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『ナレアリスよ......今、何と?』


「すまぬ、これがどういったことなのか正確に把握していなくてな。不躾な願いであったならば謝罪する。お主の加護を妾にもらえぬじゃろうか?」


そういえば、初めて聖域に来て報酬の話をした時に、ナレアさんは何か含みがありそうな感じだったっけ。

なるほど、加護が欲しかったのか......俺の話を聞いて、魔法の効果を見ているのだから当然かもしれないけど......クレイドラゴンさんではその望みを叶えてあげることは出来ない......。


『......それは......少し......難しい......な?』


そこまで言ったクレイドラゴンさんの縋る様な視線がこちらを一瞬だけ見る。

威厳......威厳かぁ......。


「そうか......どうやら失礼なことを言ってしまったようだな、気分を害したようなら......。」


『いや、ナレアリスよ。そうではないのだが......少し考えさせてくれるか?』


「む、良いのか?」


『うむ......それですまぬが、今日は帰ってもらえるか?』


「それは構わぬが......うむ、分かった。出直すとしよう。」


『巫女よ。お主もナレアリスと共に。それと......先日の件で話がしたい、使者殿は残ってくれるか?』


「分かりました。」


前と同じようにナレアさんとヘネイさんが聖域から出て行くのを見届けてからクレイドラゴンさんの顎が地面を割る。

威厳とは......取り繕うものなのかもしれない。


『神子様!ど、どうすれば!?何故ナレアリスが加護の事を!?』


「落ち着いて下さい。慌てる必要はないですよ......ナレアさんが加護が欲しいと言い出した原因は僕にあります。そのことについては勿論、力になってあげたいとは思いますが......。」


非常に難しい問題だ......クレイドラゴンさんは加護を与えることが出来ない。

何故なら加護を与えることが出来るのは応龍様だけだ......そして俺はこれから応龍様に会って加護を貰うつもりだ。

俺は加護を貰えたのにナレアさんはダメっていうのも......俺的に非常に気まずい。

そもそも、色々と嘘をつかないといけないし......。


「問題はクレイドラゴンさんですね。」


『申し訳ありません!わ、私の何が問題でしたでしょうか!?』


とりあえず謝るスタイル......。


「あ、すみません。言い方が悪かったですね。クレイドラゴンさんが本物の応龍様ではないことを伝えられないって所です。」


龍王国というよりも信仰の問題だ。

おいそれと話をしていい内容ではない。

うっかり外に漏れたら大変なことになりそうだ......過激派とかいるのかな......?


『であれば、ナレアリスに教えましょう。』


軽っ!

軽すぎますよ、クレイドラゴンさん!


「いや、そんな簡単に決めては駄目ですよ。」


『いえ、神子様。以前お話しをさせて頂いた時にあなた様は仲間を大切にしたいとおっしゃられていました。私は人の世の事はあまり詳しくはありませんが、仲間を大切にしたいというお気持ちは理解しているつもりです。そしてナレアリスは神子様の仲間です。私如きの為に不誠実な嘘をつく必要はありません。』


クレイドラゴンさんの事を大ぴらに言えないのはクレイドラゴンさんの為だけではないけど......まぁそれは本人には分からないことか。


「それは僕としては嬉しいですが......。」


『勿論、私が応龍様で無いという話が出るということで、混乱が生まれることは理解しているつもりです。ですが人の世界に生きる者でこの事を知っているのは神子様、そして今回話すナレアリスだけです。神子様は言うに及ばず、ナレアリスも浅慮な輩ではありません。』


いや......ナレアさんは俺より遥かに思慮深いですよ......俺はどちらかというと迂闊な方です、ごめんなさい。


『そのくらいの信頼はありますが......神子様は如何お考えでしょうか?もし危険だと言うのであれば......。』


「いえ、ナレアさんは僕よりもはるかに信頼できる人だと思います。徒に混乱を招くような人ではありません。クレイドラゴンさんがそう判断してくれるのであれば、僕としてもとても助かります。応龍様に会いに行った時に直接、加護の事をお願いすればいいだけなので。」


