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80:弄られるのは分かってました



「妾はナレアじゃ。冒険者をやっておる。今日はケイにナンパされてきたのじゃ。」


晩御飯を食べる約束をしていた店にナレアさんを連れて来てレギさん達にナレアさんを紹介した後、ナレアさんが発した第一声がこれだ。


「「......。」」


レギさんもリィリさんも固まってしまっている。

これはそろそろナレアさんの頭に一発入れたほうがいいのではないだろうか?

そんなことを考えていたら二人が再起動する。


「俺はレギだ。ケイの仲間で冒険者をやっている。」


「私はリィリ、同じくケイ君の仲間よ。よろしくね、ナレアちゃん。」


二人はナレアさんの台詞をスルーしてくれるようだ。


「うむ、よろしく頼むのじゃ。」


「しかし......そうか、ケイの好みはこういう感じなのか......。」


「うーん、ケイ君は女の子に興味がないのかと思っていたからお姉さんは嬉しいなぁ。」


全然スルーしてくれてなかった。

それどころか全力で乗っていくスタイルだ。


「しかし、ケイの保護者としてこれはどうするべきなんだ?褒めるべきか?注意するべきか?」


「少しくらいは若いうちに女の子に慣れておいた方がいいんじゃないかな?」


「うむ、妾もそう思うぞ。若い内に慣れておかんと歳を取ってから変な女に引っかかったりするのじゃ。」


皆さん仲が良さそうで何よりですね。

でもそろそろ口を挟ませてもらいたいですね?


「確かに、ケイはいい歳の割に女と全然接そうとしなかったからな。リィリとデリータくらいじゃねぇか?会話したことあるの。」


「後はギルドの受付とかお店の人とか......。」


「仄暗い人生を歩んでおるのう。」


なんか哀れまれだした......。

色々と忙しくてそういうことまで頭が回らなかっただけですよ?

それとレギさんだって似たようなものだと思います。

うん、ここはレギさんに話題をすり替えよう。


「そういうレギさんはどうなんですか?」


「ナンパの経験はねぇなぁ。」


「僕もナンパをした覚えはないんですが......。」


「確か......俺はあなたにもう一度逢いたい、そして次にもし出会うことが出来たのなら、ディナーを共にしてくれませんか?的なことを以前、別れ際に言われたのう。」


「んん!?相当脚色されてませんかねえ!?それ!」


「あぁ、前にナンパしたのはナレアちゃんの事だったの!それはそれは......。」


「めちゃくちゃ狙ってんじゃねぇか!」


頬に手を当て顔を赤らめるナレアさんににやにやしているレギさんとリィリさん。

あ、そうですか。

今日はもうそういう感じでいくんですね。


「あれほど情熱的に誘われてはのう。無下にするのも難しいわい。」


「ケイ君、思っていたよりも積極的だったんだね!」


レギさんに話を逸らそうとしたけど秒で軌道修正されてしまった。

ナレアさんが手ごわい......。

本当に財布を見失って慌てていた人と同一人物か?


「......そういえばナレアさん。持ってきたお酒はどうしたんですか?」


「ふむ......まぁ、とりあえずいいじゃろう。これはお近づきの印に持ってきたのじゃが、皆でどうじゃ?運よく故郷の酒を見つけることが出来たのでな。」


「こりゃわざわざ悪いな、ありがたく受けさせて頂くぜ。」


「ありがとうナレアちゃん。故郷のお酒か......どんなお酒なのかな?」


「ブドウから作るワインなのじゃが、普通のワインとは違ってのう。実を潰して発酵させるのじゃが途中で皮を取り除くのじゃ。そうすることで濃い赤ではなく薄いピンクと言った色合いの酒になるらしいのじゃ。まぁ詳しいことは知らんが、皮の渋みが出ないからか柔らかい口当たりの酒じゃ。」


「へぇ、面白そうな酒だな。ワインっていうと魔道国の方で有名な酒だな。前向こうに行った時に呑んだことあるが一口目は渋いが、呑んだ後の鼻に抜ける香りが良かった覚えがあるな。」


「私は呑んだことが無いから楽しみだな。」


「僕もワインは初めてです。」


ワインって高そうなイメージがあるけど......この世界だと西の方で作られているみたいだな。


「店に持ち込みの許可は貰ってあるからの。遠慮せずに呑むとよい。」


そういってナレアさんは皆のコップにワインを注いでいく。

ワインっていうとワイングラスってイメージがあるけど、ガラス製品ってあまり見たことがないな......。

ガラスも貴重なのかな......?

