【小話】播磨の報告、赤堀の覚悟
播磨に「話がある」と言われたのは、だいぶ大学にも慣れた六月のこと。
例の「報告」だとピンと来た志麻子が、内密の話ならカラオケとかがいいかな?と首を捻っている所を、毎日のように会いに来て口説いていく有言実行男・絹川に見咎められた。
「ゆうくんだろうと二人きりになって欲しくない」と駄々を捏ねられ、結局連れて来たのは総北の学食だった。
昼時を外せば席にも余裕がある。4人がけの丸テーブルに2人で座って、カフェタイム限定のクレープを食べることにした。
「ツナポテトコーンしか勝たん」
などとニッチな嗜好を自信満々に主張する志麻子に、播磨はモジモジしながら、
「実は、雅春さんに告白されてる」
と打ち明けた。
赤堀雅春。バーbarrelのオーナー兼店主で、赤堀の従兄弟だ。32歳。年齢の割に枯れた雰囲気があるのは、伊坂芽衣が言うには、元社畜の特徴だという。32歳で大学生から「barrelのイケオジ」と言われているのはちょっと切ない。
その雅春に「告白された」ではなく「されている」なのは、会うたびに告白されるからだという。
その頃、その現象に身に覚えがあった志麻子は、教祖のような完璧な理解者の目で「なるほど」と頷いた。
返事はしていないと言うが、播磨の心は既に決まっているようだった。
「こんなこと、本当にあるんだね、くじら」
どこか惚けるように言う播磨には、絹川とはちがう色気が感じられた。
「好きになった人が好きになってくれるってすごい確率だってよく言うけど、俺みたいな奴にはその確率って、ほんと砂粒からダイヤモンドを探すようなものなんだ」
高三の夏休みに赤堀に連れられて遊びに行ったbarrelで出逢ったのだという。
最初はなんとなく一緒にいると落ち着くなあという程度。
この人の雰囲気好きだなあ、この人の顔も好きだなあ、この人の声好きだなあ、この人の匂いも…エッ、匂い?
「抱き締められてて…」
播磨が眼鏡の下に手を入れて顔を覆う。
「もうちょっと詳しく」
志麻子がクレープを皿に置いた。
「キッチンでコーヒーの淹れ方教えて貰ってて二人きりで…」
まあやらしい!
志麻子の中のおばさんが叫ぶ。オーナーの、人を油断させるような微笑みを思い出した。
「可愛くてつい抱きしめたって…そんなことある?」
「今播磨を抱き締めたいと思ってる」
「何言ってんの、くじらはもう」
播磨が色っぽく溜息を吐く。
「それで、告白されたの?」
「そお…」
真っ赤な顔で言う。
「なんて?」
欲しがる志麻子。
「ええと…男同士は嫌か?って…。俺が答えられずにいたら…」
「いたら?」
「…ひとまわりも上の男にこんなこと言われて、怖い思いさせなきゃいいけど。ごめんな、好きだよって…」
「んまあ!」
気遣いを見せつつの、ど直球!
これは奥さん、落としにきてますわよ。ええ、完璧に落としに来てますわね、怖がってないのもとっくに分かった上での、アレですわね。あらやだこれってそういうこと?大人の男って、怖いですわ。怖いですわね!
