12.敵に回したくないタイプ①
王子の従者に案内されたのは王城内のゲストルームだった。
さすが王家の使用人たちは優秀で、シンデレラとシゼルが部屋に通された時には、既に替えの青いドレスが用意されていた。
着替えを手伝うという使用人を断って、シンデレラとシゼルは二人になる。
シンデレラが着替え始めたのを背にして、シゼルは姿を消す魔法を解いた。
「王子と出会えたのは良かったけど、結局君のドレスはワインで汚れる運命だったな」
「急にグラスが破裂したんですが……まさかあなたの仕業ではありませんよね?」
「当たり前だろ! 何で俺が邪魔しないといけないんだよ!」
濡れ衣を着せられ、シゼルは背後にいるシンデレラに怒る。
しかし、確かにあの破裂の仕方は不可解だった。偶然グラスが脆くなっていた……ような割れ方ではなかったのだ。
シゼルは何もない壁を見ながら腕を組んでいると、彼の横からひょこっとシンデレラが顔を覗かせた。
「何か思惑でもあったのかと思ったんですよ。そう怒らないでください」
「お、おい! ちゃんとドレス着られてないぞ!!」
着替え終わったのかと思いきや、シンデレラのドレスの背中が大きく開いたままで、どう見ても着替えの途中だ。
押さえていないとはだけてしまうのだろう。シンデレラは胸元をしっかりと掴んでいる。
「これ、背中の紐が上手く結べないんです。手伝ってくれます?」
「わ、わかったよ……」
シンデレラがくるっと回ると、美しい背中がシゼルの前に現れる。
うら若き女性の肌に触れることに抵抗を覚えながら、シゼルはドレスの紐を恐る恐る手に取る。
シュルシュルと紐を結ぶ音だけが部屋に響く。
頼まれたこととはいえ、何だか悪いことをしている気になってシゼルは落ち着かない。
指がシンデレラの肌に当たるたび、シゼルは彼女を意識してしまう。
「……ほら、出来たぞ」
「ありがとうございます。……顔、真っ赤ですよ」
振り向いたシンデレラから指摘され、シゼルの頬は更に赤みを帯びる。
「仕方ないだろ! 慣れてないんだよ、こういうの!」
「ふふふ」
からかうシンデレラから逃れるように、シゼルはドアの方へズカズカと向かった。
「……ほら、早く行かないと! 王子にダンス申し込まれてるんだから」
「一曲踊ったらちょうど十二時くらいになりそうですね」
「そうだな、急がないと──」
シゼルはドアの取っ手を押すが、ガタンと音がするだけで開かない。
「ん? あれ……」
鍵は内側にある。施錠はされていない。
シゼルは押したり引いたりを繰り返し、念の為施錠も開けて閉めてをしたりしてみるが、扉は強固だ。
「これ、鍵じゃないな。魔法だ……!」
扉から僅かに魔力を感じ取ったシゼルが指先から魔力を流すと、淡い桃色の反応を示した。他人の魔力が使われている色だ。
魔法による閉じ込めだとわかり、シンデレラは思い返すように顎に手を当てる。
「あなたの他に魔法使いがこの会場にいるんですね。ならきっと先程ワイングラスを破裂させたのも……」
「そいつの仕業かもしれないな……」
ワイングラスを破裂させた方法が魔法なら腑に落ちる。人が細工を施した割れ方には見えないほど不自然だった。
しかしなぜシンデレラの持つワイングラスを割る必要があったのか。シンデレラもシゼルも同じ結論に至る。
「普通に考えて、王子様と私を接触させないようにする妨害行為ですよね?」
「恐らく。しかしなぜそんなことを……いや、それより早くここを出ないと」
魔法がかけられているなら魔法で打ち破ればいいのに、シゼルは何やら神妙な面持ちで扉を見つめるだけだ。そんなに簡単ではないらしい。
シンデレラはデリカシーや配慮の欠片も見せず直接的に問う。
「あなたが魔法を破れないということは、お相手の魔法使いのほうが優れているんでしょうか?」
「違う! こういう拘留系の魔法は簡単に解きにくいだけだから! それに君が俺に朝から散々魔法使わせたせいで疲れてるんだよ!」
「まあ、人のせいにするんですね。結構です。それよりあまり時間がないのですよね?」
シゼルの言うことは事実なのだが、シンデレラはただの言い訳としか受け取らない。
憤慨するシゼルはもう少し文句を言いたかったが、時間がないのもまた事実だ。彼は飲み込んだ。
シンデレラは窓が開いていないか調べている。ガタガタと強めに押すが、窓も扉同様ビクともしない。
シゼルも窓を確認するが、やはり魔法で閉じられている。
「窓もダメか。ここさえ開いていれば浮遊魔法で脱出できるのに」
「でしたら、身体を小さくする魔法とかありませんか?」
「まあ……できなくはないけど。なぜだ?」
「扉が開かないなら、隙間から出ればいいじゃないですか」




