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178:尻尾を振っています



ウサギを解体してみて分かったことは、意外と忌避感なく出来るということだった。

まぁ、今まで普通に解体されたイノシシとか食べていたしな。

やってみるまでは避けたいと思っていたのだけどね......。


『見事な手際でした、ケイ様。』


「うん、ありがとうシャル。母さんに教えてもらったことをちゃんと実践出来たみたいでよかったよ。」


解体した肉を持って皆の所に戻るとそれぞれ調理をしているところだった。

テントに寝かせている兄妹はまだ起きていないようだ。

二人ともかなり疲労が溜まっていそうだったので、回復魔法を使ってある程度疲労回復もしてあげているけれどゆっくり寝るのは大事だろう。

戻ってきた俺に気づいたレギさんが手を挙げて声を掛けてくる。


「おう、上手くできたか?」


「えぇ、問題は特に。思っていたよりも普通にできたと思います。」


「そうか。何事も経験だな。」


俺はレギさんに解体用のナイフを返す。

レギさんはナイフの刃が欠けていないことを確認すると鞘に納めた。


「骨にも当てなかったようだな。持ってきた肉も綺麗に整えられているし、見事なもんだ。」


「ありがとうございます。」


素直に称賛を受け取りレギさんの横に腰を下ろす。

レギさんは鍋をかき混ぜて......シチューを作っているようだ。


「美味しそうですね。」


「まだ食べるには早いな、もう少し煮込む必要がある。焦げるから手を止められないのが地味にきついな。」


鶏肉や芋、野菜と具が多く入っている。

中々豪華で栄養価も高そうだ......恐らくあの二人が起きてきた時に、温めなおせばすぐに食べられるというのもこのメニューを選んだ理由の一つだろう。


「代わりましょうか?」


「いや、大丈夫だ......ところでケイ。」


レギさんがシチューをかき混ぜながら話題を変えてくる。

リィリさんやナレアさんも火の傍に集まってきたので、恐らくあの二人の話だな。


「あの二人をどうするつもりかは考えているか?」


「......事情を聴こうと思っていますが。」


「それはあの二人の事情に首を突っ込むってことか?」


「拙いですか?」


「あいつらが素直に教えてくれるかどうかはさておき、あまりいい考えとは言いにくいな。」


レギさんが渋い顔をしながら答える。


「他人の事情に軽々しく首を突っ込むなと......。」


「......そうだな。聞いたところによると、首を持っていけば金が貰えるとか追手は言っていたんだろ?」


「......えぇ。」


それを聞いた瞬間......俺もナレアさんも飛び出したからな。


「あの二人が指名手配中の大犯罪者でなければ......権力争いか利権争い......まぁそんなところじゃないか?汚れちゃいるが、身なりは結構いいしな。」


......確かに彼らのような年齢で、育ちの良さそうな人達が追われる理由なんてその辺りが妥当だと思う。

どう考えても相当な厄介ごとだ。


「確かに俺たちの......ケイの用事は急ぐ必要はない。寄り道は別に問題ないと思う。だが中途半端に他人の事情に首を突っ込むのは間違っている。」


「......そうですね。」


それは相手にとってもいい迷惑だろう。


「もしあの二人に関わるのならば、最後まで面倒を見る覚悟が必要だ。」


「......。」


「勿論、面倒を見るってことが何を意味するかは今の所は分からねぇ。安全な場所に送り届けるだけでいいのか、これからの旅に連れていくことになるのか、それとも......。」