確か珪砂から作れるんだっけ......でもなんか他にも混ぜないといけなかった気がする......。

まぁ......作るのは無理だな......やっぱり俺の知識って全てが中途半端だな......。

もう少し理科とか化学とか勉強しっかりしておけば良かったかな......?


「じゃぁ、新しい出会いに。」


「うむ、乾杯じゃ!」


リィリさんが音頭を取り、ナレアさんと乾杯する。

口に含むとスッキリした味わいに仄かにブドウの香りが広がる。


「ほんとだ、いい香り。でもレギにぃが言っていたみたいに渋くはないね?」


「そうだな。俺が前に呑んだ奴とは口当たりが全然違うな。スッキリしているというか......。」


「妾はこのスッキリした感じが好きでのう。濃い赤のワインはちと苦手なのじゃ。」


「このワイン美味しいです。僕はあまりお酒は呑めないのですけど、このワインは結構呑めそうです。」


「酒精は弱くないでな。調子に乗って呑むと一気に来るのじゃ。」


うん、調子に乗らないようにしておこう。

前後不覚に陥ったら何を言われるか分からない......。

今日は特に不味い気がする。


「ダンジョン攻略者とこうして縁を結べたのは喜ばしい限りじゃ。ケイ達は仕事で龍王国にきたのかの?」


「仕事ではなく、僕の用事に付き合ってもらっている感じですね。知人に手紙を持っていくところですが、とりあえず首都の方を目指しています。」


「ほう、首都に行くのか。奇遇じゃな、妾は知り合いに呼ばれて首都を目指している所だったのじゃ。」


そういうとナレアさんはグラスを傾ける。


「ここから首都方面に向かうと次はここより少し大きな街があるみたいだな。」


「うむ、妾は何度か行ったことがあるが結構賑やかな街じゃな。馬車で行くと二、三日といったところかの。」


「二、三日ですか、首都まではここからだとどのくらいなんですか?」


「馬車だと一月くらいかかるらしいな。」


「そんなに遠いんですか?」


「龍王国は山が多いからのう。馬車だと通りにくい道も多いし、山を迂回しないと進めないからのう。」


レギさんの言葉にナレアさんが説明をしてくれる。


「なるほど......確かに山が多いと馬車での移動は厳しいですね。」


「そういえば、山を越えてきたということはケイ達は馬車ではないのじゃろ?」


「えぇ、そうですよ。」


「ふむ......首都まで一緒に行くのも面白いかもしれぬが......お主ら出発はいつの予定じゃ?」


「僕はこの街での用事は終わりましたけど、レギさん達はどうですか?」


「俺はいつでも出られるぜ。」


「私も、行きたかった店はここで最後だからいつでもいいよ。」


レギさんもリィリさんもいつでも良さそうだ。

ナレアさんと一緒に首都まで行くのは面白そうだけど、俺たちの場合移動手段がな......。


「ならば明日の朝この街を発つのじゃ。それで、次の街にどちらが先に到着するか勝負せぬか?」


「勝負ですか?」


「うむ。単純にどちらが先に着くかの勝負じゃ。勝った方は一つだけ好きなことをお願いできるという事でどうじゃ?」


「うーん、別に構わないですけど......僕たちは馬車で移動するよりかなり早いと思いますよ?」


「ほう、それは楽しみなのじゃ。妾も馬車よりかなり早く移動できるからな......では指定の宿で落ち合うというのでどうじゃ?其方は初めての街なのじゃろ?」


「そうですね。僕たちは龍王国自体が初めてなので。」


「ではいい宿を紹介しよう。ほれあの時の祭りで料理大会をやっておったろ?アレに出場していた宿じゃ。」


「それは最高だね!是非そこをゴールにするべきだよ!」


ナレアさんの言葉にリィリさんが食いつく。

競争することは決まってしまったようだ......。


「うむ、では後で宿の位置は教えよう。ほほ、楽しみなのじゃ。何をさせようかのう。」


ナレアさん相当自信があるみたいだな。

でもこっちはシャル達だからな......そうそう負けるとは思えないけど......。

レギさんとリィリさんはニヤニヤしながらこちらを見ている。

勝っても負けても俺がダメージ受けそうな気がしてきたな。

上機嫌にワインを呑むナレアさんを見て何となくそう思った。





こういう場で弄られる人はいますね。

愛されているとも言えますがやりすぎに注意です。

お酒も入っていますしね!

大変なことになることも......


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