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知恵者の領地経営  作者: 仰向けペンギン
8/25

8



【弟の反乱】



た、大変だぁ!


この平和なシュヒトー領で反乱が起きちまっただぁ!!!




おいら、シュヒトー領軍隊長トロロ・モンロは反乱発生の報告を聞いてすぐに領兵を率いて領主邸に向かった。

そして領主邸に到着して唖然とした。


この領の象徴。領主邸は鍬や包丁で武装した反乱軍で囲まれていたんだ!

反乱軍の数は45人。

その上、部下からの報告では領主邸内にも賊が数人入り込んでいるらしい。

作業をしていたメイドやジミー代官殿が人質に取られているという。


幸い次期当主であるシュバルツ様は占領時に領地視察に出ており無事だという報告だ。

ただし妹のマリー様が人質に取られているらしい。

弟のゲスゲス様の所在も不明だ。

もしかしたらゲスゲス様も人質に取られているかもしれない…。




現場に到着したおいらは想定外の事態に頭を抱えた!


「た、隊長!おらたちどうすれば!?」

「と、とにかく領主邸を賊ごと囲むんだぁ!一人も逃がさないようにしっかり囲めぇ!!!」


おいらは一先ず領主邸ごと賊を囲むよう領軍に指示を出す。

部下は素直に従ってくれて包囲陣が敷かれた。


「お、おいらはこれからどうすればいいだぁ…?」


おいらは想定外の事態に右往左往する。


おいらには実戦経験がない。

ここ数年、帝国には大きな戦争がおきていないからシュヒトー領領軍を率いて出兵したことはないし。

父上の跡を継いで領軍隊長になってから魔物の侵攻(スタンピード)も起きていない。

小さな魔物の襲来は冒険者が食い止めてくれる。

だから領軍は訓練ばかりしていた。


反乱鎮圧という就任以来初めての領軍らしい活動に何をすればいいか分からない。

ど、どうするだぁ?

どうすればいいだぁ??

と、とりあえずシュバルツ様に早馬を出した方がいいだか???



『ーーーゲスゲスゲス!そこにいるのはトロロであるな!?』



領主邸の2階から大声が届いた。

おいらは釣られて声の方を見上げる。


領主邸の2階から顔を覗かせていたのはシュヒトー準男爵家の次男、ゲスゲス様だった!


「ゲ、ゲスゲス様!ゲスゲス様も反乱軍に捕らえられていたのですかぁ!?」


こ、これでマリー様に続いてシュヒトー家の2人が人質に…。

な、なんてことだぁ…。


戸惑う俺を余所にゲスゲス様が叫んだ!



『違うであるよ!我輩こそこの領民達を率いているボス!ご老公と共に領主邸を支配に置いた当事者である!!!』



「な、なんでだってぇ!!??」






なんと反乱軍のリーダーはーーーシュバルツ様の弟のゲスゲス様であったのだ。









あのあとゲスゲス様に代わり老公が2階から顔を出した。

そして3つの事項をシュバルツ様に伝えることを要求してきた。


1つ目に『すぐにシュバルツ様が領主邸まで来ること』。

2つ目に『領主邸に攻め入れば人質を殺すこと』。

3つ目に『人質の中にはマリ-様もいること』。


おいらはすぐにシュバルツ様に早馬を出した。

おいらの手に負えることじゃねぇだ。

シュバルツ様の指示を待つべきだぁ。




それから太陽がいくらか下がって。


シュバルツ様が領主邸に到着した。

後ろには凄腕のフーザ殿もいる。

もし荒事になってもフーザ殿さえいれば大丈夫だぁ。

反乱軍全員を鎮圧してくれるだ。ふぅと一安心。


「状況は?」


シュバルツ様が馬から下りながら尋ねてきた。


「か、変わっていないですだ。領主邸はゲスゲス様率いる反乱軍に占領中。人質に手が加えられた様子もないですだ」

「反乱軍の正体は?」

「名主共の農業奴隷たちだ。小麦の納税のために領都内への入都を許可したら、そのまま蜂起して領主邸に押しかけたみたいだぁ」

「分かった。俺が到着するまでの領軍の指揮、ご苦労だったトロロ」


シュバルツ様がおいらの肩に手を置き労ってくれた!

