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122:聖域は二度割れる



『お待たせして申し訳ありません。神子様!』


ヘネイさんが聖域から出て行ったのを確認して、即座に顎で地面を割るクレイドラゴンさん。


「いえ、大丈夫ですよ。ナレアさん達と色々調査したりと忙しくしていたので気になりませんでした。」


『お手数おかけしております!』


更にめり込んでいくクレイドラゴンさん。

何を言っても恐縮されちゃうな......。


「お気になさらず。神域の......応龍様のお話を伺ってもいいですか?」


話題を変えて仕事の話にしよう。

このままだと頭が完全に地面に埋まっちゃいそうだ。


『はい!神域にて応龍様に神子様の事をお伝えした所、是非会いたいとおっしゃっておられました。よろしければ今からご案内いたしますが......。』


「いえ、まだ依頼の途中ですので抜けるわけにはいきません。応龍様をお待たせして申し訳ありませんが、私も人の世に生きる身として約束や仲間は大事にしたいと思っています。」


『左様でございますか。応龍様は長い時を生きておられるのであまり時間に関しては気にしておられないので大丈夫かと思います。すぐにとはおっしゃられておりませんでしたし。』


「それは助かります。そういえば、意外と戻ってくるのに時間がかかったみたいですが。神域は遠いのですか?」


『いえ、そういう訳ではありません。私が神域に戻るのが滅多にないことなので色々と神域の外について話をしておりました。』


「どのくらい戻っていなかったのですか?」


『およそ二千年程になります。』


実家に帰っていないスパンが長すぎる......。

そりゃ二千年分の思い出話をしていたら時間はかかるよね......きっと色々なことがあっただろうし。


『とは言え、私も聖域から動くことはありませんでしたし、巫女より聞く話だけが外との繋がりなのであまり多くの事は話せませんでした。殆どが龍王国に纏わることです。』


長い事生きていてもずっと一カ所にいる......とてもじゃないけど人の精神じゃ耐えられそうにないね......。

でもこれは母さんにも同じことが言えるよね......今度一回帰ろうかな?

クレイドラゴンさんの在り方を聞いて今も神域で世界と繋がりを断っている母さんに思いを馳せた。




クレイドラゴンさんとの話も終わり神殿に戻ってくるとナレアさんとヘネイさんが和やかに話をしていた。

マナスからの連絡もなかったから何も問題はないのは分かっていたけど、思っていた以上にリラックスして会話をしている。

......まぁ、張り詰めてばかりはいられないからいいよね?


「ケイ様、お帰りなさいませ。」


俺が近づくとヘネイさんが立ちあがる。


「ただいま戻りました。随分と楽しそうでしたけど、何かありましたか?」


「いえ、何もありませんが。色々と楽しいお話を聞かせてもらっていました。」


ナレアさんの方を見ると先ほどまでとは違い、何やらいやらしい笑みを浮かべている。

これは聞かないほうが良いやつだ......。


「そうでしたか。邪魔してしまったみたいですね。神殿の外の見回りでもしてくるので、そのままお話しを続けてもらって大丈夫ですよ。」


「あ、ケイ様!お待ちください!」


被害を受ける前に撤退しようとしたのだが、ヘネイさんに引き留められる。


「......なんでしょう?」


「何を警戒しておるのじゃ?」


警戒が声に出てしまったのか......いや普通に心を読まれたのかな......?

普通に心読まれるってなんだ......?


