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三五話 奴隷、冒険者になる


「冒険者になりたいんですね。お名前をどうぞ」

「ススクです」

「ススクさんですね。家名は無し、と。よろしければ、これまで何をしていたのか教えてもらってよろしいでしょうか?」

「ロマニスタの田舎で、家業を手伝っていました。一流の冒険者になりたくて、故郷から出て旅をしてきました。ここに来たのは、王都だと故郷が近くて甘えてしまう気がして」

「分かりました。冒険者ギルド・アイスブランド支部は、貴方を冒険者として認めましょう」


 ハンコが押され、契約書を渡される。こうして今日から俺は冒険者となった。


 冒険者になった理由は二つ。

 一つは単純に金のため。異国で頼れる人間もいない素性を明かせずに済む。そんな条件で稼げる仕事といったら冒険者しかなかった。傭兵になるという手もあるが、現在はこの共和国で大きな戦争はなく、そんな状態ではどこぞの誰とも知らぬ人間を雇ってくれるわけがない。その他はもう表に出せない違法な仕事しかないだろう。


 もう一つは、少し違うが端的に言ってしまうと「名声」だ。


(俺を処刑から救ってくれたマリィベルとは、この共和国でまだ会えていない)


 俺たちと王都から離れたはずの彼女は偽物だった。

 しかし分身が消えて途方に暮れていた俺がポケットの違和感に気付いて手を入れると、そこには手紙があった。


『パルタ様。脱走を成功させるため、わたくしはしばし囮となります。アイスブランドで落ち合いましょう』


 書いてある通りなら、マリィベルはきっと共和国に来ているはずだ。

 しかしお互い逃げる先は共和国としか決めておらず、具体的な場所はなにも示していなかったのは手落ちだった。まあお互い土地勘もないうえ緊急事態でそこまで頭が回らなかったのも仕方がないだろう。

 なのでとりあえず俺は冒険者になって少しでも有名になることで、マリィベルに自分の存在を知らせたかった。


「ふふふ。待っていろ富と名声と幼馴染」

「マスター。ロボも冒険者に認められましたー」

「へー。ゴーレムでもなれるものなんだな」

「最新型ゴーレム差別ですね。マスター、次は法廷でお会いしましょう」

「おまえもほんと色々喋れるようになったね」


 共和国に来て、三日。

 どうやら学習機能というもので人の会話を覚えているらしく、人の多い場所にいることで段々とロビーナは人間らしく話せるようになってきているそうだ。


「マスターさっき独りで笑っていましたけど」

「悪いか?」

「はい?」

「独りで笑ってなにか悪いことしたか? 薄気味悪いやつだなって暗に言ってるのか?」

「言ってません。悪趣味なジョークとはいえ、マスターがそんなことを口走るなんてやはり精神的ステータスが良好なのですね」

「分かるか。分かっちゃうか?」

「はい。ロボはマスターのサーヴァントですから」

「まー一年ちょいとはいえ、ほとんど寝食共にしながらずっと一緒にいるしな……じゃあ教えるけど、実は俺、英雄っていうのに子供の時ちょっと憧れたことがあってな」


 英雄というのは複数あるが、最も数多くを輩出しているのは冒険者といっても過言ではない。

 未知への冒険、好奇心をそそる宝物、強大な怪物を勇気ある人間たちの手で倒す。吟遊詩人から語られる冒険譚に、憧れない男子は少なくなかった。その時の従者に無理を言って、身分を隠して城下町の酒場にひっそりと聞きにいったのは懐かしい。そういえば同年代の貴族の子たちと一緒によく英雄ごっこをしたな……マリィベルの頭を叩いたのは今思うととても悪いことをした。


 ちなみに精神ステータスが良好というのは、上機嫌ということだ。だんだんロビーナの意味不明な単語が分かるようになってきた。


「マスターの好きなものは英雄、と。上書き保存しました」

「いや今は違うからな。もう子供じゃないんだから」

「でも、さっきまで嬉しそうでしたよ。()()()()がありましたが、三秒前のマスターの笑顔は73%です」

「意味不明な数字を出すな」


 新人冒険者の方ーこちらへどうぞー


「はい」


 受付嬢が俺とロビーナを呼ぶ。ここで突っ立って雑談をしていたのは、別になんの目的がなかったわけじゃなく俺たちに用があるとのことだった。


 さっきまでいたカウンターに戻る。すると机の上には、水晶が置かれていた。


「これはなんですか?」

「LV計測器ですね。昨今プライバシーというものが大事にされるようになってきましたが、やはり冒険者たるものギルド側としてもも実力を把握しておかねば依頼を頼むことはできません。なので申し訳ありませんが、こちらは必ず受けてもらいます」

「そうなんですか……まあ別にいいですよ」

「ありがとうございます」


 言ってることがもっともなため、断る必要もない。


 それに正直、俺には自信があった。


(勝てなかったとはいえ、元三英雄のクラッスと対等に渡り合えたんだぞ俺は。それにステータスそのものならともかくレベルだけなら誰にも負けないと思う)


 奴隷のステータス補正率そして元々そこらへんは俺自身も低いLV数に比べれば俺の能力自体は低い。しかしLVだけなら青天井で成長し続ける俺に敵は無かった。


 柄にもなくドヤ顔で俺は水晶に手をかざす。


「少しタイミングがありまして、わたしが言ったのに合わせて、ブンババドドンドンパと唱えてください」

「はっ?」

「ブンババドドンドンパ。はい三秒後に手でウサギを作りながらお願いします」

「急にめんどくさい条件を追加しないでくれる!? ブンババドドンドンパ!」


 ちゃんと言えたらしく、水晶に数字が浮かび上がる。


〈職業:【奴隷】〉

〈LV:1〉

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