な、なんて慈悲深い方だぁ。

おいらには反乱軍を領都内に入れた失敗があるのに…。

グスンッ。




ーーーガチャリッ。




領主邸のドアが開いた。

領主邸から大きな身体(デブ)の男が2人出てきた。

ゲスゲス様と老公だ。

さらに2人。

護衛と思われる大柄な男も出てきた。

傭兵だろうか?顔に裂傷痕がいくつもあって粗忽で野蛮な感じだ。

老公が金を使って雇ったんだろうなぁ。



「ーーーやっと参られましたな兄上!さぁ1人でここまで来て貰いましょう!話し合いの時間ですぞ!」



「ひ、人質なんて取ってたら話し合いじゃねぇだぁ…」


な、なんて卑怯なぁ…。

ゲスゲス様も子供の頃は純真な子だったのにこんな悪漢になってしまわれて…。

これも全て名主共がゲスゲス様に近づいたからだぁ。



ゲスゲス様と名主共の蜜月の関係は3年間に及ぶ。

シュバルツ様が領主になるための勉強をするために帝都に向かわれて以降。

シュバルツ様という強敵が消えた名主共はゲスゲス様に近づいた。

盛大な催しや宝飾品を渡し、ゲスゲス様の心を懐柔していったんだぁ。

おいらとジミー殿もなんとか防ごうとした。

でも贅沢を覚えたゲスゲス様は自ら名主共の下へ行くようになってしまった。

それ以来ゲスゲス様と名主共は蜜月の関係。


きっと名主共がゲスゲス様を洗脳したんだぁ。

可哀想にゲスゲス様ぁ。


「分かった!今向かう!」


勇敢にもシュバルツ様はたった一人で農奴の包囲網に入った。

そして反乱軍と領軍の丁度中間地点で立ち止まった。


「ここで話し合うぞ!異論は認めない!」

「な、何を言うか!!貴様は命令できる立場ではない!人質がどうなってもいいのか!?」


老公がしわくちゃな顔を歪めながら叫んだ。


そ、そうだよぉ…。

納得いかねぇけど、人質のために反乱軍を挑発しねぇ方がいいだよぉ。


「まあまあご老公。いいではありませんか?両軍の中間とはいえ、実際には両軍の内側には我輩らの農奴がいます。ここは敵の要求に応じ、懐の広さを見せるのも上位者としての務めでありますよ」


おいらが冷や汗をかきながら緊迫した状況を見守っていると。

意外にもゲスゲス様がご老公を諫めた。


「む、むぅ…。ゲスゲス殿がそこまでおっしゃられるのなら…。ただし儂らは護衛を連れていきましょう。話し合い中に卑怯にも矢を射る者がいないとも限りませんからな!」


ひ、卑怯ってなんだぁ!?

人質を取っている自分達の方が卑怯じゃねぇが!?

おいらは必死に自分の怒りを押し込める。

今、シュバルツ様の邪魔をしちゃいけねぇだ。

我慢、我慢だぁ…。


ゲスゲス様と老公が護衛2人を連れてシュバルツ様の下まで歩み寄った。

相対する3人。


「愚かなことをしてくれたなゲスゲス、それに老公」


護衛も合わせれば4対1の状況。

にもかかわらずシュバルツ様は怖じ気づかず、一番先に口を開いた。


「何をおっしゃいますか兄上。これは全ては未来のシュヒトー領のためです。兄上も我輩の蜂起理由を聞けば納得するでしょう」

「まさしくゲスゲス様の言うとおり」


シュバルツ様は眉を顰めて怒気を滲ませながら。

ゲスゲス様と老公は邪悪な笑みを浮かべながら口を開いた。



「要求はなんだ?」



シュバルツ様が本題に切り出しただぁ!

