仲間、そしてスープ。
パチンと音に気付き、目覚める。どうやらまた気を失っていたらしい。洞窟の中のようで体には布がかかっていた。焚火もある。暖かい。最後に覚えているのは目の前でゴブリンがいやらしく笑っている光景だったが…。あたりを見回すが誰もいない。
とりあえず状況を確認しよう。たぶんこれは夢じゃない。夢で気絶なんてしないし、あまりにも感覚がリアルだ。そしてこれも多分だけど…水たまりをのぞき込む。…俺はモンスターになっている。全身は緑で不自然に出ている腹、伸び切った爪に細すぎる腕。さっき見たゴブリンと全く同じ姿だ。「グゲゲゲゲェ」今のはどうなってるんだと言ったつもりだ。どうしよう。なんでこんなことに。異世界転生なのはわかったけどまさかゴブリンにさせられるとは。もっとこう俺TUEEEみたいなの想像してたんだけど。ゲームは好きな方だ。異世界に行ったら上手くやれるという謎の自信もあった。元の世界の知識を使って商売とかチートスキル使って敵をなぎ倒し、ハーレムとか。でもそれは全部人間の想定だった。
うなだれていると足音が聞こえる。あのゴブリンだった。「ゲゲェ!」ひっ!と声が漏れるが自分の声に冷静になった。そうだ…仲間なんだな…。
こちらをチラリとみてほほ笑んだ後凹んだ鍋を持ってきて枝で固定し焚火に置いた。料理を作るつもりなのだろうか。もぞもぞと動いている腰の袋から取り出したのは芋虫のような白くて足がたくさん生えた見たこともない虫だった。それを手でつぶし鍋に入れていく。つぶす度ギィィイ!と虫が鳴く。見ているだけで気分が悪くなる。正直今にも吐きそうだ。やがてぐつぐつと音が鳴る。石の包丁で器用に様々なきのこを切って入れていった。鍋に指を入れ「グゲゲ」と満足そうに笑った後、ちょいちょいと手を招く。まさか…それを食えというのか。確かにお腹はすいているが流石にそれを口にするのは…。ぐぅう~。それでも無慈悲に腹は鳴った。それを聞いたゴブリンは泥で作ったような皿にスープ状になったそれを入れて差し出してくる。いい奴っぽいな。けど…流石にこれは食えない。いやだめだ。いつこの悪夢が終わるかわからない。ゴブリンに遭遇した時の恐怖を思い出す。死んでもいいと思っていたが、気づいた。俺はまだ死ぬのは怖い。こんな姿になって絶望はしているが死にたくはない。食ってやる!食うぞ俺は!ゴブリンの手から皿を受け取り一気に飲み込む。口の中いっぱいに広がる不快感。変に甘くて腐ったような酸っぱさ。噛むときたまに痛みを感じる。虫の足のようなものが刺さっているようだ。最悪だ。でも!気合いで飲みこむ。数十秒が何時間にも感じられた。ゼェゼェと息を切らしているとゴブリンはうれしそうに笑い、いい飲みっぷりだと言わんばかりかおかわりをついできた。勘弁してくれ。史上最悪のわんこそばじゃないか。ゆっくり食べる勇気はないので結局また一気飲みをする。その後合計4杯ほど飲み干すことになった。鍋の中身がなくなって安堵していたら走って新しい材料をとってきた時には思わず突っ込んだ。もうええわはグゲゲゲェになるらしい。待ってましたに聞こえたのか手を止めてくれることはなかったが。
横になっているとうとうとしてきた。こんな状況でも眠くはなるんだな。洞窟の天井を見つめながらぼんやりと考える。もう腹はくくった。明日からはこの世界のことを理解しなければ。