「すごいことだと思わない?くじら。ユキと仲良くなっただけでも俺的には“すげえな”だったのにさ。そのユキの従兄弟と…」
そこで言葉を切って、播磨と志麻子は目を合わせて同時に
「“すげえな”」
と言った。
「全部、くじらが繋いでくれたんだよ」
播磨は言った。
俺さ、あの時…高一の、ユキとキヌに脅迫された時。ゲイの告白動画なんかで、誰かが真剣に動いてくれるなんて、思わなかったんだ。
勿論沖田はすごく心配してくれたけど、沖田自身が土井さんとくじらの間で罪悪感で死にそうになってて、俺は失恋したばっかでそれもつらかったしさ…。
なのに、ただ巻き込まれただけで、俺とは全然仲良くなかったくじらがさ、「なんとかしないと」って言ってくれたんだ。
あの時のこと、よく覚えてるよ。
沖田と、くじらのにいちゃん達と、心配しながらユキん家の脇に張り込んで。くじらの二番目の兄ちゃんがくじらに自分のスマホ通話状態で持たせて、それで皆で音聞いてた。
俺のせいでごめんなさい、って何度も謝ったら、くじらの上の兄ちゃんが、「悪いのは、悪いことをした方で、された方じゃない」って言ってくれて。下の兄ちゃんは「恋はある意味大罪だが、恋をした奴に罪はない」って慰めてくれて。下の兄ちゃんの言ってることは、よくわからなかったけれど。
ユキの家に殴り込みにいったくじらが、嘘泣きしたせいで目を真っ赤に腫らして、出て来て。
「全部消してやった!もう大丈夫だよ、播磨!」って笑ったんだ。
「嬉しかったな。動画のことは勿論安心したけどさ。それより、くじらが当然のように力になってくれたのが嬉しかったんだ。そんで、くじらと仲良くなって、ユキとキヌとつるむようになって…。あの時、くじらが俺の盤面を一気に変えたんだって、後になって思ったんだ」
「…それはさ、播磨のお陰なんだよ」
志麻子がしみじみ言った。
「私、あん時…クソ堀とクソ川にムカついてムカついて。お昼休みに休ませるもんかって突撃してたけど、やっぱり最初はちょっと怖くてさ…。播磨が、くじら、やめなよくじら、って言いながら、いつも付いてきてくれたお陰で、勇気が湧いてガンガンかちこめるようになったんだよ!」
「逆効果だったんかい」
播磨は笑って、「クソ堀とクソ川って、言ってたね。懐かしいね」と言った。
「ね。語彙力ないね…」
志麻子はそこを反省する。
「俺、一回ユキと喧嘩した時にクソ堀って言ったらさ、膝から崩れ落ちて泣いてたよ。なんかトラウマにでもなってるのかしら」
「へえ、マジで?メイメイにでも言われたのかなあ」
「言うかなあ、伊坂さんが」
原因が自分達とは思わない二人が首を捻った。
それからすぐ、播磨からメールで、『付き合うことになりました』という一言と、“すげえな”とメガネザルが驚いてるスタンプが届いて、志麻子は声を上げて笑った。
夏祭りの日。
barrelでは、三種類のカクテルと、ピクルスやピンチョスなどの簡単なツマミを売っていた。
「こんばんはー!」
志麻子が声を掛けたのは、祭りが始まって割とすぐ。
「くじらちゃん」
出店の中でスツールに座って何か話していた、社員の小暮とオーナーの赤堀雅春が顔を上げた。志麻子と絹川を見て、
「キヌとデートか。浴衣、いいね。可愛いよ」
「ふへへ、ありがとうございます!…播磨は?」
「佑都は後から。俺は今日こっから離れられないからね」
雅春も小暮も浴衣を着ている。女性に人気のあるbarrelの店員の浴衣は喜ばれそうだ。
「結構、出てますか?」
絹川が志麻子の後ろから声を掛けた。
「まあまあ。これからだな。今は高校生とか子連れが多いから。忙しくなったら召集していい?」
「絶対嫌です」
絹川が笑顔で言って、
「てか、雅春さん…本当にこの店名にしちゃったんですか?」
上の横向きののぼりを見て呆れた顔をした。
のぼりには出店の店名が書いてあり、でかい毛筆体で「樽」。の左に小さく、「俺の」と書いてある。
「商標権大丈夫ですか?」
「さあ」
さあって…。
「仙台は治外法権だろ」
「そんな馬鹿な」
志麻子が突っ込む。
