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名無しの悪魔ちゃん  作者: こめっこ
第3章 欲望の街
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悲しみのラリアット

 隊商がオーガの潜む林の前を通ると、四体のオーガが雄叫びを上げながら飛び出して来た。


「グガアアアアアアア!」

「来たぞ四体だ! メリッサ! ジャック!」

「りょーかい!」

「任せろ!」


 ロックさんの合図に既に矢を番えていたメリッサさんとジャックさんがオーガに矢を放った。

 二人が放った矢は目標に命中した。だが、それを意に介した様子もなくオーガ達はこちらに向かって来る。射手の二人はそれに驚いた様子も見せず、次々と矢を放っていき、ついに先頭を走る一体を仕留めた。


「よし、いいぞ! おい、お前ら。俺達で二体持つ、あと一体任せたぞ」

「おうよ」

「アンタは念の為商人達の護衛を頼んだ」

「分かりました」


 ロックさんが素早く指示を出す。オーガ達はもう目と鼻の先だ。


「よし、行くぞヒューイ!」

「おう!」


 そう言って彼等は先陣をきってオーガに向かって駆け出した。射手の二人も弓を捨て各々の近接武器に持ち換え、彼等の後に続いた。


「俺らも行くぞヤムクーン!」

「ようやっと出番だな!」

「へへっ、いくぜ!」


 ヤムクーンて……。


「俺らの勇姿を見てて下さい姉さん!」

「あっはい」


 私に一言告げるなり、三人組は雄叫びを上げながら意気揚々と駆け出した。



 一足早く接敵した『フィーバーズ』は、ロックさんとヒューイさんがそれぞれの別の一体に斬りかかった。


「ぜやあああああ!!」

「グガアアアアアア! ガアアアア!」


オーガ達は枝を落としただけの太い木の棍棒で彼等の剣を受け止めて弾き返す。


「おっ、と!」


 しかし彼等もオーガの剛腕とまともに勝負する事はせずに受け流す。

 そして彼等が注意を引きつけている隙に、メリッサさんとジャックさんがオーガの死角から攻撃を仕掛けた。


「くらえええ!」

「はっ!」


 一撃で仕留める事は出来なかったが、それぞれオーガの身体にそれなりの深手を負わせた。傷を負ったオーガは牽制するようにブンブンと棍棒を振り回す。


「メリッサ、いつもので行くぞ!」

「りょーかい兄貴!」


 彼等は危なげなく距離を取り、片方を囮りに攻撃のタイミングを見計らい、安定した立ち回りを続ける。

 兄妹ならではの息のあった連携だ。

 これならオーガを倒すのも時間の問題だろう。


 一方『タイラント』はオーガ一体を三人で囲み、安全な距離を保ちつつ死角から攻撃を仕掛けて確実にオーガを弱らせていた。


「おらぁ!」

「グガアアアアアアアアア!」

「うおっ! あぶね!」

「よしきた、おらよっ!」


 あ、意外と堅実に戦うのね……。


 そうしている間に『フィーバーズ』が一体を仕留め、残った一体を総掛かりで攻めてあっという間に仕留めた。

 それとほぼ同じくして『タイラント』もオーガに止めを刺して戦闘は終了した。

 私の出る幕は無かったが、彼等の実力を知れた良い機会だった。


「お疲れ様でした」

「おう。どうだったよ俺らは?」

「良かったです! 安心して見ていられましたし」

「そうかそうか。アンタにそう言われると悪い気はしねえな、ははは」

「姐さん俺らはどうでしたかい!」

「あー……うん、まあ普通に良かったんじゃない?」

「ありがとうございやす!」

「よっしゃ! 姐さんに褒められたぜ!」

「イェア! ハッハー!」


 一体彼等がどうしてこうなったのか、私はもう考える事を止めた。


 その後、オーガの討伐証明の角と魔石を回収して、首を落とした死体を森の入り口まで運び、再び出発した。



 先程の戦闘を皮切りに魔物の襲撃が増え、疲労したメンバーと入れ代わり、私も戦闘に参加する事になった。

 今回の敵はベアウルフ八匹だ。

 熊なのか狼なのかはっきりして欲しいが、一メートル程の狼の身体に、熊の頭部がくっ付いた不気味なフォルムを見て納得してしまった。


 私が前へ出ると、八匹が一丸となって向かって来た。

 こちらから向かう手間が省けて好都合だと、私は街を出る前日に購入した新品の中古の剣? を抜いた。

 向かって来るベアウルフをすれ違い様に一匹、二匹三匹と次々一刀の元に斬り伏せていく。しかし――


 キンッ


 五匹目を斬りつけたその時、新品の中古の剣が甲高い音を立ててポキリと半ばから折れてしまった。


「マズいわ!」

「ヤベえ! 避けろ!」

「「「姐さん!」」」


 「あ……」と咄嗟に折れた新品の中古の剣を見ると、好機と判断したのか残りのベアウルフ達が一斉に飛び掛かってきた。


「「「姐さ――」」」

「こんの、ばかぁああ!!」


 私は折れた剣を握りしめたまま飛び掛かって来たベアウルフ達を打ち返す様にまとめてラリアットを叩き付けた。少しムキになっていたせいか、何の手応えもなく数十メートル先まで飛んで行った怨敵はそこで動かなくなっていた。


