第003話
農村から出て街に行くことを他の農民達に伝えた。他の人達は引き止めようとしている。
「俺達農民は農村を出て生きていけない。ここに残れば少なくとも次の飢饉までは生きていける」
その理論は正しい。俺達農民が生まれてこのかた習得したスキルは農作業に関連するものだけ。他のスキルは習得のきっかけを経験していないからスキルポイント割り振りがそもそも不可能だから、せめて生活をマシにするために農作業に全て費やした結果だ。今更別の職業に就いて収入を得ようにも、その職業に以前から就いて適切にスキルを習得した者と競わなければならない。ほぼ確実に転職に失敗して野垂れ死ぬからここに居る方がいいだろう。
しかし、それは安定(停滞)に見せかけた破滅までの緩やかな衰退だ。
「このままではいつかは終わる。この農村は昔はどうだったか思い出して、今と比べてくれ」
数世代前の農村の状況は伝承のように伝わっている。その頃は全ての農民が農地を所有していて、支払うべき物は、税として納める分だけだった。
それがいつかの領主が武力を背景に「農地は全て領主の物とする」という法律を制定した。それからは税を納める為には領主に農地を借りて耕作し、納税分の他に「農地の使用料」として更に取られるようになった。しかも納税分と農地使用料は年々高くなっている。
それに、かつては領主は農民を大切にしモンスター等から守るのを第一としていたが、今では私腹を肥やす為に使い捨てている。農地どころか農民さえ所有物と考えている。
「ただ破滅を待つのは嫌だ」
こうして俺は農村を去った。