「一応芽衣ちゃんに聞いたんだけど…」
従兄弟の彼女の名前を出して首を捻る。
「あの子、面倒臭くなると、仙台は治外法権なんで大丈夫ですって言うんだよ」
大丈夫か、法学部。
「まあ、俺の佑都が考えてくれたんだ。いいだろ」
「俺の佑都、も商標権出てるかもしれませんよ」
志麻子が言うと、
「それいいな。出願するか」
真面目な顔でアホなことを言った。
「…くじらちゃん、ありがとな」
唐突にそんなことを雅春が言う。
「いつかお礼を言おうと思ってたんだ。…佑都がさ、くじらは恩人だって言ってた。何があったかはまだ言えないけど、俺の心を守ってくれた恩人だって。佑都の恩人なら俺にとっても恩人だよ」
「…えー…」
何故か物凄く嫌な顔になる志麻子。
「え、なに?」
「言っときますけど、まだウチの子を嫁に出す気はありませんからね」
「急に保護者面すんのな」
雅春が呆れて笑った。
「変なの。佑都もさ、こういうんだぜ。ハルさんのこと愛してるけど、愛してるけど、大事なことだからもう一回言うな、ハルさんのこと愛してるけど、くじらとハルさんが喧嘩してたらくじらにつくって」
「播磨ったら…」
ジーンとする。前半大分いらん情報だったけど。
「私も、洸季と播磨が喧嘩してたら播磨の味方につく!」
「絶対ゆうくんを敵に回さないようにしよう」
絹川が志麻子の後ろで呟いた。
「くじらー!」
噂をすればの播磨の声。
「播磨!わあい、浴衣だ!」
志麻子がピョンと跳ねる前で、雅春が「わあい!」と身を乗り出した。
播磨は藍鼠色の市松模様の浴衣を着ている。
「くじら、浴衣じゃん!可愛いね」
「播磨もめちゃくちゃキュートよ!」
きゃっきゃ盛り上がる。
「おー、くじら、キヌも来てたのか」
播磨の後ろから赤堀と芽衣がやって来る。
「ぎゃああ、メイメイ、きゃわいい!」
芽衣も浴衣だ。白地に朝顔が夏らしい。
「くじらちゃんも可愛い!浴衣似合ってる。なんか良い生地だし!」
「洸季のお母さんに戴いたんだよ〜」
「え、もう義母に挨拶に行ったの?」
「でへー」
「でへーってな」
「へー、誰?コウキって。くじら、彼氏でもできたの?」
赤堀が首を突っ込む。
「あれ?知らないの?ユキ」
播磨がびっくりして言う。
「へー、知らないの?ユキ」
知らなかったって、知ってた、と言う顔で芽衣が言う。
「…え、マジで彼氏できたの!?くじら」
赤堀が仰天して言う。
「え、知らないの?赤堀」
志麻子も皆と同じ反応をして、絹川に目を向けると、絹川はオヤ?という顔をして、口元に手を当てて首を傾げてる。
「え、なんだよ。皆知ってんの?俺だけ?キヌも知ってんの?相手。誰?同じ大学の男?」
「同じ大学だよね、くじらちゃん」
芽衣がニコッと微笑む。
「ユキも知ってる人だと思うよ」
芽衣が赤堀で遊ぶ時の顔をしていて、なんとなく皆発言を控える。
「えー?!俺も知ってる男?総北?誰だ…あ」
ピコーンッと思い付いた顔で、
「沖田!?」
「っざけんな」
耐えきれず、絹川が口を挟む。
「もっとイイ男が居るだろ!」
自分で言う。
「もっとイイ男…俺か?」
「アホ」
「死ね」
芽衣と絹川が同時に言った。
「え、じゃあ誰?」
「俺」
「はははっ」
赤堀が笑った。
「そーだ!キヌもコウキだったわ!って、アホか!なあ、くじら、誰だよ〜」
「えっごめん今ちょっと話聞いてなかった」
志麻子はよそ見をしていた。
「おい」
「志麻ちゃん、何見てたの?…あの男?」
絹川が緑道を歩いてすれ違った若い男の背中を睨む。
「うん」
志麻子は頷いて、
「見た?洸季。今の、なに?フランクフルトにとうもろこし巻き付けて揚げたような形状のもの持ってたよね?あっちから歩いて来たよね?」
「…志麻ちゃん…」
「えっコウキって…ホントに、キヌなの?」
志麻子の言葉を聞いて、赤堀が愕然と呟く。
「多分、チーズドッグってやつだよ」
播磨が口を出した。
「え、何が?」
「チーズドッグ!」
赤堀と志麻子が同時に口を開く。
「韓国系の出店で去年くらいから見た気がする」
「チーズが入ってるの?」
