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第001話

 農民である青年のカリストの朝は早い。

彼が生まれ育った、しかし自己所有ではない粗末な農家で日の出と共に目が覚めた。

両親が亡くなって以来、慣れた手つきで農作業の準備を始める。

今日は麦の収穫日だ。麦が雨で湿気て腐ったりモンスターに荒らされる前に急がなくてはならない。

特に今年は不作の年だからだ。


§


「何とか収穫できた」


 今年の収穫を終えたからやっと一息つける。農村の中央に積み上げられた麦を見上げると、種もみを除いても来年の収穫までこの農村全ての民が飢えを凌いで余りあると確信できる。

しかし、納税分と「領主に返還する分」を除けば冬を越すのは不可能のようだ。俺を含む集まっている全ての農民達には絶望感が漂い黙り込んでいる。豊作の年は「豊作だから」と税額は上がるのに凶作では下がらない。言葉が見つからない中どうしようと考えこんでいたら、背後からの一言で沈黙を破られた。


「ついにワシの番が来たか……」


 それは40代というこの中で一番年寄りであり、俺にとっては叔父のように思っている人からだった。


「叔父さん、そんな事を言わないでくれよ」


「そうだぞ、もう少し切り詰めればなんとかなるさ」


 俺達は引き止めようとするが、叔父さんはもう歩き始めている。


「心配すんな、少しの間だけ山に居るだけだ」


 山に行く。この村では姥捨て_間引きを意味する隠語だ。建前上は「志願者が少しの期間だけ山の中で自給自足することで、収穫物を村に残る者達に残す」というもの。確かに山には手つかずの植物が生え、小動物も居る。

 しかし山にはモンスターが数多くいるので、戦う術の無いただの農民が生き残れるはずがない。実質的には老いて労働力が低下した者を切り捨てるだけのもの。


 俺達はもう飢饉の度に誰かが犠牲になるのは見たくない。叔父さんを引き止めなくてはならない。

ただ、それは叶いそうもない。


「山に行きたいなら勝手に行かせておけ」


 それは、筋骨隆々の身体にこの村全体で見れば場違いに見える程に装飾された衣類を身にまとっている60代の老人_この村の領主である騎士からだった。俺達農民が飢えに苦しんでいる時も十分な食事と鍛錬で磨かれた肉体は後数年は健康的に生きるだろう。40代で死ぬ俺達農民と違って。


 俺以外の40歳近い農民達数人が自棄になって抗議を始めている。


 「誰が好き好んで山に行くものか」

 「私の両親が最後に見せた顔は今でも忘れられない」

 「その装飾を売れば食料が手に入るだろ」


 領主はそれら抗議に返答はしなかった。ただ一言。


「ファイア」


 呪文を唱えるだけだった。その言葉は農民達に向けられたものではない。誰に向けてと強いて言えば魔法に対して。


 叔父さんと抗議をした農民を含めて数人が燃え尽きて亡くなった。前回の凶作で両親が亡くなった時と比べれば冷静に状況を把握できる。できてしまった。残った人数と収穫物から換算すれば、もう間引きしなくても冬を越せる。


「このぐらいが丁度いいだろう」


領主の独り言に俺の計算が肯定された。


§

ここは生まれた身分で何もかも決まる中世な世界。権利や労働条件はてや寿命すらも。

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