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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

短編集

報復の勇者(笑)

作者: ぽいずん

構想30分(風呂場にて)執筆30分

生ぬるい目で軽くどうぞ◝(⁰▿⁰)◜

「お疲れっしたぁ!」

「おうお疲れさん、明日もよろしく頼むな」

「はいっ!」


 本日の業務が終わり退社となった。後は晩飯を買っていつもの場所に行くだけだ、多少高いが晩飯はコンビニ弁当で良いだろう。




 どうもこんばんわ。

 俺は巣鴨正一すがもしょういち、22歳だ。2004年に北海道で生まれ、ごくごく普通に暮らしていたはずの独身男性だ。


 ちなみに今の職場は土方系の人材派遣会社で日雇いアルバイトをしている。

 なぜ22歳の若さで日雇いなんてやっているのか… それを説明するためには、過去俺に起きたある出来事を話さなければいけない。


 ちなみに今は埼玉県草加市にいるんだが… 現在1995年の8月だ。

 おかしいだろ? 2004年生まれの俺が1995年で22歳なんて、俺もおかしいと思っている。


 簡単に説明すると、俺は2020年の6月、15歳だった時に蔓延していた感染病がボチボチ落ち着いたかと思われた時期に突如異世界にあるクラウン王国に召喚され、勇者として魔王を討ってくれって言われたんだ。

 もちろんそんなの知った事じゃないし、俺は俺で高校1年生として青春をする予定があったんだから断ったんだよ。


 これ以上語るとなれば少しばかり長くなるけど聞くかい? そうか、んじゃもう少し語ろうか。



 俺を召喚した連中が言うには…

 元の世界に帰るには魔王が持つといわれる『時空の石』がないと送還できない事。

 勇者として貢献しないと国として支援を行う事が出来ない事。

 魔王を討伐しないといずれこの地も滅ぼされてしまう事。


 こんな事を言われちゃ、いくら胡散臭いからと言っても応じるしか手はなかった訳だ。



 そんなこんなで、ゲームのように壁役の騎士、攻撃魔法のエキスパートである賢者、そして回復魔法の専門家である聖女と共に、勇者パーティが結成されたんだ。


 とはいえ、この3人は全員クラウン王国の関係者で、辺境伯家の次男である騎士カムリ、子爵家長女である賢者セリカ、そしてクラウン王国第三王女である聖女ノア。


 名前のほかにもミドルネームや家名なんかもあったんだが、興味ないから覚えなかった。


 ホントこいつらは無駄に意識高い系で、偉そうで傲慢で… 更に弱いという完全なお荷物だった。

 召喚されてから魔王を討伐するまでに6年以上もかかり、それでもほぼ俺1人で討伐を完了する事が出来た。魔王と相対するまでの間、俺自身も魔物を相手に常に実戦訓練を積んでいて、剣に対応するスキルや勇者にしか使えないと言われる魔法とかの修行も頑張った結果だ。


 討伐後、話に聞いていた『時空の石』を探し、他にも抱え込んでいたと思われる財宝を持てるだけ持ってクラウン王国に凱旋したんだ。


 長い旅路もようやく終わり、例の『時空の石』で帰れるなら最高の結果、もしもそれが嘘だったとしても、意外とこの世界にも愛着が沸いてしまっていたので、それでもいいかって思っていたんだ… あの事が起きるまでは。


