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73:騎士の一団が来ました



俺達が広場に着くと丁度村長さんが騎士団の前にたどり着いたところだった。

磨き上げられた鎧を着こみ馬に乗った騎士の一団は凄い恰好良く見える。

訓練をしているだろうその佇まいは精強なイメージを受けた。

変なことにならないといいけど......騎士団の威圧感は半端ないが......周りの村の人たちの雰囲気もあまりよくない......。

村の人たちの気持ちは分からなくはないけど......騎士団の人たちは別に悪くないしな......。

そんな緊迫感のある空気の中、先頭にいた一人の騎士が声を上げた。


「村長殿!ご無事でしたか!」


「ワイアード閣下、まさか貴方がいらっしゃるとは......。」


「村長殿、私は閣下と呼ばれるような立場ではありません。いえ、今はそれよりも......件の魔物に村が襲われたのですか!?」


馬から飛び降りた騎士がすごい剣幕で村長さんに詰め寄る。


「は、はい!じ、実は先ほどまで襲撃を受けておりました。」


村長さんは多少しどろもどろになりながらも騎士の質問に答える。


「やはりか!黒煙が見えたので急ぎ駆け付けたのだが......よもや間に合わなかったとは......申し訳ない!」


凄い勢いで頭を下げる騎士。

恐らく部下であろう他の騎士たちが仄かにざわつき、頭を下げられた村長さんはより一層慌てている。


「頭を上げてください!ワイアードかっ......様!犠牲は出てしまいましたが、私たちは通りすがりの冒険者の方々に助けてもらえました!」


「なんと......犠牲が......遅くなって本当に申し訳ない!」


「あ、頭をお上げください!ワイアード様!」


一度顔を上げて絶望したような表情を浮かべた後、先ほどよりも深く頭を下げる騎士。

なんというか気持ちがいいくらいまっすぐな人と言った感じだ。

周りで見ている村の人たちも色々と言いたいことがあったはずだが、頭を下げる騎士の姿をみて表情を柔らかくしている。

後ろで馬に乗っていた騎士の方々も馬から降りて兜を脱ぎ軽く頭を下げている。

勝手なイメージではあったけど、騎士ってもう少し上から来るのかと思っていたよ。

何となくあの騎士さんに謝りたい気持ちになった......。


「なんか、思っていたのとちょっと違う感じだね。」


「そうだな。」


レギさん達もほっとしたのか、村長さんの家を出た時よりも表情が明るくなっている。


「うむ、しかし様子を見るに既に魔物は去ったという事だろうか?......村長殿!出来ればお話しを聞かせていただきたいのだが......その前に、失礼。皆、これより班を分ける。一つ!魔物が残っていないか、怪我人が取り残されていないか確認のために警邏を!一つ!運ばれてきた怪我人の治療!薬も全て出して構わん。これ以上の犠牲を出すな!一つ!倒壊した建物も少なくない、瓦礫の撤去に仮住まいの設営だ!以上!開始せよ!」


「「「はっ!」」」


恐らく龍王国式の敬礼だろう。

命令を受けた騎士達は一寸の乱れもなく右手を胸に当て軽く頭を下げるとグループに分かれて行動を開始する。

非常にきびきびした動きだ。

村人たちに声を掛けながらそれぞれの役割を割り振っているのだろう。


「申し訳ない、村長殿。お待たせした。大まかな指示は出したので後は何とかなるでしょう。襲撃についてお話を伺っても宜しいですか?」


「は、はい!ではこちらへ。」


村長さんと騎士さんが村長さんの家に向かう。


「特に問題が起きなくてよかったですけど、僕たちはどうしますか?」


「まぁ、後で呼ばれることにはなりそうだが......とりあえず今はいいだろう。最初から我が物顔でいるのも感じが悪いしな。」


「そうだね。あなた達が遅かったから代わりにやりました、みたいな感じに取られても面白くないしね。」


レギさん達の警戒がかなり強いな......。

俺の表情にレギさんが一言付け加えてくる。


「権力ってのは厄介だからな。使いすぎなくらいに気を使っておいて損はしないもんだ。」


「そういうものですか......。」


日本に住んでいたら、そういう人たちに会う事なぞ一生無いなんてざらだしね......棲み分けが出来ているとでもいう感じだろうか?

