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414:嵐の中で



俺とナレアさんはギルド長であるマルコスさんとの話を終えてギルドの外に出ていた。

勿論、また騒ぎになりかねなかったので正面からではなく裏口からこそこそと脱出している。

マルコスさんが魔物の襲撃の件で忘れていなければ、俺の情報を流して冒険者の方々を牽制してくれるだろう。

そうすれば......敵意は減らなくても襲われる可能性は少なくなりそうだ。

......いや、待てよ?

寧ろ力を試してやる的な奴らが増えたりしないよね?

狂人って称号は抑止力になり得るのだろうか?

そんなことを考えていると、俺の袖がクイクイっと引かれる。


「どうしました?」


袖を引いているのはナレアさんだが......俺の顔をじっと見つめるだけで何も言ってこない。

非常に可愛らしくはあるのだが......先程乱闘までさせられた身なので警戒の方が先に立つ。

しかし俺の警戒する視線を受けてもナレアさんはニコニコするだけで動こうとしない。

ただ、俺の目の前で手をプラプラさせている。

言いたいことは分かったけど......つい先ほど......本当につい先ほどその手を掴んだことで結構な目に遭ったのですが......。

しかし、俺のそんな思いとは裏腹に......俺の手はナレアさんの手を握っていた。

......あれ?

手を握られたナレアさんははにかむように笑うと、そのまま歩き出す。

物凄く可愛い......が......おかしい、なんか今俺の意思に反してナレアさんの手を取った気がする。

......まぁ、いいか......今更自重したところで、もうこれでもかってくらい広まってしまっているだろうし。

ナレアさんと手を繋いでいると何か色々とどうでも良くなってきた。

なんか、肩に掴まっているシャルから物凄く冷たい視線で見られている気がするけど......多分気のせいだろう。

っと......のーてんきでいるのもいいけど......確認しておかないと。


「あの......ナレアさん。次の魔術研究所に行く前に確認しておきたいのですが......。」


「ん?なんじゃ?」


普段通り......いや、いつもより少し機嫌が良さそうなナレアさんが小首を傾げる。

......かわ......いや、今は質問が先だ。

後やっぱりシャルの視線が冷たい気がする。

俺は咳払いを一度した後、質問を続ける。


「あの......魔術研究所では冒険者ギルドみたいなことに......なりませんか?」


「ん?あぁ......ほほ、あちらは大丈夫じゃ。向こうは研究所じゃからな、警戒して猫を被るようなことはしておらぬ。」


「なるほど......それなら大丈夫そうですね。」


「おい......どういう意味じゃ?」


先程まで、はにかむ様な笑顔でこちらを見ていたナレアさんの目が鋭く尖った物になる。

口元だけは笑みの形になっているのがより一層恐怖を掻き立てる。

ほんの数秒前までのほんわかした空気が吹き散らされ突然の暴風雨!

頭を回せ!

駆け抜けろ......嵐の向こうまで!


「いえ......その......あれです。ナレアさんが普段通り対応されていたという事は、ナレアさんの見た目よりも中身を皆さん見ているわけで......。」


「ほぅ......つまり......ケイは、妾の中身が......。」


「ナレアさんは見た目が可愛らしいので冒険者ギルドでは、可愛がられる......言うなれば、聖域侵すべからず、といった感じでした。ですが研究所のほうではナレアさんの中身、好奇心旺盛で聡明、頼りになるといった面で知られているのだと思います。後は、とても優秀とかですかね?」


「......。」


少しナレアさんがたじろいだ様子を見せる。

いや、まだだ!

ここは台風の目!

嵐が過ぎ去ったわけじゃない!


「勿論僕はそんなナレアさんの事が大好きですが......同僚、それも研究活動を行う上での同僚として考えるのなら、尊敬や羨望の念が勝つのではないでしょうか?アースさんのようにナレアさんに比類する方がいるかもしれませんが、ナレアさんの知る限り最上位とアースさんの事を称されていました。そう考えると、研究所の皆さんからすればナレアさんは最高峰の魔術の研究者。尊敬し、いつか追いつき、追い越したい相手として見る事を優先するのではないかなぁと、そういう意味です。」


「ふ......ふむ。」


ナレアさんがちょっとニマニマしながら握っていた俺の手を両手で包み込むように持つ。

......突破......出来たか......?