 王城に到着した俺達は、謁見する前に他の連中が一度家に帰ると言い別れたんだ。

 もちろん魔王城から持ち帰ってきた貴重な財宝は国の預かりとなり、全て渡すように言われ、他の連中も文句を言わずに差し出したから、ついつい俺も渡してしまったんだよ。

 装備していた剣や鎧も…


 そして事件が起きた。


「勇者ショウイチは魔王と繋がっていたことが判明した! このような者に勇者を名乗らせるわけにはいかないし、我が国を裏切ったショウイチには厳罰を与えるものとする!」

「はぁ? 一体何がどうなってそんな結論になるんだ? きちんと全てを説明しろよ!」

「貴様の言う事など聞く価値すらないわ! 貴様のような極悪非道な人間に罰を与える!」


 俺の話など一切聞こうとせず捲し立てる偉そうな貴族。

 国王の近くにはカムリ、セリカ、ノアの3人が並んでいたので俺は怒声を浴びせかけた。


「おい! 一体どういう事だ? お前達は最初から最後まで見ていただろう!」

「ええ、見ていましたわ。これはそのうえでの決断ですの… 貴方のような下賤な者に勇者の称号など分不相応、これ以上我が国に居させるわけにはいきませんわ」


 ノアが厭らしそうな下品な笑みを浮かべながらそう言い、カムリもセリカもニヤニヤして見ているだけ。

 そこで国王が玉座から立ち上がり宣言した。


「我が国に災いをもたらす偽勇者に罰を言い渡す、貴様への罰はこの世界からの追放だ!」


 は? この世界からの追放?


 一瞬頭が白くなりかけたその時、第三王女ノアが魔王城で手に入れた『時空の石』を手に持って近づいてきた。


「『時空の石』よ、その力をここに!」


 その瞬間魔法陣が現れて輝き出し、俺の体はその光に包まれた。そして次の瞬間… 俺は1995年の埼玉県にいたという訳なんだ。



 長い話だったが聞いてくれてありがとう。

 さすがにこんな話… 誰かに相談できる事じゃないだろう? 

 そして、俺が日雇いの仕事をしている理由はここなんだ、俺には身分を証明するものも無ければ国籍すら無いという事。

 所謂住所不定の不法滞在者って訳だ、当然まともな職場に就職できるわけないだろう? でも、今の時代は日雇いには優しく出来ていて、日給は6500円とあり得ないほど安いが、適当な履歴書だけで働く事が出来るんだ。


 生きていくにはお金が必要だからな… それに、勇者として鍛え上げた肉体だと、土木系の肉体労働くらいじゃ疲れもしない。


 …そう、勇者として鍛えていた部分がそのまま生きているのだ。もちろん魔法だって使える、その気になれば、スーパーなんかに行って、適当な食材を空間魔法に収納してしまえば、誰にもバレずに窃盗を働く事も出来る… さすがにやらんけど。


 そして、今俺を動かすモチベーション… それは、俺をコケにした連中にきっちりと報復する事!

 『時空の石』で飛ばされる直前に見えた魔法陣は覚えているので、異世界にいた6年で培った魔法知識を用いて解析する事に成功。


 そう、俺はもう一度あの異世界に行ってやろうと行動しているんだ! 

 あのふざけた連中に報復するためにな!


 異世界では普通に存在していたマナという魔法物体、空気中に含まれている物なんだけど、なぜか日本にはそれが無い。

 なので、自前の魔力だけであの魔法陣を起動しなければいけない。これがとにかく時間がかかる…


 報復をモチベーションに変えて、完全に見知らぬ世界である1995年の日本を生きている… しかし、この1年間働きながら魔力を貯め込み、もうすぐ魔法陣が起動できるという所まで来ている。


 この1年は辛かった… なんせ雨の日も風の日も、雪が降った日だって野宿なんだからな! こんな稼ぎじゃ部屋を借りる事も出来ないし、生活魔法を使えばいつだって清潔でいられるからなんとかなった。


「でも、あと数日でこの生活も終わる… こんな俺を雇ってくれた社長には申し訳ないが、日雇いの人間が姿をくらますなんて良くある事だと割り切ってもらおう」


 今日も弁当を購入後、いつもの橋の下に入り込んで報復手段を考える。

 いくら勇者としての力があるからと言っても、一つの国を丸ごと相手にするには少々分が悪い。さすがに無関係な国民に被害をもたらすわけにはいかないからな…


 拾った段ボールで作ったマイハウスに入り、魔法で作ったお湯をカップ麺に注ぎ込む。この橋の下は他にも浮浪者が数名いるから、あんまり良い匂いを充満させたくはないが、ここは食欲を優先する。


