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216:驚異の情報収集能力



「それもそうだな。俺達はまだアザル兵士長の顔を知らないし、出来れば確認しておきたいところだな。ファラ、相手は屋敷に篭っているようだが......俺達が顔を見る方法はあるか?」


俺がアザル兵士長の顔を見ておきたいと提案するとレギさんも同意してくれる。


『少々難しいですね......会うことの出来る人物も限られていますし、屋敷の外に出ることは殆どありません。しかも人の気配には敏感で、密偵が何人も殺されています。魔道具を使って遠距離からから監視しているのにも気づいたほどです。』


本当にそういうことに関しては凄い人なんだな......。

魔道具での監視については、ナレアさんが使っている魔道具と同じものを持っているのかもしれないけど......。


「ふむ、であれば妾に一つ案があるのじゃ。丁度昨日、アースと共同で研究していた魔道具の試作品が完成したのじゃ。これを使ってみるとしよう。」


「アースさんとですか?」


この前いい洞窟が見つかったとは聞いていたけど、共同で魔魔道具の研究をしていたのか。

そういえば通信用の魔道具はアースさんの持っている大規模な魔道具を参考にしながら作っているって言っていたっけ?

たまに長電話......ではないか......長話をしているのは知っていたけど。

他の魔道具も開発していたのか。


「どんな魔道具ですか?」


「うむ、龍王国で襲撃者が持っていた視覚共有の魔道具じゃ。」


「あぁ、魔道具を持っている人の視界を離れた位置から見られるってやつですね。それは監視対策の魔道具でバレないのですか?」


「問題ないのじゃ。長距離監視用の魔道具は見る対象に向けて魔術が行使され、それを感知して逆に相手の動きを察知するものじゃが、視覚共有の魔道具はあくまで魔道具を使っている自身に向けて魔術を行使するのでな。感知される心配はないのじゃ。この魔道具をファラに持って行ってもらってアザル兵士長を見てもらえば、宿にいる妾達もその顔を拝むことが出来るというわけじゃ。」


「それは素晴らしいですね。」


「まぁ試作品じゃからな。あまり長時間は使えぬし、視界もうっすらと共有できる程度じゃが、顔を見る程度ならとりあえずはいいじゃろ?」


「はい、十分だと思います。」


「ではファラよ、少し待ってくれるかの?指輪に魔晶石を嵌めてしまったのでな、首に掛けられるように少し細工をするのじゃ。」


『承知いたしました。』


「まぁすぐに出来るから他に何か話があればしておいてほしいのじゃ。」


ナレアさんはそう言って自分の荷物の中から道具を取り出し作業を始める。


「あ、じゃぁファラちゃん。」


ナレアさんが作業を始めたのを見てリィリさんが声を上げる。

......なんとなく次の台詞は聞かなくても想像出来るな。


『はい、リィリ様。何でしょうか?』


「領都のおいしいお店についてなんだけど......。」


そう言ってリィリさんが懐からメモ帳のようなものを取り出す。

ちらっと見えた感じだと、お店の名前とおすすめ料理が記載されているようだが......いや、いくらリィリさんでもそこまでの情報は入手できていないはずだ。

領都についてからこの宿に来るまで寄り道と呼べるようなものはほとんどしていない。

道すがらの屋台に一回行ったくらいだ、それだけでそのメモ帳にびっしりと書き込まれた情報量を得ることは無理だろう。

そんな俺の思いを他所に、リィリさんはファラに領都にある美味しいお店について話を進めている。

きっとカザン君とかノーラちゃんに予め領都のおいしいお店について聞いていたのだろう。

そうに違いない。

しかし、これから街を出るって話なのにそんなに沢山のお店を調べても行けないと思うのだけど......まぁカザン君達の作戦が成功すればいくらでも満喫できるからいいのか。

非常に嬉しそうにファラと話をするリィリさんを見ながら、彼女の食事に関する情報収集能力に戦慄した。




「よし、調整が終わったのじゃ。ファラよ、これを身に着けてくれるかの?」


『はい、ナレア様。』


ナレアさんがファラに首輪のような魔道具を装着している。

もともと指輪サイズの魔道具だったから、魔晶石をはずしてファラの首輪に変えたとしても問題は無さそうだ。


「ファラ、良く似合っているよ。可愛いね。」


『......ありがとうございます。』


ちょっとファラが照れているような気がするな。

珍しい反応にちょっとこちらの頬が緩む。


「ふむ、他の者達も何かアクセサリーを身に着けるかの?」


「それはいいかもしれませんね。シャルは体の大きさを変えることが多いので首輪は無理かもしれませんが......耳飾りとかどうですかね?」


「体が小さくても大きくても見栄えを良くするというのは少し難しいかもしれんのう。」


「でもシャルちゃん達が可愛くなるのはいいことだと思うな!私も協力するから色々試してみようよ!」


俺の肩に掴まっているシャルにナレアさん達が話しかける。

誘われているシャルもまんざらではなさそうだな。

反対側の肩にいるマナスが少し羨ましそうにしている気がするな。

リィリさんもそれが分かったのかマナスに手を伸ばして抱きかかえる。


「マナスちゃんも何か似合う物見つけようね!」


嬉しそうに肯定の意を示すマナス。

そうか......皆もおしゃれをしたかったのか......そういうのには無頓着だったけど、もう少し早く提案してあげるべきだったかな?

しかし、マナスに似合うアクセサリーか......難しそうだな。

シャルも体の大きさを変えて両方ににあった物って言うのは難しそうだね。


「シャル達のアクセサリーについては今度時間をかけて色々試してみるのじゃ。とりあえず今日の所は......ファラよ、魔道具の起動の仕方は問題ないかの?」


『はい、大丈夫です。起動実験は必要ですか?』


「そうじゃな。試しておいた方がいいじゃろう。受信側は常に起動してあるので、ファラの方の準備が出来た時点で起動してくれればこちらに視覚が共有されるのじゃ。」


『承知いたしました。それでは起動します。』


ファラがそう言って首輪になっている魔道具を起動する。

俺が初めて魔道具を起動させようとしたときは魔晶石が弾けたっけな......

まぁ、ファラは問題なくあっさりと魔道具の起動に成功する。

うちの子たちは本当に何でもそつなくこなすな......グルフはちょっと俺に似て不器用な所がある気がするけど。


「うむ、成功じゃな。人以外の視覚も問題なく共有できるのじゃ。しかし......ふむ、これは少し厄介かもしれぬのう......。」


実験に成功したのにナレアさんが考え込んでしまう。

どうしたのだろうか?


「ナレアさん、大丈夫ですか?何か問題でも?」


「あぁ、すまぬ。とりあえず魔道具は問題なく使えるようじゃ。ではファラよ、一度魔道具を止めて兵士長の所に移動してくれるかの?領都内であれば有効範囲内じゃから問題なく動作するはずじゃ。」


『承知いたしました。それではすぐに行ってまいります。』


「気を付けてね、ファラ。」


『はい、ありがとうございます。』


ファラが頭を下げて窓から出ていく。

領主館の位置は聞いていないけど、ファラならすぐに辿り着くだろう。

部屋の中に視線を戻すとナレアさんが難しい顔をして何かを考えている。

さっき何かに気づいていたみたいだけど......そのことで何か悩んでいるのだろうか?





優秀な魔術師は開発、解析に優れている人物ということです。

他人の技術を吸収して自らの技術に還元していく。

簡単なようですが難しく、パクリというと聞こえが悪いですが技術の発展にはとても大事なことだと思います。

まぁ、あたかも自らのオリジナルですって堂々とコピーを発表するのはどうかと思いますがね。


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