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知恵者の領地経営  作者: 仰向けペンギン
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これは後生の歴史家に【魔道候】と呼ばれることとなる少年の物語。



※※※※※※※※※



【訃報】




【ダンケルク大帝国】。

西方大陸の1/4を支配する雄であり圧倒的な軍事力を背景に領土を拡大。

人口は今や100万を優に超える超大国だ。


その帝都、【ダンケルク】に鎮座する帝国最大の図書館。


【帝国中央大図書館】。

蔵書数は10万冊を超え、大陸最大の図書館とも呼ばれている。

娯楽小説から哲学書まで。

帝国内で発行されたあらゆる書物が保管されるその図書館に、1人の少年がいた。


15歳の端正な顔立ちの少年。

眩い銀髪を揺らしながら、今日も彼は知識の大海に沈んでいた。


「……おい見ろよ…。あの子今日もいるぞ…?」

「ん?あぁ、【図書館の妖精】君かぁ…。これで300日連続だね」

「あんな子供が本ばっか読んで飽きないのかね……?」


図書館の司書達が怪訝そうな目で少年を見つめている。


【図書館の妖精】と異名のついた少年。

彼はここ1000日以上毎日図書館に脚を運んでいた。


一般的な15歳の少年は本よりも運動を好む。

しかし天才に分類される彼は違った。


どれだけ本を読んでも少年の知識欲が満たされることはなく。

哲学や農耕技術、鉄鋼技術、魔法体系など。

ジャンルに関係なく、この3年間図書館の蔵書を読み漁っていた。


今日も今日とて少年は1日中図書館にこもり、本を読み漁るつもりであった。





ーーーその手紙が届くまでは。












「ーーーあ~シュバルツ君!ここにいたのかい!」



《シュバルツ・マルク・シュヒトー》

領地貴族、【シュヒトー準男爵家】の嫡男である俺の名前だ。


丁度読み終わった【製鉄】の指導書から目を離す。

そこには顔馴染みの中年の男性が立っていた。


「これはダスカー男爵閣下。おはようございます」

「おはようシュバルツ君。それと閣下などと止めてくれ。君と私の仲じゃないか」


最近気になり出したというポッチャリお腹を擦りながらダスカーさんが笑った。


《ダスカー・マルク・ディセイベルク男爵》

帝都に在留する法衣貴族【ディセイベルク男爵家】の当主であり、数年前からこの図書館の館長を拝命している男爵様。

3年前から毎日のように図書館に通う俺に声をかけてくださり、それ以来旧知の仲となった。

俺の数少ない友人だ。


「フーザ殿も元気そうで何よりだ」

「男爵閣下にお声がけいただけるなんて光栄の極みって奴ですね」


先程まで本を読む俺の隣で退屈そうにしていた護衛のフーザ。

流石にフーザも男爵が来ると襟を正した。


「ところでシュバルツ君、今日も頼まれてくれるかい?」

「勿論です。今日はどんな本をお探しですか?」

「《北部伯爵閣下》から頼まれたものさ。これが依頼書だ」


悪いねと謝りながら植物(パピルス)紙を見せてくるダスカーさん。


ダスカーさんの図書館長の仕事には、大貴族様への本の配達依頼がある。

依頼の度にダスカーさんは蔵書数10万を超える大図書館を駆け回らなくてはならない。

本1冊探すのも手がかりがなければかなり時間がかかる。

だから俺も頻繁に協力していた。




植物(パピルス)紙にはこう書かれていた。




ーー《北部伯爵閣下のご要望の書物》ーー


・【基本四大魔法と派生魔法大全】

火・土・水・風の《基本四大魔法》と光・闇などの《派生魔法》の種類を完全網羅した書物。

宮廷魔法師を目指す若手魔法いは必見。


・【帝国選抜官僚試験 対策教本】

ダンケルク大帝国の選抜官僚試験を突破するための教本。

過去5年間の過去問題を併記し、傾向と対策を記している。


・【現役娼婦が教える男性を褥へ連れ込む方法】

最近夫からの愛を感じられない女性必見!

跡継が生まれない貴族婦人の不妊対策としてもおすすめ!


・【英雄タルタイアの伝記 4巻】

かの【A級冒険者タルタイア】の40歳までの人生を振り返る伝記の4巻。

本巻はB級モンスター【ゴブリン王】との一騎打ちの続き。

遂に【ゴブリン王】との戦いに決着が!?



ーー計4冊ーー




俺はメモを見て、一瞬で配下場所に検討を付ける。



「娼婦の本以外は全て読んだことがあります。案内しますよ」











「いや~ありがとう!まさか娼婦の本の場所にも検討がついてたとは!」


全ての本を見つけるのにそこまで時間はかからなかった。

俺は今日までにこの大図書館の蔵書の半分以上(・・・・)を読み終えている。

1度読んだ本の内容は忘れない。

その配下場所も忘れない。


「俺がまだ読んでいない蔵書は少ないですから。消去法で辺りをつけたんです」

「さすがシュバルツ君だ!本当に君がまだ15歳なのが信じられないよ!」


ダスカーさんは嘘のつけない人だ。

彼が褒めているときは心の底から褒めているとき。

だからこそ、悪い気はしない。思わず照れてしまう。


そこでダスカー男爵があっ!と何かを思い出したかのように呟いた。


「ーーーそういえば受付で宿屋の店主が君を探していたよ」

「トニーがですか?」


俺と護衛のフーザは今宿屋に滞在している。

本来貴族なら帝都に別邸の1つでもあるはずだ。

しかし準男爵にすぎないシュヒトー家に別邸など高価な物があるはずもない。


領地経営の勉強をするために帝都に留学するに当たり、3年もの間、安宿に泊まっていた。

その宿の主人であるトニーが俺を探しに態々図書館まで来た?

どうしたのだろう?


「君宛に速達の手紙が届いたらしい。代わりに僕が受け取っておいたよ!」

「あ、ありがとうございます…」


ダスカーさん相手とは言え、他人(ヒト)に俺宛の手紙を渡すか……?

安宿の主人の雑さに頭を痛めつつ、男爵から手紙を受け取る。


「それじゃあ僕はこれで!今日も助かったよ~!またいつか我が家でチェスでも打とう!!!」


ダスカーさんが手を振りながら去って行った。

俺は男爵から受け取った手紙を開く。



「―――ッ!?」



「どうしたんです大将?そんなに驚いて?」





「―――父上が逝ったらしい」





「!?え、まじですか!?」

「……ああ。おそらく事実だ…」


俺の父上は3年前から体を壊していた。

徐々に身体の自由が利かなくなる病にかかっていたんだ。

特にここ1年は寝たきりになっていることを妹から届く手紙を読んで知っていた。


俺も心配だったが、病に伏せる父に付ききりでいるわけにもいかなかった。

俺にはシュヒトー家の嫡男として帝都で領地経営の勉強をする義務があったから。

刻一刻と父上の死が近づいていることは分かっていた。

1年もあれば覚悟も決まっていた。



ついにこの日が来たかぁ……。






「ーーーすぐにシュヒトー領へ帰るぞ」





フーザが頷いた。







さあ帰ろう。


1年振りの故郷へ。



ーーー愛しの妹が待つシュヒトー領へ。






ーーーアイラブマイシスター。


ーーー待っててくれ妹よ。






ーーーお兄ちゃんが今帰るぞ!!!








※※※※※※※※※




この日から、シスコンの領地経営が始まるのだった。







(マリー)との再会】





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