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三八話 奴隷、怒る


「本日到着が遅れたのはススク殿の責任ではなく、自分のせいであります」


 挙手したライリーに注目が集まる。

 さっきまで喜んで俺を責めていたバスターは途端に不機嫌になる。


「ライリー。てめえ、なにが言いたいんだ?」

「今回移動が遅れてしまったのは、自分のせいであります。ススク殿は自分に気を遣って、歩く速度を同じにしてくれただけです」

「……違う。慣れない俺が荷物に耐えられなかっただけだ」

「ススク殿。庇うにしても嘘を吐くのはよくないであります。自分と違ってススク殿は移動中もほとんど汗をかかなかったではないですか」


 ライリーの言っていることについては全てその通りだった。

 それでも俺がわざわざ本当のことを言わなかったのは、俺はこの場だけ嫌な思いをすれば済むがライリーは鴉目団の仲間でこれから過ごす時間のことを考えると彼女独りだけに責任押し付けるのは酷だと思えたからだ。


 俺はなんとか今回の失敗を自分への責任に話を持っていこうと言い訳を考えている内に、バスターは言った。


「いやー別におまえのせいじゃないよライリー」

「そ、そんなことはないであります。ススク殿はなにも悪くなくて……」

「だって、おまえには最初から期待してないもの」

「えっ?」

「あれ? 入ってから半年も経ってまだ分かってなかったの? ほんとおまえ冒険者向いてないなこのグズ」

「えーと……そのー……」


 憧れの存在に罵倒されたライリーは目を泳がせた後、ぎこちない笑顔を作って返事をする。


「ははは。そうだったでありますね。自分は無能でありますから」

「そうそう。戦闘も魔法も治療も空っきしで、雑用ひとつすら満足にこなせないんだからさ。荷物持ちじゃなくてお荷物なんだよライリーおまえは。他のパーティーだったら寄生虫(パラサイト)扱いだぜ。よかったなウチに雇ってもらえて」

「……」

「頭下げまくってたから偶然空いた枠に入れてやったけどさ。ほんと使えないんだよな。なにが根性だけはありますだ。結果出せない根性なんてなんの意味も無いんだよ。どんだけ努力しようがなにもできないゴミクズはとっとと装備売り払って辺境で畑でも耕しててくれ」


 罵倒で捲し立てられて、黙りこくってしまうライリー。

 笑っているが、その瞳は滲んでいた。

 

 話している内に上機嫌になったバスターは、足取り軽く近づいてきた。


「おいなに泣いてんだよ」

「えっ、あっ、そんなことは」

「それじゃまるでおれさまが悪いことしたみたいじゃん。ほら笑えよ。笑え。親に教わらなかったのかな? 自分より偉い人から注意されたら笑えって。そのほうが場も明るくなって、おれもおまえも得じゃん」

「あ……あはは……あは……あれ? おかしいでありますな。待っててください。今すぐ笑って、ぐきゅっ!?」


 ガシッ

 顔を掴まれたライリー。頬を握り締められて強引に表情を変えられる。


「わははは。いいねその顔。最高の笑顔だよ。ほんと最近の新入り連中はどいつもこいつもちょっと厳しくしたら言い訳かまして逃げやがって。もうめんどくさいから、足の一本でも折って離れられないようにしてやろうかな」

ひゃな、して(離して)ほねが、い、します(お願いします)……」

「あぁ!? なに言ってるか分かんねえよ!? そんな口無しには殴るだけじゃ足りねえよな!?」


 剣を抜身にするバスター。

 周囲の連中からの囃し立てられる声に合わせて、ライリーの体を切ろうとする。


 ……さすがにこれ以上は、見てるだけというわけにはいかないな。


「辞めろ」

「黙ってろ新人! これが冒険者の厳しい掟ってやつだ。ビビってションベンでも漏らしちまったか?

 ならさっさとママのところに帰ってお乳吸わせてもらいながら慰めてもらうんだな」

「母親ならもういないよ」

「だからうるせえって――もぎゅっ!」


 俺はこいつがライリーとやったのと同じく、バスターの顔面を掴んだ。


ひょまへ(おまえ)なにひゃってるのか(なにやってるのか)わかっへんのは(分かってんのか)!?」

「笑えよ」

ふぇっ(えっ)?」

「自分で言ったことだろ? できないんなら、俺が笑わせてやるよ」

むぎゃぁああああ(むぎゃぁああああ)!」

 

 メキメキメキ

 力を加えていき、目を細い曲線に、頬を緩ませ、口を歯が見せるくらい開くように変形させていく。


 ビュゥウウンッ!