それに比べるとこちらの世界では、そういう権力を持った人たちとの距離が比較的近いんだろうな......そして近い分面倒ごとも起こりやすいってことか......。

相手がいい人そうかどうかは関係なく、一定の距離を保って面倒ごとを避けるのが普通なのだろう。


「まぁ、そこまで緊張しなくてもいいさ。いつも通り、やり取りは俺に任せてくれればいい。」


「そうそう、レギにぃに任せとけば、最悪飛ぶのは禿頭一つで済むよ。」


「......そういえば首が飛ぼうが問題ない奴がいたな。今後はそいつに任せた方が安全か?」


「はぁ?乙女を盾にするとか、その無駄にデカい体は何のためにあるのよ!」


「少なくともゾンビ女の風よけの為にはねぇよ!」


「「あぁん!!?」」


うん、権力云々はもう良さそうだ。

レギさんは見下ろしながら、リィリさんは見上げながらにらみ合う二人。

この人達は本当に権力に警戒しているのだろうか......?


『仲の良いのは結構な事ですが、これからどうするのでしょう?』


シャルの意見ももっともだが......俺も気になる。

肩にいるマナスもどこか呆れたような雰囲気でぷるぷるしている気がする。

放っておくと二人の言い争いがどんどんヒートアップしていく......結構注目されて来ている様な......。

騎士の方々に目をつけられますよ?お二方。


「あの、お二人とも。そろそろ周りに注目され始めますよ......?」


「む......そうだな。すまん。」


「ふぅ......レギにぃはもっと空気読んで欲しいよね。」


「てめっ......はぁ、まぁいい。とりあえず瓦礫の撤去とかを俺達も手伝おう。ケイは、怪我人の所にはいくなよ?」


「......了解です。」


先に釘を挿された。

騎士団も来たこの状況で流石にやらないですよ?

いや、ほんと。

細心の注意を払いながら大人しくがれきの撤去に従事することした。




しばらく瓦礫の撤去作業をしていると、村長さんの使いの人が俺たちを呼びに来た。

呼ばれることは予想通りだったので周りで作業をしている人たちに一言入れてから呼びかけに応じた。

近くで作業しているレギさんとリィリさんに声をかけて村長さんの家に向かう。


「結構汚れていますけど、大丈夫ですかね......?」


「これで拭いておけ。」


そう言ってレギさんは濡れた布を渡してくれた。

あらかじめ用意しておいてくれたのだろうが、流石の気配りですね。

手は煤まみれだし、恐らく顔も真っ黒なんじゃないかな?

丁寧に拭いた後服も一通り叩いておく。


「大丈夫ですかね?」


「問題ないと思うぜ。ある程度は旅装ってことで大目に見てもらえるだろうよ。」


お互いのチェックをしながら歩いているとすぐに村長さん宅へ到着した。

呼びに来てくれた人の案内に従い部屋に入ると、まだ村長さんと騎士さんの会話の途中のようだった。


「なるほど......やはり山の方から魔物が降りてきているのですね。」


「はい、今回の件も麓の森の方で見かけた魔物が来たのだと思います。」


「ふむ、やはり常駐の兵力は少し多めに必要ですね。我々としては森から山に向けて開拓を進めていきたいのですが......。」


「開拓ですか......前にも申し上げましたが、現状ではかなり難しいと......。」


「常駐させる兵とは別に人足も手配する予定ではありますが......。」


中々面倒な話をしているようだけど......。

レギさんの方を見ると困ったような表情になっている。

会話を遮るわけにもいかないがこのままここで聞いているのも......って感じだ。

呼びに来た人もどうしたらいいか分からない様子でオロオロしだしたし。

そういえば案内の人ノックしてなかったんじゃないかな?


「む、失礼。村長殿話していた方々が来られたようだ。」


扉の前で困っていた俺達に騎士さんが気付いてくれた。


「お、おぉ。レギ殿申し訳ない。ワイアード様、こちらの方々が先ほどお話しした冒険者の方々です。」


声を掛けられた村長さんがこちらに近づき、騎士さんに俺たちを紹介する。

俺が軽く頭を下げると同時に騎士さんが立ちあがり笑みを浮かべながらこちらへと近づいてくる。


「私はシンエセラ龍王国、第五騎士団所属ハヌエラ=ワイアード上級騎士です。この度は不甲斐ない我らに代わりシンエセラの民をお救い下さりありがとうございます。」


そう自己紹介をしたワイアードさんは先程見た敬礼をした後、深々と頭を下げた。





フラグは見事回避できたでしょうか?

油断はしていないようですが、何事もなく村を出られるといいですね

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