 かーなーしーみのー



「うぅ……私の新品の中古の剣(銀貨一枚)が……」

「おい大丈夫か?」


 膝をついて落ち込む私にロックさんが声を掛けてきた。


「いえ……大丈夫じゃないです……」

「ッ!? どこだ見せてみろ!?」


 私はポッキリと折れた剣をロックさんに見せた。


「何だこのゴミは? そんな物より早く傷口をみせろ」

「……ゴミ……」


 確かに刃も欠けてボロボロだけど買ったばっかりの新品なんだよ!


 瞬間的に魔力で覆うか魔剣にしておけば……と後悔が残る。が、過ぎてしまった事はどうしようもないのだ。

 おかげで以降の戦闘は以前の様に『かくとう』に逆戻りだ。まあでも、ぶっちゃけ素手の方がやり易くて複雑な気分だ。




 そうして今日も無事に野営地に到着した。

 設営の準備は昨日で要領は分かったので手早く寝床の整地を済ませ、無心で薪集めをした。


 待ちに待った夕食の時間だ。

 しかし、残念ながら今日のメニューも干し肉とクズ野菜の塩スープだ。

 こんな物では剣を失った私の喪失感は紛れないだろう。


 いや別に文句なんてないよ、不満なんかある訳ないよ。だって、食べられるだけで幸せだもん。


 夕食はあっという間に無くなり、残り僅かとなった干し肉を齧る。

 今日の干し肉はいつもより少し、そうほんの少しだけ塩辛かった。私はこの味を生涯忘れないだろう。

 ナナシ、自称十八歳。まだまだ食べ盛りな年頃だった――


 って、何言ってんのよ私は……。


「ど、どうしたのよ!? 急に干し肉齧りながら泣き出しちゃって」

「ハッ! オメエにゃあ分かんねえだろうが、姐さんにゃ俺らじゃ図りきれねぇぐれぇでっかい悩みがあんだよ」

「はぁ? それアンタも分かってないじゃん」

「うるせぇ、姐さんの気持ちを汲んでやれっつってんだ」

「はぁ? それならアンタ達だってあの子の事何も分かってないじゃん」

「ああ? なんだと!」

「なによ!」


 え……? 何で喧嘩してんの……?

 もしかして私のせい? えっ?

 これ私のせい……なの……?

 アレか、私の為に争わないで! とか言った方がいいパティーンですか……?

 いやいや、ふざけてる場合じゃないって! 真面目に止めなきゃ!


「あ、あのー……」

「大体アンタ達ね――」

「ああ? 俺らがなんだってんだこの野郎!」

「私のどこが野郎なのよこのハゲッ!」


 ああ、ダメだ。全然聞こえてない。


「あ……あのっ!」

「なに!? 今忙しいの……あら」

「あ、姐さん! どうしたんですかい!?」

「二人とも聞いて下さい」


 先程までとは一変して、鎮まり返った野営地にゴクリと誰かの息を飲む音が妙に大きく聞こえた。

 私は意を決して言葉を続けた。


「これは、汗です!」

「…………」

「…………」


 辺りにはより一層の沈黙、いや静寂と言ってもいい静けさが訪れた。

 あれっ…………え、なにこの空気どうしよう……。


「……ぶはっ! ぶはははは!」


 しかし、この無とも呼べる静寂を壊した(つわもの)が現れた。その名はロックさんだ!


「いやーおんもしれー嬢ちゃんだなー。まあでも……ほら、お前らも下らん喧嘩してねえで仲良くしろよ?」

「…………」

「…………」

「……はぁ。そうね、何だか馬鹿らしくなってきちゃったし、もういいわ。私もムキになって悪かったわね謝るわ」

「お……おう」

「なによ、それだけ?」

「お、ああ、俺も悪かった……すまん」


 何だかよく分からないままに始まったケンカは、一人の勇者の登場によって無事に終息した。

 やはりパーティを率いるリーダーともなると、人の扱い方が上手いのだと思った。


「にしても、真面目な顔して何を言い出すかと思えば目から汗って。……ぶはっ!」


 えっ!? そこで笑ってたの!? 別に笑わせる為に言ったんじゃないんだけど……。





外に出ると家の前の水路いっぱいまで水が上がっていました。今は少し弱くなっていますが、これ以上雨が降るとやばいっす(;ω;)


ここまでお読み頂きありがとうございます(๑˃̵ᴗ˂̵)

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