「な、なるほどの......確かに、ギルドの人間とは違った目で見られている事は確かじゃろう。」


「そうですよね?」


俺は笑みを浮かべながらナレアさんを見る。


「うむ......それにケイに、その......言われると、嬉しい......のじゃ。」


俯きながら言うナレアさんが可愛すぎて思わず吐血しそうになる。

今完全に心臓か何かを撃ち抜かれたような衝撃を受けた気が......。

と、とりあえず、嵐は無事抜けられたようだ。

俺は安堵のため息を漏らす。


「......まぁ......咄嗟の言い訳としては悪くなかったのじゃ。」


「......え?」


顔を上げたナレアさんがあまり良くない類の笑みを浮かべている。


「痴れ者には折檻が必要じゃと妾は思う。」


そう言って俺の手を包み込んでいたナレアさん手が動き、手の甲を摘まみ思いっきり捻る!


「あーーーーーーーーーーー!!」




「ナレアさん、手が痛いです。」


俺は赤を通り越して青くなった手の甲を摩りたかったが、ナレアさんと手を繋いでいるので触れる事すらできなかった。


「これは罰じゃからな。回復魔法も使うでないぞ?」


「......はい。」


ナレアさんと手を繋いでいるという感触よりも、手の甲からくるじんじんとした痛みの方が気になって仕方ない。

こそっと回復魔法を掛けようにも、青あざが消えれば一発でバレてしまう。

そうだ回復力向上を切り忘れたことにして治してしまえば......。


「ケイ。回復力向上は切っておくのじゃぞ。」


少しだけ......ほんの少しだけ繋いだ手に力を込められた俺は、そんなことは当然だと言わんばかりの笑顔でナレアさんに頷く。

繋いだ手からミシリと音がした気がするけど、多分気のせいだ。

当然、俺にはナレアさんに逆らう意思はない。

いや、ほんと。


「ところで、魔術研究所について話を聞きたいのですが。」


手の痛みを置き去りにするように俺はナレアさんに言う。


「あぁ、そうじゃったな。魔術研究所とはその名の通り、魔術の研究、開発、さらにそれらを使った魔道具の開発を行っておる。この国の最先端技術の集う場所じゃからな。街でちょこちょこ見かける魔道馬車も研究所の職員が開発したものじゃ。」


「なるほど......ナレアさんやアースさんがやっていたことを、もっと大人数でやっている感じですか?」


「うむ。研究員はそれぞれ研究主題を持っておって、その主題にあった仲間を集めて日々研究を進めておる。まぁ、ひたすら一つの物を追求していく者もおれば、色々な物に手を出すものもおるがの。」


「きっとナレアさんは、色々なものに手を出していたのでしょうね。」


「うむ。その通りじゃ。じゃから色々な場所に顔が効くのじゃ。」


「なるほど。」


「妾の知る限り、アースを除けば、魔術研究所は間違いなく大陸最高峰と呼べる連中の集まりじゃ。魔道馬車の様に、妾が想像もしていなかったようなものも良く生み出されておる。」


「確かにアレはすごいですね。まだ発展途中って感じがあるので研究している人達も大変そうですが。」


「いつかはケイの世界の乗り物のようになるかもしれぬからのう。頑張ってもらいたいものじゃ。


車の開発か......列車とか......あ、電気を利用する方法とかも是非研究してもらいたいな。


「優秀な奴等が集まっておることは頼もしいのじゃが......懸念もあるのじゃ。」


「懸念ですか?」


以前からナレアさんが気にしている技術の発展速度とかだろうか?

通信技術の発表という件に対して物凄く慎重な姿勢を見せているけど......同じような不安が魔術研究所にはあるのかもしれない。


「ほほ、確かに技術の発展という心配もあるが、それは自分達で掴み取った技術じゃからな。そこは自分達で責任をもってやってもらう事じゃ。妾の懸念は......魔術研究所と檻に関しての事じゃ。」


ナレアさんは幻惑魔法を発動させながら口にした。





嵐に遭遇してしまった時点で体が濡れるのは避けられませんからね。

必死に突破しても時既に遅しと言う奴です。


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