私の理由
本格的に暑くなってきました。皆さん熱中症にもお気を付け下さい!
「姐さん、姐さん。起きて下さい」
「…………んぅ…………スヤァ……」
「嗚呼……姐さん……なんて尊いんだ……」
「……お前何拝んでんだ……? つーか起きねえのか、しゃあねえな」
ペシペシッ
「あっ!? てめぇ姐さんに何て事を!」
「……はふぅ……むにゃむにゃ……」
「……はぁ……尊い……」
「起きねえな……」
ペシペシッ
「てめぇ! またっ!」
「……んぅ……? ……はっ!?」
「嗚呼……目覚められたんですね姐さん……」
「おう、やっと起きたか」
目が覚めると、そこには見知った凶悪な顔があった。
私とした事が、どうやら寝入ってしまっていたようだ。
起き抜けにトムの顔面はあまり心臓に良くない。それにどうやらロックさんにも迷惑を掛けてしまったようだ。
どうにも私は一度寝ると中々起きないみたいだ。
これは乙女としてよろしくないですね……。
「あ……すいません。わざわざ起こしてもらって」
「気にすんな。つーか、もうちょい警戒した方がいいと思うぞ」
「え、あっはい。気を付けます。トムも一応、ありがと」
「はぁ……尊い……」
「え?」
「俺も良く分からんが、あんま気にすんな……」
ひとまず起き上がり、何故か惚けているトムと交代してロックさんと不寝番につく。
正確な時間は分からないが、真夜中と言っていい時間帯だろう。
辺りはしんと静まりかえっているが、どこからともなく鈴虫のような鳴き声がひっきりなしに聴こえてくる。時折パチンと焚火のはじける音に惹かれて、ついつい炎に見惚れていると、まるで心が何処かへ連れ去られてしまうようだ。
「……なあ、アンタはどうして冒険者なんてやってんだ?」
「どうして、ですか?」
「ああ。……冒険者なんてのは聞こえはいいが、実際のところ荒事の専門家みてぇなもんだ。汚れ仕事だってやんなきゃならねぇ時もあるしな」
どうしてと問われると成り行き、としか言えないけど……。
言われてみれば、確かに冒険者である必要もないか。とはいえ戦闘以外にこれといった特技がある訳でもない。
まあ、これが一番効率よく稼げるのが理由かな……。
「いやな、アンタがつえーのは分かっちゃいるし、疑ってもねえが、その見た目なら他にも道があったんじゃねえか、ってな? その歳であのアベリアの副組合長まで伸したって聞いたからよ。逆に何があればそんだけ強くなる必要があったんだって気になってよ」
結局のところはどうして私が強いのか、という事だろうか。
その答えは分かってはいるけど、私は本当の意味で私が何なのか分かっていない。
こうして人間の姿で取り繕っても、私の本性は悪魔であり化物なのだ。
ルーク君とフランちゃんには何も考えずに正体を明かしてしまったが、恐らく彼等の反応こそが稀なのだと何となくな直感でしかないが、そう思っている。
私がヒトとは違った異質な存在である事をロックさんが知ったらどんな反応をするのだろうか。
もしかしたら何か知っていて、話が聞けるかも知れないが、それが悪い情報だとしたらと考えると、とてもではないが怖くて言えない。
こんな時だけ臆病だな……。
「いや……わりぃ、詮索はよくねえな。悪い癖だ。いっぺん聞いてみたかったんだ、忘れてくれ」
「あ、いえ……」
私は自分という存在を知る為に王都へ向かっているのだが、それを知ってしまうのも少し……怖い。
結局のところ私が誰で、どこから来て、一体何なのか、なんて知ったところで何かが変わる訳では無いのだと、そう自分に言い聞かせた。
気が付けば交代の時間になっていたが、どうにも先程の事が頭から離れずに眠れないまま出発の時間を迎えた。
あーもう止め止め!
こんな事ばっかり考えてまたポカやらかしちゃったら目も当てられなくなるよ!
よし! 仕事に集中集中!
簡単な食事という名の干し肉を齧りながら、私達は日の出よりも少し早く出発した。
出発して一時間程で既に退屈を感じていたが、開けた草原に踏みならされて出来た道を歩くというのもなかなかに風情が感じられて、これはこれで悪くないものだと思った。
他の冒険者達はただ歩いている様に見えるが、それなりに気は張っているみたいで、あの『タイラント』のメンバーですら周囲に目を向ける事は欠かしていない。
私は私で、魔力探知で危険が迫っていないか定期的に探っている。
街道から結構離れた茂みには、私がまだ見た事のない魔物と思われる反応は多々あるが、距離もあるし特に動きがある訳でもないので放っている。
しかしよく考えれば、もし何かがあったとして、それをそのまま伝えていいのかという疑問もあったりする。
今更目立たないようになんて考えてないけど、悪目立ちをして変な誤解だけは招きたくない。
出発して半日程過ぎた頃、魔力探知に三百メートル先の街道脇の林に四体の生物を捕捉した。
四体共に木の裏に隠れるようにして街道の方を向いている。
形状はざっくりいえば人型、背丈は二メートル半位で、額から一本の角、そして上半身が異様に大きい。
なんだろこれ……ゴリラ? でも普通に立ってるし、角もあるね……? 魔物だとは思うけど、多分まだ見た事ないやつだ。
少し悩んだが、念の為ロックさんに伝えに行く事にした。
「ロックさん」
「どうした?」
「あそこの林の茂みのところに何かいるみたいですけど」
「どこだ?」
「あそこの木の所です」
あ、今の距離なら目でも見えるね。全身緑色だ。今流行りのゴブリンカラーだ。
身体が大きいせいで隠れ切れていないけど、体色が保護色になってるから言われても気付かないかも知れない。
「いや、流石に遠すぎて見えんな。どんな奴か分かんねえか?」
「あ、はい。えっと、緑色で腕が太くて額から角が一本生えてます」
「この距離でそこまで分かんのか……? いや、まあいい。そいつは多分、つーか間違いなくオーガだろうな。どうすっかな……この距離なら向こうからはとっくに気付いてそうだしな」
おおう、言われてみれば二百メートル以上先に隠れてる相手が見えるこの視力もなかなかヤバいね。
見えるなら石化しちゃえば早いけど、後々マズい事になる可能性もゼロじゃないし。
この能力イマイチ使いづらいんだよな……。
「五、六体なら問題ねぇが、こればっかりは分かんねえしな。他に道もねぇし、しゃあねぇか」
「あ、四体です」
「分かるのか……? ……いや、まあアンタもいるしな、もしもん時は期待してるぜ? おいお前ら! 右前方の林んとこにオーガだ、警戒しろ!」
そんなに期待されたら張り切っちゃうよ? と、言いたいところだけど一先ず様子見かな。
視力良くならないかなー(;ω;)
ここまでお読み頂きありがとうございます(๑˃̵ᴗ˂̵)




