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震える絹川の唇が、二度、触れて、ギュウっと志麻子は抱き寄せられる。



「…好きだ」

どこか苦しそうな声で、絹川が囁いた。

「信じられない、こんなに好きになるなんて。…くそっ、我慢出来なかった…」

耳元で言われて、全身が心臓になってる志麻子も絹川にしがみついた。

「志麻ちゃん…勝手にキスしてごめん。嫌わないで、頼む」

「き、き…」

志麻子の声も震えている。

「…らわない。嫌わない…よ。い、嫌じゃなかったよ…」

志麻子を抱きしめる絹川の身体が震える。

「…い、やじゃなかった…?なんで?」

「なんでだろ…」

「なんで…かな」

二人で抱き合ったまま、なんで、なんで、と言い合う。

「…もう一回、してみていい?」

絹川が囁いた。

「キス」

志麻子がその単語だけで顔を益々赤らめる。

「もう一回したら、何でかわかるかも…」

絹川が言って、志麻子の唇をゆっくり塞いだ。


一回、と言ったのに、何度も角度を変えてキスされる。

唇を喰まれて、…浅く舌が入ってきた。

「…っん」

志麻子が思わず喉で喘ぐと、絹川が志麻子の後頭部を押さえながら、舌を絡めて唇を貪った。

あまりのことに、志麻子の膝が崩壊した。



「大丈夫?」

ベンチに座らされて、絹川に肩を抱かれ、身体を預けるように寄っかかる。

「うん…」

大丈夫ではない。

身体の芯が震えて、脚に力が全く入らなくて、志麻子は崩れ落ちたのだ。

「キヌが色気のリミッター外したから…」

「外したのは志麻ちゃんでしょ」

絹川が志麻子を覗き込む。

「な。…嫌じゃ、なかった…?キス」

散々しておいて、恐る恐る聞く。

「嫌じゃ…なかった」

「…っ、な、なんで…?」

「なんでだろ…」

志麻子は紅潮してるまま絹川を見上げた。

「きもちよかった…」

「っ!」

絹川が真っ赤な顔で固まる。

いつも余裕の絹川の珍しい表情を見上げながら、

「キヌ、キス、上手い…んだね」

言って、志麻子は大いに照れる。そんな言葉を言う日が来るとは。

「…俺も…超気持ち良かった」

「え。…私も上手い?キス」

意外な技巧が…

「そういうことじゃない」

違うらしい。

「大好きな女の子とのキスだから、めちゃくちゃ気持ち良かった。脳みそ溶けそう。今も」

「そ…そっか」

志麻子の脳みそも半分溶けている。


絹川が一度息を吐いて、吸った。


「志麻ちゃん…俺と付き合って」

志麻子の肩を抱きながら、覗き込むように言う。

「好き。キスなんかしたら、もう待てない…いや、振られるくらいなら全然待つけど。付き合って…お願い」

「キヌ、私…」

「勝手にキスしといて、ごめん。好きだ。付き合いたい。彼女にしたい。頼む、断らないで」

「あのね」

「試しでもいい。沖田の次でも…嫌だけど、いい。志麻ちゃんの彼氏は俺だって言いたい」

「キヌ、こら」

喋り続ける絹川の口を両手で塞ぐ。

「返事させいっ」

「…怖いんだ」

すぐに両手首を捉えられて口から外された。

「志麻ちゃんに拒否されたら俺、どうなるかわかんないよ」

「きょ、脅迫…」

「脅迫でもいい。付き合いたい。志麻ちゃんを取られたくない」

「つ、付き合う!付き合う!」

また喋り出した絹川に、慌てて志麻子が言った。

「キヌがさっ、話し続けたらっ、返事が出来ないでしょ!?」

至極真っ当なことを言ったのに、絹川が愕然とした顔で志麻子を見ていた。

「え!?」

志麻子もびっくりする。

「あの、だから、キヌが話し続けてたら、口を挟めないでしょ?付き合いますか?って言われて、ハイって言いたいのに、キヌが付き合いますか?を連呼してたらさ…」

「…付き合ってくれんの…!?」

絹川が信じられない、と言った目で志麻子を見つめた。

「はい…」

志麻子が恥ずかしそうにしおらしく言った。のに、

「はいって…どういう意味?」

「…何言ってんの、キヌ」

志麻子は我慢出来なくなって、笑い出した。

「もう!ハイは、イエスだよ!キヌのばかっ!」

「イエス!」

呆然と絹川は呟いて、

「えっ、…つまり、どういうこと?」

などと言うものだから、志麻子は笑いが止まらなくなる。

「…ふふふ、も、やだキヌ…ばか。いいから、ふひひ、付き合うぞ、もうっ…」

「付き合…」

絹川が呟いたかと思うと、志麻子は肩に回っていた絹川の腕に引き寄せられ、ぎゅうっと思い切り抱き締められた。

「志麻ちゃん…志麻ちゃん、志麻ちゃん」

「ふ…ふふ、もう、キヌったら…」

笑い続ける志麻子の震える肩を抱く。本当は泣いているんじゃないかと何度も覗き込みながら、絹川は半ば呆然と、志麻子の名前を呼び続けた。


いいね、ブクマ、評価ありがとうございます。

誤脱報告、いつも同じとこ間違っててすみません。ご丁寧にご指摘いただいて、本当に助かります。

感想もたくさん寄せて頂き、毎日楽しいです!ありがとうございます。

今日はちょっと話の都合上短いです。

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― 新着の感想 ―
[良い点] ゴーーール!! [一言] やったー。 読んで幸せになりました。 ありがとうございます!
[良い点] キヌの年相応な場面が見られて胸きゅんです… 情景が浮かぶ文章の構成がすきです [一言] 毎日投稿嬉しいです! 朝起きるのが楽しみで...! 本当に大好きです、いつもありがとうございます❀…
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