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224:作戦立案



「カザン君聞こえる?」


『......はい、ケイさん。聞こえています。』


俺が通信用魔道具に声を掛けるとすぐにカザン君から反応が返ってくる。

宿に戻ってきた俺達は、あらかじめマナスに頼んでカザン君に通信の準備をしてもらっておき打ち合わせを始めた。


『定時外の連絡と言うことは何かあったのですか?』


「うん、俺達もまだ詳しくは聞いていないのだけど......カザン君とノーラちゃんの居場所がアザル兵士長達にバレたみたいだ。」


『......そうでしたか。』


魔道具越しなのでカザン君がどのような表情をしているかは分からない。

だがその落ち着いた声からは慌てたような印象は受けない。


「詳細はこれからファラに確認するところだけど、カザン君にも中継するから聞いておいて。」


『分かりました。よろしくお願いします。』


「それじゃぁファラ。アザル兵士長側の話を聞かせてくれるかな?」


『承知いたしました。先ほどもお伝えしましたが、カザン様とノーラ様がセンザの街にいるという情報が今日アザル兵士長の元に届きました。ですがセラン卿の元にいるとは分かっていないようです。いえ、疑ってはいるようですがコルキス卿の手の者が封鎖している以上その線は薄いと考えているようです。』


コルキス卿凄いな......疑われていない所か、相当信頼されているみたいだな。


『コルキス卿の手腕に薄ら寒い物を感じますね......。』


俺がカザン君に話を伝えると俺と似たような感想を抱いたようだ。


「セラン卿についてはコルキス卿が完全に封じ込めているっていう認識みたいだね。次のアザル兵士長の動きはどうするか分かる?」


『部下を数人センザに送り込むようです。街に潜伏していると考えているようですが......確実な目撃情報と言う訳ではないようです。』


「なるほど......誰かが裏切ったとかいう話ではなさそうだね。懸賞金目当てのガセ情報って可能性も高そうだね。」


残念ながら、適当に言ったかもしれないけど......真実にかすっているからな......こっちとしてはありがたくない偶然だ。


『アザル兵士長もその線を疑っているようでしたが、関係の深い街と言うこともあり部下を使って調べることにしたようです。』


嘘から出た実ではあるけど......カザン君の事を調べていればセンザは一番怪しい場所ではあるし、密告者も当たればラッキーくらいの気持ちで密告したのかもな。


「......とりあえず調べるって感じか。ならセラン卿との関係を薄めたいな。」


ファラの話を聞いたレギさんが少し考えるようにしながら言う。


「どういうことですか?」


「セラン卿の元からカザン達が逃げ出したことは確定情報として伝わっている。だからこそセラン卿の家と貴族区を封鎖するだけでアザル兵士長は納得しているが......セラン卿とカザンがまだ繋がっていると分かれば、直接乗り込んでくるか警戒をもっと厳重にするはずだ。今の時点でそれはかなりまずい。」


確かに......今はセラン卿とエルファン卿が色々と反抗作戦の準備をしている最中だ。

今はなるべく波風を立たせずにセンザの街の印象を薄めておきたいはずだ。


「なるほど......では他の場所でカザン君を目撃させるとかですか?」


「それも悪くないが......。」


「ふむ、どうせなら誘導ついでにこの前セラン卿達との話の中に出てきた手を試すのはどうじゃ?」


レギさんが少し考えるような素振りを見せた所で、ナレアさんが提案してくる。


「この前の話に出てきた手と言うと......部下を捕らえるってやつですか?」


「うむ、カザン達を探しに来た奴らを逆に捕らえるのじゃ。」


「ですが、それをすると警戒が上がって他の者達に逃げられる可能性がってことで保留になりましたよね?ファラ達に追跡させるのですか?」


「それも悪くない方法だと思うのじゃが......今回は偽装するのじゃ。」


「偽装ですか?」


「うむ、まずはセンザの街でカザンを目撃させるのじゃ。その後どこか適当な場所でノーラと合流して別の街を目指すのじゃ。勿論妾達が傭兵として護衛に着いていることを装う。相手の人数は分からぬが、こちらの方が人数が多かった場合襲い掛かってこない可能性もあるから、護衛に着くのは二人にするのじゃ。勿論遠巻きに残りの二人も監視するがの。」


カザン君達がセンザの街から別の街に移動を始めたってことにするのか?