「入ってるんじゃない?食べたことないけど」
「志麻ちゃんさっきキュウリの一本漬食べたのに」
絹川が言うと、
「野菜から食べると太らないんだって」
「そういう…?」
「待て待て待て」
赤堀が騒ぐ。
「くじらの彼氏はどこ行った!」
「どこも行ってないよ、ここにいるじゃん」
播磨が呆れて言った。
「ユキ、本当に気付かなかったの?キヌって、いつもくじらのこと気にしてたじゃん」
「えっ…」
驚いて声を出したのは絹川で、赤堀は目と口をぱかーんと開けてる。
「…ゆうくん、気付いてたの?」
「うん。…なんとなくだけど」
「えっ、マジかあ。俺、誰にも気付かれてない自信あったよ」
絹川が片手を頬に当てて言う。
「キヌさ、一回、俺のこといいなあって言ったんだよ。覚えてない?」
「…なんだっけ?」
「文系でいいなって。理系は階も違うからなあって。…くじらがクラスの子とお昼食べるって言って、技術室に来なかった日」
「…」
絹川が両手で顔を覆った。
志麻子は「かい?」と首を傾げている。
「言ったっけ…」
「俺に言ったというか、独り言かもだけど。そん時は俺も、かいってなんじゃろって思ってたんだけど…その後、偶々、キヌが2階の廊下から中庭見てるのを見て。なんかあんのかなって思ったらくじらが友達とバレーボールやっててさ」
「…」
身に覚えがあるのか、絹川は顔を覆ったまま項垂れている。
「油断してたんだろうけど、すごい顔してたよ、キヌ」
「どんな顔?変顔?」
志麻子がわくわく聞く。
「くじらが可愛くて仕方ない、って顔。くじらが笑ったら微笑んで、くじらが転びそうになったら焦ってさ…」
「…」
今度は志麻子も真っ赤になった。
「くじらの彼氏が、キヌ…?!」
赤堀がやっと呟いた。
「本当に?くじら。き、き、キヌなのか…?!」
「うふ」
うん、じゃなく、うふ、になった。
「えええええ!」
爆発するように、叫んだ。
「ちょ、君らココの前でアオハルしないで。営業妨害だからここの裏でやって」
何人かのお客さんの応対をしていた雅春に言われて、出店の裏に移動する。
赤堀は芽衣に手を取られて、フラフラと歩いて移動したが、急に前を歩く絹川の左肩をガシッと掴んだ。
「うおっ」
絹川が仰反る。
「なんだよユキ…」
首だけ振り返った絹川の身体を自分に向けさせて、今度は両肩を掴んだ。
「キヌ、お前…本気なんだろうな?くじらを弄んでるんじゃないだろうな」
「これ以上ないほど、本気だよ」
絹川が断言した。
「そ…そっかあ〜」
絹川の真剣な顔を見て、安心したように息を吐いた。
「良かった…そっかあ、キヌとくじらが…。そっかあ…良かった…芽衣、聞いた?キヌとくじらが付き合ってるんだってよ…良かった…良かったなあ…」
涙がボロリボロリと落ちる。
え、なんで?!
「俺ぁ、…俺のせいでくじら、恋愛がトラウマになって…もしかして一生彼氏が出来ねえんじゃねえかって思って…。そしたらくじらを俺と芽衣の養女にして俺らの子供として育てようって芽衣と話してて…」
ぶっ、と誰かが吹き出した。
志麻子は思わず芽衣を見る。芽衣は陶然とした微笑みで心底愛おしそうに赤堀を見つめていた。
メイメイ…
赤堀で遊び過ぎでは…。
「…勝手に養子縁組を画策すんなよ…」
やっと絹川が呟く。
「キヌが教えてくれねえから…」
赤堀が目を擦って言った。
「じゃあ、キヌがバイト中にお客さんに聞かれて彼女いますって言ってたのもくじらのことなんだな。彼女どんな人って聞かれて天使ですって言ってたのも…」
「やめて、黙って、お願い」
絹川が赤堀の後頭部を押さえながらアイアンクローする。
「聞かれて…なんだって?」
志麻子が聞き取れずに首を傾げた。
芽衣と播磨は口を押さえて俯いた。
「…ぶはあ!窒息するわ!なんだよ!」
「なんだよはこっちのセリフだ。どこで聞いてたんだ。俺になんか恨みでもあるのか」
「なんでそうなるんだ。てかなんで教えてくれなかったんだよ!」
「…教えたと思ったんだよなあ」
絹川が首を捻ると、
「俺は知ってたよー」
と出店の裏から小暮が言う。
