第005話
初めて街に入った。
「あまり活気がないな」
農村と比べて人口こそ多いが、一人一人を見れば今を生きるのが限界のように疲れている。
「何か良いところはないのか」
街の中心に向かう。そこには宝石等の豪華な装飾品を売る店があった。
領主がしていたのと同じ商品があり、ときおり聞こえる「着飾るのは貴種の義務」という言葉。農村で農民への還元が減っているのに税の取り立てが厳しくなっていく一方だったのは、領主が見栄を張るためだったから。
大通りを外れて家屋の裏に回り、更にその奥へ行く。隅々まで細かいところまで見れば何かしらあるはず。
「無かった」
路地裏には多くの乞食が横たわっており、何人かは死体と見分けがつかないくらいだ。もしかしたら本当に死体かもしれない。
服装から推測すると、大多数は俺と同じように農村から来た者だろう。もし各地の領主達が装飾なんていう虚構に囚われてなければこんな事にはならなかったはずだ。古い封建的な制度とはいえかつての農民には生存保障があった。凶作で生活に困窮した農民には無償で食料が与えられた。それが今では領主という身分はただ農民から税を搾り取るだけとなってしまった。
乞食達を救いたいとは思うが、今の俺には何もできない。ここから立ち去ろう。