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アウターレコード  作者: 真鍋仰
可視化できない傷
18/18

第1章16話 「愛情の証明」

短めです。

「暦はいい子ね」


 母親は叱りつけるとき、最後に決まってそういった。

 温かく笑って、頭をなでて呟くのだ。何度も。何度も。


「謝れるというのはきちんと悪いことだとわかっているから。だから暦はいい子なのよ」


 そして、もしもと続けた。


「それがわからなくなって。思いも込めずに謝るようになったらそれは悪い子よ。わかったかしら?」


 幼い暦には半分もわからなかったけれど、思い切り頷いてわかった、と答えた。

 そんな姿を見て母親はほほえましげに頭をなでる。


「暦はいい子でいてね」


「うん!」


 それはおぼろげに残る記憶の残滓。

 六堂院暦が、六堂院暦たりえるための思い出。

 だれよりも愛しい人への想い出。


 そして「悪い子」にならないためのきっかけだ。






 ある日、父親が壊れた。

 ふとした拍子に、ぼろぼろと。

 たとえば、風化しすぎた塗装のように。


 理由といえば、それはもう複雑怪奇で、暦には理解が及ばない。

 けれど、これだけはわかった。


「わたしはいい子でいなくちゃならない。悪い子ではいけないんだ」


 つよいひとは壊れてしまった。

 あたたかいひとは壊されてしまった。


 だから。


「わたしはこわれちゃいけないんだ」


 特殊な家だということは暦にもわかっていた。自分が普通でないことも、薄々はわかっていた。結局、最奥の秘密(いのう)はわからなかったけれど、違うことはわかっていたのだ。


 外に出なければいい、ではなく。

 家にいなければならない、と決意したのは父親が壊れてすぐだった。


 母親はもういない。

 父親はまだ自分を愛してくれている。


 だからわたしも。


「お父さま。わたし、お父さまが大好きよ」


 愛さなければならない。愛し返さないといけない。

 そうやって教わったのだから。






 父娘はお互いに愛し合っていて、それは傍から見ても歴然で。

 まがいものじゃない。

 うそでも、幻想でもないし、ニセモノであっていいはずがない。


 だってアカイロがそういっているでしょう?

 生まれてからずっと結びついているアカイロが。






 好きを知らず、恋を知らない少女はけれども愛を知っている。

 愛だけは教えてもらったから。

 支え合ういびつな父娘の愛はずっと証明され続けてきたのだから。






 大丈夫。

 きっと、大丈夫。


「わたしがいれば、こわれてない」


 直っていないことを知りつつも、少女はずっと思い込んできたのだ。

 甘く、とろけた愛を知っているから。

すみません。課題に追われていました。

今も追われ続けているので、投稿は遅くなるかもです。

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