「絹川くん、独身の俺とかオーナーに牽制するのに忙しくって忘れてたんでしょ」
「ああ…」
納得したように頷いて、「牽制ってバレてて草」と呟いた。
「小暮くんはともかく俺のことは牽制せんでも」
雅春が顔を出して言った。
「俺には俺の天使がいますから…っ」
言いながら膝を叩いて笑い出す。
絹川が雅春を睨んで、「ゆうくんと志麻ちゃんの男の好みは似てるんですよ」と呟いた。
「えっ、どゆこと」
雅春がガバッと顔を上げた。
志麻子と播磨は顔を見合わせて、
「内緒だよね」
「ねー」
と笑い合う。
「え、え?佑都、それどういう話…」
「いらっしゃいませー。オーナー、お客様ですよ、仕事して」
「ぅあ、あ、でも…」
「ほら、しっかり仕事して、ハルさん。俺も一周してきたら手伝ったげるから」
「佑都ガチ天使。がんばるね、俺」
播磨に笑顔を向けて、雅春は接客に戻った。
「じゃあ俺はユキと伊坂さんにくっついて一周してくる。くじらは?」
播磨が聞く。
「とりあえずさっきのチーズドック探す!ね、洸季」
「はいはい、何でも探しますよ」
「すげえな」
赤堀が呟いた。
「こんなの、なんか、なんかみたいだな」
まだ感極まってる様子で言う。
「なんかって、なに?」
志麻子が首を傾げると、
「俺の親友が俺の従兄弟と付き合って、俺の幼馴染が俺の養女と付き合って…こういうの、何て言うの?芽衣」
「ハーレムエンドかな」
芽衣がしれっと彼氏を騙そうとする。
「絶対違うだろ」
「誰が養女じゃい」
絹川と志麻子が突っ込む。
赤堀は全員を見渡して、また「すげえな」と言うもんだから、志麻子と播磨は顔を見合わせた。
「これかあ」
「これだね。俺も、自分はなんの口真似をしたんだろうって」
「どっかで聞いたことあるけどなんだろって」
「思ってたね」
「思ってた」
くすくす、笑いながら正反対の方向に別れた。
「…何今の、二人だけの秘密みたいなやつ。ちょっと妬ける」
絹川が口をへの字にして言った。
「ふっふっふ。私と播磨は同志だもん!誰にも分つことの出来ぬ絆があるのだよ」
「いいな」
「…」
横を歩く絹川のちょっと寂しそうな顔を見る。
「…キヌと、赤堀もね」
前の呼び方で呼んだ。するりと、絹川の手を握る。
「特別だよ。技術室でダラダラご飯食べてさ、四人でさ、二年半だよ。あれが私の青春だよ」
「…青春か」
絹川がフッと笑った。
「俺の青春は、志麻ちゃんだわ」
「…うん…い、しょ、だよ、ね…」
「ちょっと違うでしょ」
と繋いだ手を口元に持ってきて、志麻子の手の甲にちゅっとキスをする。
「…ッ」
絹川の唇の触れた所からビリビリと、全身に電流が流れた。
「俺の天使」
「…?!」
て、て、てん…?!
…しんはん、て…続いたり…し、しませんよね。やっぱり…。
志麻子は真っ赤になって絹川を見上げた。
絹川は体を屈めて志麻子のこめかみにまたちゅっとキスを落とす。
「…っ、こ、こら、公衆の面前であるぞっ」
「そうでした」
全然反省してない顔で言うと、
「じゃあ二人になれるとこ行く?」
などとふざける。
「行きません。…も、もう、真面目に探すよ、天津飯」
「天津飯?」
「…あ、間違えた、チーズドッグ、チーズドッグ!」
「どういう間違いだ」
絹川が笑った。
結局、チーズドッグを見つけるまでにイカ焼きと牛串とチョコバナナの出店に引っ掛かって、繋いだ手は早々に離してしまったが、…手の甲とこめかみに残る絹川の熱が血管を通じて全身に駆け回り、心臓がぼこぼことぼこ殴りにされた結果、志麻子は浴衣でスキップして絹川に怒られたのだった。
未来のお話が書けなかった…また今度、いつか。
いいね、評価、ブクマ、いつもありがとうございます。
誤脱報告本当に助かります。
感想下さった皆様、どの感想も大切に読ませて頂いております。
また、メッセージでファンアートを寄せて下さる方もいて、人生初めてのファンアートにちょっと飛び上がりました。
お返事不要に甘えて本当に返信しないやつは誰だ?すみません、私です、宝物です。ありがとうございました。