母さんによると加護自体与えることは特に問題はないらしい。

大戦前にはかなりの数の魔法使いがいたらしいしね、加護を与えること自体は大した事とは考えていなかったようだ。


『申し訳ありません。本来私がナレアリスに払う報酬であるはずなのに、神子様に多大な御迷惑を......。』


メキメキと音を立てて地面にめり込んでいくクレイドラゴンさんの頭部。

そろそろ顔が完全に埋まってしまいそうだ。


「大丈夫ですよ。寧ろ僕がナレアさんの望みに対して、力になれて嬉しいくらいです。だからそろそろ頭を上げてください。」


うん、これは偽りなく本心から言えることだ。

とはいえ、応龍様がなんて言うか分からないけどね......まだ一度もあったことないわけだし。

最悪母さんにお願いすれば何とかなる......はずだ。

まぁでも、ナレアさんに隠し事をしたり嘘をついたりする必要がなくなるだけでも非常に気分が軽くなるね。


『承知いたしました。それでは......ナレアリスをこちらに呼ぼうと思いますが、よろしいでしょうか?』


「それは構いませんが......さっきナレアさんに今日は帰って欲しいって言っていませんでした?まだいますかね?」


それを聞いたクレイドラゴンさんは「あっ!」と言わんばかりの顔をする。

ドラゴンのそういう顔は初めて見たけど、一目で分かるくらいのアッとした表情だ。


『そ......その場合は後日......いや、それだと神子様にまた御足労頂くことに......いや、だが......。』


「大丈夫ですよ。その場合は僕がナレアさんを連れてきますから。それに言っておいてなんですが、もしかしたら神殿で僕が戻ってくるのを待っている可能性もありますし。」


『それもそうですね......では巫女に連絡をしてみます。』


そうだ、長距離での念話について後で忘れずに聞こう。




「随分と早い呼び出しだったが、答えを貰えると思っていいのじゃろうか?」


『うむ。だがその前に、お主の願いを聞くためにも一つ約束して欲しいことがある。これから話すことは他言無用だ。守れるのであれば続きを話そう。』


「ふむ、内容が分からないとおいそれとは約束しにくいのう......。」


まぁ、それはそうだ。

内容も知らずに約束するなんて正気の沙汰とは言えないだろう。

でもこのままだと話が進まないから口を挟ませてもらおう。


「ナレアさん、これから話す内容は僕も知っています。けしてナレアさんの不利益になる事はありません。」


寧ろ誰かに言ってしまったら多大な迷惑を被ることになると......。


『うむ。その辺は心配せずとも大丈夫だ。』


「まぁ、話を聞けば納得してもらえるとは思いますけど......。」


「ケイがそこまで言うなら問題は無さそうじゃな......すまぬな、ごねて。妾から頼んだことじゃと言うのに。」


ナレアさんがクレイドラゴンさんに頭を下げる。


『問題ない。それで加護の件だが、私はナレアリスに加護を与えることは出来ない。』


「......そうか、残念じゃ。」


ナレアさんは非常に残念そうだが、どことなくこの答を予想していたような様子でクレイドラゴンさんに答えている。


『それについては本当に申し訳ないと思っている。』


「......しかし、それだけであれば他言無用という話にはならぬよな?どういうことじゃ?」


『うむ。ここからが本題になる。単刀直入に言うが......私は応龍様ではない。』


「......恐ろしいことを言い出したな。」


目頭を押さえてうつむいたナレアさんが沈痛な声を上げた。





威厳は身にまとう物、貫禄は身に宿る物

そんな感じではないでしょうか?


それはさておき、龍王国の秘密にナレアを巻き込みました。

応龍の加護を望んだので仕方ないところではありますが......まぁ全てケイが悪いですね。


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