なにをあいつらは要求してくるだか。

耳を澄ましてゲスゲス様の言葉を待つ。




「ーーー要求は『兄上が次期領主の座を我輩に譲り、出家すること』であります。兄上には家の名を捨て教会で暮らして貰う。これに応じて貰えなければマリーの命はありませんぞ?」




「じ、自分自身の家族を人質に取るなんて…」


おいらはあまりの残酷な仕打ちに思わず声を出してしまった。

小さな呟きだったから3人には聞こえていないみたいだぁ。

よかったぁ。


「…………」


シュバルツ様は深く眉を顰め熟考していた。

領主の地位を譲り、マリー様を救うか。

マリー様を見捨てて、領主の座を取るか。


「……お前に次期領主の座を譲る正当性がない。俺が継承を認めても帝国がお前の継承を認めない」


シュバルツ様が熟考の末、口を開いた。


そ、そういえばそうだぁ…。

領主の座を譲るか譲らないかと簡単に考えてたけど。

武装蜂起で領主の地位が変わるようなら国中で反乱がおきるはずだぁ。


領主の地位は帝国が認めることで保証される。

立派な理由無しに長男であるシュバルツ様の相続権が失われることはねぇはずだぁ。


シュバルツ様の尤もな懸念を聞いたゲスゲス様。

これでゲスゲス様も諦めるだぁ。


しかしおいらの予想は外れてゲスゲス様はーーー笑みを浮かべた。

ゲスゲス様が懐から書状を取り出した。



「いや正当性ならありますぞ。ここにーーー父上の遺言書があります!これには後継者として我輩を指名するとあります!これを帝国内務省に提出すれば帝国も我輩を認めざるを得ない!?どうですか兄上!?我輩の完璧な作戦は!?」

「まさしく完璧でございますゲスゲス様!流石次期領主の器!ゲスゲス様を差し置いてシュヒトー家を継ごうとするなど片腹痛いわ!!!」



な、なんていうことだぁ…。

まさか先代当主様がそんな遺言を残しているなんて…。

も、もう駄目だぁ…。

ゲスゲス様が跡を継ぐ立派な理由も出来てしまった。


シュバルツ様が可愛いマリー様を見捨てられるはずがねぇ。

シュバルツ様が赤ん坊の頃から見ているおいらには分かる。


シュバルツ様はマリー様のことを命より大事に想ってるだぁ。



「……マリーの命を本当に助けてくれるのだな?」



ほ、ほらぁ…。

シュバルツ様がマリー様を見捨てられるはずがねぇんだぁ…。


シュバルツ様の言葉を聞き老公が満面の笑みを浮かべた。

ゲスゲス様も笑顔になる。


「勿論でございますよ兄上。今部下のマララークが妹の面倒を見ています。無傷でお渡しすることをお約束しましょう」


マ、マララーク殿が裏切った!?

マララーク殿といえばシュバルツ様の忠臣の1人だぁ。

そんな人にまで手を伸ばしていたとは…。


随分周到に今回の計画を練ったのだろう。





ーーーもはや、ここまでだかぁ…。


おいらも諦めかけたが。





「……いや、やはり駄目だ。その要求は受け入れられない」




『ーーーは?』




領民全員の呆けた声が重なった…。


シュ、シュバルツ様が…マリー様を見捨てる…?

