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470:誤魔化せてはいない



「あまり体の感覚は変わらないな......。」


レギさんが歩きながら体をほぐす様に肩を回している。


「現時点では身体能力は以前と全く同じだと思いますよ。魔力の保有量はかなり増えていると思いますが。」


魔力量が増えたとしても身体強化に使われる魔力量が変化する訳じゃないからね。

その限界を超えるのが強化魔法だけど。


「なるほどな......。」


そう言ってレギさんは手に持っている斧の魔道具を起動する。


「ケイの魔道具無しで起動できるようになっちまったな。しかもまだまだ余裕がある感じだ。」


この斧の魔道具は身体強化の魔法が組み込まれていて、レギさんが使う時はデリータさんから教わって作った魔道具と併用して使っていた。


「今はまだ僕が流し込んだ魔力を使ってもらっている状態ですけど、これからはレギさん自身の魔力として、現在保有しているのと同じ量の魔力が使える様になりますから、色々頑張って試してみて下さい。」


「あの一瞬でここまで劇的に変わっちまうとはな......。」


魔道具を停止させながらレギさんが呆れたように言う。


「これも軽々しく外では言えませんね。」


「そうだな......これは回復魔法以上に危険だろうな。」


魔力量が増えるだけじゃない。

強化、弱体、回復魔法が使えるようになって寿命まで延びるのだ。

改めて考えるととんでもないことだな。


「回復魔法と言えば......レギさんも使える様になったかもしれませんね。」


「......あ?」


「いや、魔法ですよ。母さんの加護と同じように、強化魔法、弱体魔法、回復魔法が僕の眷属になったら使える様になりますから。あ、勿論相性の良し悪しはありますけどね?」


ナレアさんは俺の眷属になったことで若干相性が良くなったらしく、強化と弱体をほんの少し使える様になり、回復も以前より効果が上がったようだった。

まぁ、残念ながら強化と弱体はほんの少しと言う表現以上の効果は見られなかったけど。

本人的には回復魔法の効果が上がったことで満足だったみたいだけど。


「......そうか、そう言えば、そうだったな。魔力量と寿命の事ばかりに気を取られていたが、魔法も使えるようになるんだったな。魔法系の魔道具をどう使うかばかり考えていたぜ。」


俺は魔法の事ばかり最初考えていたけど......レギさんは増えた魔力で魔道具をどう使うかって事に気を取られていたようだ。

憧れのポイントが違うといった感じだろうか?


「少し歩きながら練習してみますか?相性を確かめる必要もありますし。いきなり使うと最初の頃の僕みたいになりかねませんよ。」


「......あぁ、ビッグボアに激突したあれか。」


「......懐かしいですね。」


薬草配達にいって、ついでにレギさんの魔獣討伐を手伝ったのだっけ。

あの村のダンジョンがきっかけで、リィリさんと会う事が出来たんだよな。

そう考えるとあの交通事故の様な戦闘も感慨深いものがあるな。

今はあの村もコボルトのダンジョンのお陰で賑わっているのだろうか?


「あんな風にはなりたくない物だな。下手したら自分の魔法で死んじまう。」


しかし、レギさんはそんな感傷よりも交通事故の悲惨さを思い出しているようだ。


「......まぁ、レギさんの場合は......僕の強化魔法を今まで受けているので、強化を掛けた状態で体を動かす方は感覚的に大丈夫じゃないですか?調整が必要なのは魔法の方ですね。」


「確かに強化魔法を受ける事自体は慣れているな。」


「魔法を使うのに必要なのは想像力です。頭の中にどうしたいかを思い描き魔力を燃料に実現させる。そんな感じです。」


「想像を実現か......。」


何となくではあるけど、レギさんは母さんの加護とは相性が悪くない気がする。

特に強化魔法とだ。

逆に弱体と回復魔法はあまり使えないかもしれないな。

全く使えないって訳じゃないと思うけど、得意ではなさそうだ。

......もしかしたらこれが母さん達の言っていた、なんとなく相性が分かるっていう感覚だろうか?