 横からの突風。

 不意討ちにバランスを崩した俺はバスターを離して、風の吹いてきたほうを見つめる。


「てめえ新人! なにしてやがる!?」

「なにって? 先輩に指導内容のお手本を見せてもらっただけですが?」

「そんなわけねえだろうが。バスターのことを攻撃しやがって」

「このことはしっかりギルドに伝えて失格にするでゴワス」

「く、くひが……めが……」

「かわいそうなバスター。わたしが仇をとってあげるからね」

「いいや。そういうことなら、先にボクがいかせてもらうよ」


 細身の男が集団から出てきて、俺へ接近してくる。

 やつは俺を睨みつけながら手を合わせて、


 忍技(ニンジャスキル)発動!


 同じ顔の人間が横並びに複数出現した。


「こいつは分身か?」

「そう。これぞ【忍者】のスキルである分身の術。キミみたいな雑魚には勿体ないけど、冥途の土産ってことでね」

「そうか。こんなに数が多いのを見るのは初めてだな」

「そしてその数から行われる同時多角攻撃から逃れられる術はない。バスターを傷つけた報い、相応に受けてもらうよ!」


 小さな剣のような武器を持って迫ってくる細身の男たち。

 疾風の如き俊敏さで、俺へ白刃を下ろす。


「速さに自身ありか。だったらこういうのはどうだ?」

「なにっ!?」


 シュバババババ

 忍者の分身一体一体を、俺の分身が三人で取り囲む。


「貴様も分身の術を!?」

「落ち着くでゴワス! 【奴隷】にスキルは使えないはずでゴワス!」

「技でないのなら、じゃあまさかあれは……」


 速く動いているだけだ。

 疲れる前に、俺はショックを受けて動きが止まっている忍者の腹を殴る。


 シュゥウン……


 攻撃を加えるとまるで煙のように分身は姿を消して、本体が地面でうずくまっていた。


「おのれバスターだけじゃなくサルトビまで! こうなったらわたしの魔法をくらえ!」


 休む暇もなく魔法使いの女が、風魔法を放ってくる。

 さっきもくらったが、あの魔法よりもこの風は強く、通り過ぎた木の根が浮いて倒れかかる。

 

 風ね。風ならこうするか。


 俺は思いっきり息を吸った後、口をすぼめてタコが墨を吐く時のように溜めた空気を飛ばす。


 ブオオオオオ

 俺の息とぶつかって相殺されていく魔法。


「嘘? わたしの魔法がそんなことで」

「まだ終わりじゃない」

「な、なにがあるっていうの……キャァアアア!」


 ビュンッ、と魔法使いの長いスカートが巻き上がって白の下着を露出させる。


 羞恥でうずくまる魔法使い。

 残った大男が、俺へ立ち向かってくる。


「他のやつらはやられたが、ゴワスだけはそうはいかないでゴワス」

「ほう?」

「ゴワスは鴉目団のタンク。最高強度の守備でゴワス。さあおまえ如きにゴワスの防御が破れるか?」


 盾を構える大男。

 その巨大さと机よりも分厚そうな盾は、言った通りかなりの堅牢さを誇っていそうだ。


 どう突破するべきか。

 

 俺がなにもできずに迷っていると、


「ニャルメラ~スープパスタのできあがりです~」


 なにも知らないロビーナが呑気に口笛吹かせながらやってきた。


「いいところにきたなロビーナ」

「はい。マスターのお腹が一番減るであろう時間に合わせました」

「飯の件はまあ置いておいて、ちょっと体貸してくれ」

「了解しました。なにをすればよろしいでしょうか?」

「それはな――」


 ブオン!

 俺はロビーナの足首を握ると、そのまま頭のほうから大男に叩きつけた。


「ロボォオオオ!」

「ぐわぁあああ!」


 ロビーナの体はやっぱり丈夫で無傷のまま一方的に盾を破壊する。


 粉砕された盾とともに吹っ飛ぶ大男。

 鴉目団全員が倒れる光景が俺の目の前には広がっていた。

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