でもそれだとセンザから注目は外すことが出来るだろうけど、あまり意味が無いような?


「それでカザン達を襲わせるのじゃが......ここで一人を残して全員を殺すのじゃ。」


......え?


「こ、殺すのですか?」


「正確には残した一人に仲間は全員死んだと思わせる、じゃ。」


あぁ、なるほど。

そういうことか......びっくりした。


「ケイなら死んだと思わせられるじゃろ?勿論残した一人は逃がすのでアザル兵士長の元には部下の死とカザン達が別の街を目指してい移動していることが伝わるじゃろ?さらに妾達は組織の手の者を捕獲できて一石三鳥といった所じゃな。」


「なるほど......そうですね、死んだように見せかけるのは問題ないと思います。」


「突然部下が姿をくらましたりすれば、捕らえられたり裏切りを警戒する必要がある......じゃが、目の前で死んでいれば......それ以降その者の事を気にすることはないじゃろ?」


「ってことは分かりやすく死んでもらう必要がありますね......。」


流石に首を落とすようなことは無理だけど......ぱっと見で分かるような大怪我をさせる必要があるな......。


「僕が援護するのでレギさんに仕留めてもらっていいですか?」


「仕留めたら不味いだろ......だが、了解だ。派手にやればいいんだろ?」


「死なない程度に死体に見えるようにって......かなり難しいこと言っていると思いますけど。」


「治療は早めにしてやってくれ。」


「了解です。」


魔道具の向こうにいるカザン君に聞こえない様に小声でレギさんが俺に告げてくる。

回復系の魔法はカザン君にも秘密だからな......これはかなりの大怪我をさせるって宣言だよな。

しかし......カザン君には色々と俺達の事で周りに秘密を作らせている。

そこまでしてくれているカザン君にまだ秘密にするって言うのは非常に不義理な感じがするな......ちょっと後で皆に相談しよう。


「では、カザン達の護衛をするのはレギ殿とケイじゃな......っと、その前にカザンよ。」


『はい、なんでしょうか?』


「妾の計画ではお主と......ノーラを囮にする必要がある。勿論レギ殿とケイが必ず二人を守ってくれるし、妾達も少し離れた位置からではあるが全力で守るのじゃ。」


『妹を囮にすることには少し抵抗がありますが......安全については心配していません。私はナレアさんの作戦に乗ろうと思います。』


「感謝するのじゃ。絶対に怪我一つ負わせないと誓うのじゃ。」


ナレアさんが神妙な面持ちで誓う。

今作戦において、一番近くでノーラちゃんとカザン君の護衛をするのは俺とレギさんだ。

どんなことがあろうと二人を守ってみせる。

レギさんの方をみると神妙な面持ちになっているが......俺も同じような表情をしているのだろうか?


「では、計画を詰めていくのじゃ。まずはファラに何人センザに派遣されるかを確認してもらうのじゃ。後はそやつらがセンザにきてからカザンを囮に森にでも連れて行くのじゃ。カザンの護衛は......。」


「僕がやります。監視しているネズミ君の言葉をシャルに中継してもらえば相手の動きも完全に把握出来るので。」


「ではケイに頼むのじゃ。」


カザン君の護衛はともかく、囮なんだから不自然にならない様に行動しないとな。

相手は生粋の密偵ってわけじゃないみたいだけど油断は出来ない......自然、自然にやらないとな。


「森ってのは、以前俺達がいた所か?」


「前拠点にしていた場所は流石に遠すぎるのじゃ。ファラ達であれば半日もかからぬが普通に移動するとなると数日かかるからのう。」


「確かにそうだな。なら初めてセンザの街に行った時に、リィリ達が待機していた丘のあたりはどうだ?裏には森が広がっているし下からは死角になっていて隠れて過ごすにはいい場所だろう。」


「相手も襲撃を仕掛けやすいじゃろうし、おびき出すのはそこにするかの。」


俺達はお互いに意見を出してアザル兵士長の部下を捕獲するための計画の詳細を一つ一つ詰めていった。





さぁ、とっつかまえましょう。

圧倒的に実力差が無いと殺す気で襲い掛かってくる相手を逆に捕まえて偽情報を持ち帰らせるって出来ないですよね。


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