仇なす者は徹底的に迎え撃つ。
シンデレラの唇は緩やかに持ち上がり、悪魔の笑顔が浮かぶ。その奥にはまるで獲物を見つけた捕食者のように、歪んだ愉悦が垣間見えた。
二人は廊下に出たはいいが、会場へ向かうのを邪魔するように、イバラの道が出来上がっていた。
天井まで届くほど茎は伸びていて、ご丁寧に立派な棘まで無数に生やしてくれている。先程のように再び身体を縮めて通る方法は通用しなさそうだ。
シンデレラは怖気づくこともなく、棘を何度も触っている。
「これ、燃やせます? 火事にならない程度に」
「ああ、そんなの簡単──」
バチッと電流が弾けたような音と閃光が走って、イバラに魔法をかけようとしたシゼルの手が痺れた。
「なっ……!?」
「……あの。やはりお相手の方のほうが強いのでは──」
「違う! ちょっと気を抜いてたただけだ!」
シンデレラの鋭い疑念の眼差しをシゼルが強く否定する。
その必死な姿勢は、残念ながら説得力を弱らせる結果となった。
彼も自覚があるらしい。誤魔化すように話題をイバラに向ける。
「強力な結界が張られてるな……解くのに時間がかかりそうだ」
シンデレラは既にシゼルの話を聞いていなかった。廊下の窓を覗いて脱出方法を探っている。
これだけ大きな結界付きのイバラを用意していて、窓が開いているはずもない。シゼルはシンデレラに伝えようとするが──
「……シンデレラ、窓だって結界が──」
ガシャアアン! と勢いよく窓が破られたのと、シゼルが言葉を発したのはほぼ同時だった。
シンデレラが投げた花瓶が窓を突き破り、ガラスの破片が外と床に飛び散っている。
無残な姿となった窓から風が吹き込んで、シンデレラの髪を靡かせた。
「あら、いけちゃいましたね」
「うわああああ! 何やってんだ!!」
「そこに花瓶があったので」
「あっても投げたらダメでしょうが!」
まるで母親のようにシゼルがシンデレラを叱りつけていると、騒ぎを聞きつけたのだろう、イバラの奥から『何事だ!?』と叫ぶ複数の声が聞こえてくる。この城を守る衛兵だ。
しかし彼らはイバラによってこちらへ来ることは叶わない。
もし来られたら二人は即お縄についただろうから、皮肉にも邪魔な存在のイバラに助けられたのだった。
「よいしょっと」
シゼルが衛兵に気を取られているうちに、シンデレラは窓枠に手と足をかけて割れた窓から出ようとしている。
奔放すぎる彼女の肩を掴みながら、シゼルが全力で引き止める。
「もう勝手に行動しないでくれ! 少しは大人しくしてて!」
「ですが時間もありませんし」
「浮遊魔法使うから!」
放っておいたら何をしでかすかわからないシンデレラを横抱きにして、シゼルは窓から飛び立った。