 唐揚げ弁当をつまみながらカップ麺をすする、徐々に胃が満たされて体がホカホカしてくる。


「さて、どうやって報復してやろうかな… やっぱり俺を直接裏切ったノアなんかは一番派手にやってやらなくちゃ気が済まないよな」


 もりもりと食事を進めながらも考える。

 やはり一国の王女としてあり得ないほどの恥をかかせてやるのが一番効果的だろう、国民の前にひん剥いて晒してやろうか… いや、それは人間として問題があるか、どうするか。


 元々一般人として暮らしてきた正一は、魔物を殺す際も最初は戸惑い手が鈍るほどのお人好しだ。いくらひどい目に遭ったからと言って、命を奪う事は論外、人道的にヤバイ事も躊躇ってしまう。


 食事を終え、食べ終わった弁当の入れ物は空間魔法により、空間の狭間に廃棄する。8月の暑さはすぐに食べカスを腐らせて悪臭がするからな。

 片付けを終えると、段ボールと新聞紙を敷き詰めた場所に寝転ぶ。日本であれば結界を張らなくても寝込みを魔物に襲われる心配は無いからな、あるとすれば通報を受けてやって来た警察くらいだから、それであれば逃げる事は簡単だ。


 よし、考えるのは明日にして体を休める事を優先しよう。明日は朝からセメントを8tも手下ろししないといけないからな… 俺は平気だけど、セメントの手下ろしは非常に大変な重労働だ。一袋25キロもあるからな、しかも袋が脆いせいで、3袋以上持とうとすると破れてしまう危険性がある。


 まぁ俺も会社では力自慢のように振舞ってはいるけど、さすがに3袋持てる奴なんかそうそういないから自重してやってない。




「はっ! もう朝か」


 昨日はすぐに寝てしまっていたようだ、時計を見ると5時になっていた… 東の空がうっすらと明るくなっている。


 今日も仕事に行く前に、魔法陣の起動用に作ってある魔道具に魔力を籠める。

 もうほとんどMAXな状態だな。正確に言えば99%を少し超えている状態だ… その気になれば今すぐにでも満タンにできる…


「どうする… 魔力を籠めて起動してしまうか? でもそれだとセメントの仕事を俺抜きでやる事になってしまう同僚が可哀想だ… どうする?」



 俺の心の中では、この魔法陣を使って異世界に行く事は決定事項だ。なぜならば… 日本に住むとなれば、国籍が無いというのは致命的だからだ。

 そんな奴を雇う企業なんて派遣くらいだし、何よりも俺は2020年までの日本の動向を知っている。

 国民を管理するための制度が色々増える事を…


 少しでも自分の幸せを考えたら異世界にいる方が間違いないだろう。

 日本にいてメリットになる事と言えば… 住所不定で浮浪者をやっている俺にとっては食事だけ… なんだよな。

 それに、向こうでも頑張れば旨い物も多分作れると思うし… よし!


 8tものセメントにまみれる同僚には悪いが、今から起動してやろう!

 待っていろクラウン王国のくそ貴族どもめ… 絶対泣かせてやるからな!



 この日、草加市と足立区を分ける毛長川にかかる橋の下で、謎の発光現象が確認された。

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― 新着の感想 ―
[一言]  えっと、連載でお願いします。  ここで終わられるのは勘弁です。
[一言] 【妄想劇場~こんなんどうですか?】 そして転移した先にあったのは、荒廃した王国だった。 日本であればガス、電気、水道などが整備されたインフラにより使用できるが、 この王国では平民からして使…
[良い点] どんな ざまあ になるのか今から楽しみですw
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