「いえ、何も警戒なんてしていないですよ?」


「えっと......ケイ様、すみません。応龍様から連絡があった時に言いかけていたことなのですが......。」


そう言えば何か言いかけの途中でクレイドラゴンさんから連絡が入ったんだっけ......。

確かレギさんから伝言が......。


「そう言えば聞き逃していましたね。レギさん達からの伝言でしたっけ?」


「はい。伝えるのが遅くなり申し訳ありません。レギ様からクルスト様とおっしゃる方が仕事の都合で王都を離れることになったとのことです。遠方での仕事らしく王都には戻らないそうです。」


「クルストさんが......そうですか。今度食事でもと話していましたが、残念です。」


「そうじゃな。妾も一緒に食事をする予定じゃったが、仕事では仕方ないのう。縁があればまた会うこともあるじゃろう。」


「そうですね......ちなみにクルストさんはもう王都を出られたのですかね?」


もしまだの様だったら挨拶くらいはしておきたいのだけど......。


「はい、今朝旅立たれたそうです。なんでも突然の仕事だったみたいでレギ様達も街を出て行かれる直前に聞かされたとの事です。」


そっか......それじゃ仕方ないね......。

この世界では当然ながら簡単に連絡を取る手段はないし、街の外は危険で魔物やよからぬことを企む輩も少なくない......らしい。

俺は盗賊に遭遇したことは一度もないし、魔物との遭遇も魔道具でおかしくなった魔物を除けばグルフがいた群れだけだ。

正直街の外には危険が多いと言うのは実感できていないが......クルストさんはあんな感じだけど慎重で情報を重視するタイプだからきっと危険は避けて行動していくはずだ。

この先、他の神獣様を探してあちこち行くわけだし、ナレアさんの言うように縁があれば会えるだろう。

まぁ、何となくだけどまた旅先でひょっこり会いそうなんだよね。


「そうですか......わかりました。ありがとうございました。」


「いえ......神殿に詰めていなければ挨拶くらいは出来たかと思います。申し訳ありません。」


「ヘネイさんが謝る必要はないですよ。」


「うむ、レギ殿達も偶々会えたようじゃが、タイミング次第では誰も知らない間に旅立っておったじゃろう。知らせてくれただけでもありがたいと言うものじゃ。」


「そうですよ、今回の仕事とは関係ない内容にも拘らず教えて下さって感謝しています。」


「......ありがとうございます。」


ヘネイさんとしては今生の別れになるかもしれないという思いがあるからこんなに申し訳なさそうにしているんだろうな。


「さて、ケイも戻った事じゃし魔道具の方に取り掛からせてもらおうかの。もうすぐ出来るのじゃがヘネイも見ていくかの?」


そう言ってナレアさんが作業に取り掛かる。

警備中だと言うのに恐ろしくマイペースだな......。


「お邪魔で無いようでしたら是非。」


ヘネイさんが椅子から離れて俺の側に来る。

机はナレアさんが作業をするので邪魔にならないように移動してきたのだろう。


「ヘネイさんは応龍様の所に行かなくていいのですか?」


「はい、お酒を購入してきて欲しいと言われていまして......量が多いので明日注文して......数日はかかりますね。次に聖域に行くのはその後になるかと。」


微妙にヘネイさんの笑顔が怖い......。


「今回の件の報告はいいのですか?」


「先程連絡が来た時に簡単に説明は致しました。応龍様が一番気にされていた魔物の異常行動については魔道具のせいというのが判明していましたので......後の事は人の力で何とかするべきというのが応龍様の考えです。」


「そういう事ですか......。」


クレイドラゴンさんのスタンスなら確かにそう言ってもおかしくないな......でも、こっちは結構大変な状況なのにお酒を要求するって......いや人と感覚が違うのだろうけど......そういう問題でもないような......。

里帰りのストレスで、呑まないとやってられないって言う可能性もあるかもしれないけどね。

その場合俺のせいかな......?





クレイドラゴン氏的にはもう依頼は完了しています。

ケイ達的にはせめて騎士団が王都に戻ってくるまでは警備をするつもりです。

人がどうしようと極力干渉しない存在と人の世界に生きる者達の意識の違いですが

意識の違いはどんな間柄にも起こることだと思います。

犬派と猫派とか、たけのこときのことか……話が違う?


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タイトルは召喚魔法の正しいつかいかた

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