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油断

 世界は罪に溢れている。


 小さい罪から大きい罪。その数はそれこそ人の数より多いだろう。


 でもその罪の中で正当に裁かれるものなんてほんのひと握りしかない。


 それはなぜか、みんなが罪を隠すから? 罪を金で揉み消すから?


 そう、罪なんて証拠がなければ罪にはならない。


 でももしその罪の証拠をばらすことが出来るシステムでもあったら。


 そうしたらこの世から罪は無くなるのだろうか。


 きっと否だ。


「なに考えてんの、乃亜」


「あんたの罪について」


 今私に話しかけてきた、普通を体現したような女は谷山たにやま 夏帆かほ学校で唯一私に話しかけてくる謎の女だ。


 そして乃亜とは、私兎束とつか 乃亜のあのことだ。


「なに、私の罪って?」


「この前盗んだ五百円返して」


「盗んだなんて人聞きの悪い。借りたの。それと返すのはちょっとだけ待ってほしいと言いますか」


 この前いきなり「五百円貸して、ありがとう」と言って私の財布を盗んでいった。ちゃんと帰ってきた財布からは五百円しか取られていなかったから許したけど。


「また課金のしすぎで金欠なの?」


「まぁ、そうとも言う」


「別にいいけど」


 私はこれ以上話しても意味がないと思い席から立ち上がって帰り支度をする。


「帰るの? じゃあ私も一緒に帰る」


「あんた私と家逆でしょ」


「いいの。今日は今日だけは一緒に帰ろ」


 夏帆の雰囲気がいつもと違う気がしたけど、元から私は夏帆のことをよく知らないから気のせいだろう。


「別にいいけど」


 私達は帰り道を一緒に歩く。


 私の家は学校から歩いて十分程なので、歩きだ。夏帆は電車なので一緒に歩くことになった。


「乃亜ってさ、学校で友達作ろうとしないよね」


「何、突然」


「いやなんで友達作らないのかなーってふと思っただけ」


 友達を作らない理由。そんなのわざわざ作る理由がないからだ。別に友達なんていなくても学校生活なんて普通に送れる。


 逆になんでわざわざ群れたがるのかわからない。


 一人で居る方が他人に気を使わなくてよくて楽なのに。


「乃亜って普段静かで、クールキャラじゃん。見た目も可愛いから男子なんかいつも見てるじゃん」


「あの視線はうざいね」


 私は毎日男子から視線を受けている。最初は意味が分からなかったけど、夏帆曰く私が可愛いから目で追ってしまうらしい。


 迷惑極まりない。


「乃亜は誰かと付き合うとかもしないの?」


「なんでそんなめんどくさいことしなきゃいけないの? 私は人に時間を合わせたり、気を使ったりしたくないんだよ」


 それが最初の答えでもある。私は他人にやることを左右されたり、自分がするのも嫌いだ。


 誰かと付き合えばきっとデートなんかをしなければいけない。そうなると、私の時間が奪われるだけでなく、やりたいことが出来なくなる。


 私は自由を愛する女なのだ。


「ふーん。じゃあ私も迷惑?」


「言わなきゃ分かんない?」


「そっか、迷惑じゃないか」


「まぁ、それでいいよ」


 正直言って夏帆の相手するのは疲れる。夏帆だからというか、人の相手をするのがだが。


 夏帆がいきなり私から離れていっても、なんとも思わずにそのまま学校生活を続けるだろう。


「乃亜、こっち」


「は? 私の家こっちだから、行きたいなら一人で行って」


 私の帰り道と別の道を行こうとした夏帆を無視して、私は自分の家への帰り道を進む。


 私の帰り道に勝手についてきてるだけなのに、なんで私が付き合わなければいけないのか。


「お願い。もしついて来てくれたら乃亜に関わるのやめるから」


「二言は?」


「ないよ」


 今日ついて行けばこれからは学校で人の相手をしなくて済む。それが魅力的すぎて、私は夏帆について行く。


「どこまで行く気?」


「もう少し」


 あれから五分程歩いているが、夏帆が進むのは脇道ばかりで、視界が悪い。


「まだ?」


「あとちょっと」


「いい加減に……、そういうことね」


 私が夏帆の肩を掴もうとした時にやっと気づいた。後ろから何人かの人につけられてることに。


「どういうこと?」


「なにが?」


 夏帆は明らかに動揺している。それがもう答えだ。


「私ってそんなに恨まれてたんだ」


 私は後ろを振り向いて、つけてきた人を見る。


 でも全員顔を動物の仮面で隠していて顔が分からない。


「体格からして大人。それが四人ね。女子高生攫うには多すぎない?」


 明らかに過剰戦力だ。普通の女子高生相手に。


「襲われたら抵抗していいんだよね」


 先に仮面軍団が動いた。狭い通路をぶつからないように上手く走りながら私に向かってくる。


「これは明らかに襲われてるよね。じゃあ」


 私は身を低くして、向かってくる仮面達に掌底をしていく。


「素人か。ならやりすぎちゃったかな」


 私は一応武術の心得がある。だから素人に負けることはない。


「ちゃんと説明してもらうか、ら。聞こえてたのに、油断した……」


 私の意識はそこで無くなる。最後に見たのは、とても嬉しそうな夏帆の顔。


(絶対に許さない)


 私にこんなことをしたのを絶対に後悔させる。


 どんな手を使っても、周りから私が悪だと断定されようとも。


 私の心に染み付いたこの気持ちを晴らす為に。

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