そんな…あり得ない。あり得るはずがないだ。


老公も眼を限界まで見開いて、口を半開きにした。

驚きで口が塞がらないみたいだぁ…。


かくいうおいらも驚きで口が塞がらない。




「何度も言わせるな。その要求は呑めない。俺は武力を以てお前達を制圧することを今ここで決めた」


「ーーーな、何をいうか!?貴様の妹が人質に取られているのだぞ!?最愛の妹の命がどうなってもよいのか!?」




驚きで口が塞がらない老公。

涎が飛び散るのも気にせず狂乱している。

シュバルツ様に指を指して、マリー様の命を殊更主張した。



「仕方ない。妹も愛する領民のためなら喜んで命を投げ出すはずだ。マリーはそういう子だ。そういう優しい子だからこそ、俺はマリーのことを愛している」



落ち着いた様子のシュバルツ様。

あの冷静さは…覚悟を決めたということかぁ?。


でも…どうしてもシュバルツ様がマリー様を見捨てられるとは思えない…。



「ーーーは、はったりだ!!!貴様が妹を見捨てられるはずがない!!!」



老公も現状を信じられていない様子だ。


しかしそんな老公を置いてシュバルツ様が片手を挙げた。

そして宣言した。





「ーーー領軍総員、槍を構えよ」





疑念はあれどシュバルツ様の命令に従わないわけにはいかない。

領兵全員槍を構え、矛先を領主邸を囲う農奴に向ける。

自分を狙う槍に農奴が響めいた。

まさか本当に争いになるとは思っていなかったんだろう。

専業戦士の領兵に農奴が叶うわけがない。

動揺する農奴。


彼らの主人も狼狽えていた。




「な!?貴様本気なのか!?本気で妹を見捨てる気か!?ば、馬鹿な!貴様に限ってそんなことあり得るはずがない!!!」




大きな頭を抱えて嘆く老公。

想定外が重なって、狂ってしまったみたいだ。

領主への反逆という大罪を犯したんだ。

自業自得だぁ。



そして遂に領主様の片手が下ろされようとする。





「ーーー全軍ッ!とつげーーー」



「ーーーい、嫌だぁぁぁ!死にたくない!死にたくないぃ!!農奴共ぉぉぉ!!!あいつを殺せ!!儂が逃げる時間を稼げぇぇぇ!!!!!」





老公は声を挙げると同時に領主邸へ駆けた!

脂肪を揺らしながら、地面を這いながら。

領主邸へ逃げ込もうとしている。

護衛の傭兵も老公を背に守りながら退却した。


残されたのはーーーゲスゲス様とシュバルツ様。


『ーーーう、うおぉぉぉ!!!』


老公に命令された農奴が動き出した!


まずい!

シュバルツ様の下へ向かっている!

農奴共の方が領兵よりもシュバルツ様に近い。


このままでは単身のシュバルツ様が襲われる!!!


おいらは目の前の農奴の(くわ)を躱し、シュバルツ様の下へ向かおうとした。


そのとき。







「ーーーフーザァァァァァ!!!!!!」




「ーーーあいよ!シュバルツ様!!!」




ーーーおいらの横を剛風が走った。


突風に思わず眼を瞑り、開ける。




一瞬にも満たないその間。


シュバルツ様の前に護衛のフーザ殿が立っていた。



ーーーそうだ。

シュバルツ様のピンチに忘れていたが、この場にはフーザ殿がいた。

底の見えない実力を持つフーザ殿。

フーザ殿がいる限りシュバルツ様は安全だぁ。




「ーーーハァァァ!!!」


フーザ殿が拳を構え、地面に叩き込んだ!




ドーンッ!!!




拳が生み出した旋風に誰もが顔を手で覆った。

突風は砂塵を舞い上がらせ、衝撃が戦闘を一時的に止めた。


砂嵐がやんだとき、全員が驚愕した。


フーザ殿の拳に地面が耐えられなかった。

フーザ殿の足下に巨大なクレーターが生まれていた。

大きな池程の陥没。



「……………」



誰もが息を呑んだ。

もしあの拳が自分に向けられたら…。

そう思うと農奴に戦い続ける気はなくなっていた。

農奴は手に持つ武器を手放し、地面に膝をついた。

降伏だ。


一撃で決着がついた。


「ーーーしゅ、シュバルツ様ぁ!!!」


おいらは農奴共の隙間を縫ってシュバルツ様に近づく。


「ご、ご無事だかぁ!?どこか怪我してたりしてねぇか!?」

「大丈夫だ。問題ない」


シュバルツ様はおいらに答えると隣に立つゲスゲス様に眼を向けた。


おいらもそこでゲスゲス様の存在を思い出す。

ゲスゲス様は反乱の主犯だ。

いつシュバルツ様に手を挙げるか分からねぇ。

早めに確保しねぇと。


おいらが腰の剣を抜こうと鞘に手を当てると、何故かフーザ殿がおいらの手を止めた?



なんで?目の前のゲスゲス殿は犯罪者だよ??



「よくやったゲスゲス。これでやっと名主共を合法的に潰せる」

「いやはや流石に3年間の潜入任務は疲れましたぞ兄上。今夜は兄上の秘伝の酒を開けさせていただきますぞ」

「勿論だ。本当によくやったゲスゲス」



シュバルツ様がゲスゲス様の方に手を置き労っている?


それに潜入任務?3年間???



「え、えっと…こりゃぁどういうことですか?」



おいらは状況が飲み込めない。

お二方に尋ねる。


するとゲスゲス様が大きく口に弧を描いて笑った。

そして言った。




「我輩はこの領地の癌である名主共を潰すために暗躍していたのであるよ!この度の反乱は名主共を潰す最後の1手であったのであるッ!!!」




「え、え~~~~~!!!???」





【次話 反乱の真相と領主就任 】



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