俺が加護を与えた訳じゃないけど......。


「僕がいつもレギさんに掛けている、強化魔法の感覚を思い出しながら魔力を流し込むといいかもしれません。ただし、流し込む魔力の量は少なめに。」


「......なるほど。」


「それと......急激に魔力量が増えたので、魔力制御の練習もした方が良いかもしれませんね。僕は一応毎日やるようにしていますが。」


「魔力制御か......確かに今までは扱える量が少なすぎて、あまり真面目に練習したことが無かったな。」


レギさんが自分の右手ゆっくりと閉じたり開いたりしながら魔力を動かす。


「なんか......レギさんにこうやって何かを教えるのって初めてな気がします。」


「そうだったか?」


「いつも僕は教えてもらってばかりでしたからね。新鮮な感じがします。」


そんな会話をしつつ、俺達は鏡の置いてあった小部屋まで戻って来た。

鏡の前にはシャルが座っていて、俺が部屋に入ると頭を下げる。


「シャル、鏡の確保ありがとう。」


『いえ、こちらは特に問題ありませんでした。ついでではありますが、この付近の魔物も一掃しておきましたが......。』


「あぁ、どうりでここに来るまで魔物の一匹も見かけないと思ったよ。」


俺が笑いながらそう言うとシャルが近づいてくる。


『......ケイ様。大丈夫でしょうか?』


傍に来たシャルが俺の顔を覗き込むようにしながら問いかけてくる。


「......なんか変かな?」


『僭越ながら、申し上げさせて頂くならば......ケイ様らしからぬ目をされておられます。』


普段通りでいようと思っていたけど......無理だったみたいだ。

いや、俺だけじゃない。

レギさんもナレアさんも、その怒りを押し込める様にずっとしているように感じられた。

恐らく俺も同じような感じなんだろうな。


「そっか......ごめんね。」


『いえ、ケイ様が謝られるようなことは何も......。』


「......俺達はリィリさんを攫った連中に逃げられた。リィリさんの姿を見ることも出来ずにだ。今ナレアさんが向こうの部屋で色々と調べてくれている。俺達は絶対に奴等を逃がしたりはしない。絶対にリィリさんを助け出す。奴等がどんな想いを抱いていても関係ない。」


『私達眷族はケイ様の名の元、持てる力の全てを使い、ケイ様の望みを叶えます。』


シャルが地面に伏せながら誓ってくれる。


「ありがとう、シャル。心強いよ。」


俺の言葉にシャルが顔を上げる。


『......ところで、レギを眷属にしたのですね。』


「うん、その方が今後の為にも良さそうだからね。」


リィリさんの為に眷属になったって言ったらシャルが怒りそうな気がしたので軽く誤魔化す。


『......わかりました。真意はどうあれ、眷属となったからにはしっかりと働いてもらいましょう。』


......これは、誤魔化せていない気がする。


「えっと......シャル。その辺はナレアさんと同様に今まで通りという事で。」


『......承知いたしました。』


非常に不満げではあるけど......その辺は追々納得してもらおう。


「さて、とりあえずこの鏡をナレアさんの居るところに運んじゃおうと思うんだけど......。」


『ケイ様、鏡を動かすのはもう少々お待ちいただけますか?』


「ん?何かあるの?」


俺が設置されている鏡に向かおうとした所、シャルに止められる。


『はい、恐らくもうすぐだと思うのですが、ファラがこちらに合流します。』


「王都に戻ってきていたの?」


『はい、北の方の情報網の構築を部下に任せ、南に移動しようとした所だったようですが......。』


「なるほど......いや、来てくれた方が助かるな。」


「どうした?ケイ。」


「実はファラが王都に戻ってきているそうで、もう少しでこちらに合流してくれるみたいです。」


「それは助かるな。じゃぁ、合流してから鏡を動かすってことか?」


「はい。シャルが言うにはもうすぐとのことなので。」


「分かった。ファラが合流してくれるのは心強い。多少待ってでも優先して合流するべきだな。」


レギさんが今夜初めてかもしれない喜色を浮かべる。

その気持ちは物凄くよく分かるけど。

ファラが居てくれれば今回の件もここまで後手を踏む事は無かったかもしれないよね。





一度出し抜かれてしまいましたが……今度はしっかりと準備を整え、リィリを取り戻しに行きます。

まぁ、ファラが居れば余裕ですね。


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