彼らが何を望むか、か......。


「勿論事情を聞いて、助けを求められたからと言って必ずしも面倒を見る必要は無い......無いが......。」


そう言ってレギさんはため息を一つついてこちらを見る。

リィリさんとナレアさんは何も言わないが......何故か微妙ににやにやしながらこちらを見ている。


「......断るときは断りますよ?」


「俺はお前が何かを断る所を見たことがねぇよ。」


いや......そんな筈は......俺はノーと言える日本人な筈だ。


「妾の誘いは結構断るのじゃ。」


うん、強い意志でしっかり断れているな、問題なさそうだ。


「なんかケイ君が自信ありますみたいな顔しだしたよ。」


「はぁ......ケイ。これだけは忘れるなよ?戦争に巻き込まれる可能性も零じゃないからな?」


「......はい。」


体の中に氷を入れられたような......何か冷たいものに体の中を這いまわられたような気がした。

その可能性を考えていなかったわけでは無い。

いくら俺でもそこまで能天気では無い筈だ。

東方に来てから龍王国までの旅とはかなり違うと言うのは実際の体験を持って感じている。

しかし......はっきりと言葉にして言われると......。


「......では彼らから事情を聞く前に、向こうに転がしておる奴らから話を聞くと言うのはどうじゃ?先に奴らから話を聞く方がこの後どうするか決めやすいのではないかの?」


確かに、そのほうが......関わらずに放り出す判断もしやすい気がするな。


「そうですね、そうします。」


治療はせずに手足に枷を付けて転がしてあるが......素直に事情を話してくれますかねぇ?




「つまり彼らには懸賞金が欠けられていると。」


「そ、そ、そ、そうです!」


歯の根も合わないと言った様子で、震えている追跡者の一人が必死に言葉を絞り出す。


「君たちは賞金稼ぎか何か?」


鎧が共通の物だったし、どこかの国の正規兵だと思っていたのだけど......。


「ち、違がいます!お、俺!わ、私たちはぐ、グラニダの兵士、です!」


「......なるほど。兵士なんだね。」


グラニダって......国の名前なのかな?


「グラニダって言うのは?」


「ぐ、グラニダは......こ、この辺りでい、一番大きな街、です!」


街の兵士......?

国じゃないのか......確かヘネイさんがこの辺りは国と呼べない様な小勢力と言っていたけど......都市国家みたいな感じなのかな?


「......それで、なんであの子たちは懸賞金を掛けられているのかな?」


「そ......それは......。」


怯え切っていたグラニダとかいう街の兵士の顔色がどんどん悪くなっていく。

そんなにやましい理由なのだろうか?

ちなみに何故彼がこんなに怯えているのかと言うと......恐らくだけど、彼のすぐ後ろで大きな口を開けながら涎をぽたぽたと垂らしているグルフが原因だと思う。

話を聞き始めた最初の頃は、貴様らのような素性も知れぬものに話すようなことはないとか......例え殺されたとしても情報を漏らすものかとか言っていたと思うけど......。

何故かリィリさんがグルフを呼んで遊び出したのだ。

グルフの方はリィリさんに遊んでもらえて大はしゃぎと言った感じだったけど、兵士の人は声も出せないくらいに怯えている様だった。

こちらが話しかけても「う......?」とか「あ......?」とかしか言わなくなった所で......リィリさんがグルフを兵士の人の真後ろに座らせて、口を大きく開けるように命じたところ泣きながら話を始めたのだ。

いや、グルフは見た目が怖いから気持ちは分かるけどさ......とりあえず後でリィリさんに文句は言っておこう。

って言うかグルフは討伐隊が組まれかねない程の脅威だから人前には出さないほうがいいって話だったのに、良かったのだろうか?


「はい、グルフちゃん。」


そう言ってリィリさんが骨付きの肉をグルフに上げる。

ご飯をもらったグルフは尻尾を千切れんばかりに振りながら骨ごとばりばりと食べ始める。

その音を聞いた兵士の人が......漏らした。

えぇ......リィリさんやりすぎですよ......。

俺の視線を受けたリィリさんがスッと兵士の人から離れていく。

レギさんとナレアさんも同様に少し離れているようだ。


「あ、あ、あ、あ、あいつ!か......か、彼らは!ぐ、グラニダのりょ、領主のが......こ、子供だ!です!」


より一層聞き取りにくくなったが......領主の息子をその街の兵士が追いかけて......懸賞金?

何処からどう聞いても厄介事だな......。

俺は少し離れた位置にいる皆の方を見るが......揃ってため息をつかれた。

いや、ナレアさんも俺と一緒に飛び出して彼らを助けたのだからこっち側ですよね!?





見た目と中身が全然違うのは......グルフとシャルとマナスとファラとレギとナレアと......殆ど全員ですね。


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