バレちゃった
この世界には様々な種族がいる。
エルフやドワーフ、獣人といった獣の特徴を持った種族もいて、それこそナナシの様に角が生えていたりする者いる。
アベリアの街ではあまり見る事は少ないが、そういった種族がいる事は周知されている。
では何故、ルークが彼女を化物だと言ったのか。
それは目だ。正確には彼女の光る目が問題だった。
獣のように光を反射して光っているように見えるのであれば分かるが、彼女の瞳は明らかにそういった類の光り方ではなかった。
これは魔人や悪魔、他にも高位の吸血鬼といった強大な力を持つ存在の特徴としてお伽話でもよく語られていた。
今でこそ眉唾物として扱われてはいるが、それらが引き起こしたと云われる歴史も実際に残っている為にあながち作り話だとも言い切れないのだ。
そうでなくとも、これまで人族だと思っていた人物に突然禍々しい角が生えて、目が光っていたら誰しも驚くのは必然であった。
「えーっと……」
ナナシはやってしまったとばかりに二の句が継げずにいた。
「フ、フラン! 早く逃げろ!」
ルークはフランだけでも逃がそうと、ナナシを見つめたまま口を半開きで固まってしまったフランを必死に揺り動かす。
「いや、あの――」
「フラン頼む早く逃げてくれ!」
ナナシがルークを宥めようと声を掛けるが、その声を打ち消すようにルークが必死に叫ぶ。
「…………あ。って、こらルーク!」
「いてっ!?」
すると、これまで呆然としていたフランが正気を取り戻し、ルークの頭にゴチンと拳骨を落とした。
「フラン今はふざけてる場合じゃ――」
「ルーク落ち着いて!」
「だからそんな場合――」
「その人はナナシさんだよ、よく見て」
フランは振り返った瞬間こそ驚いたが、すぐにナナシだと分かっていた。しかし、この短時間での彼女の変貌ぶりに理解が追い付かず混乱していたのだ。
「ッ!?」
「まぁ……そうだね……」
そして、今度はその事実に気付いたルークが口を大きく開けてナナシを見たまま固まってしまった。
「……ナナシさんのその姿は……」
「あー……なんていうか……一応コレが、本当の私……かな……」
「本当の……?」
悪魔の姿を見られた彼女は、仕方ないと半ば諦めた様子で今の姿こそが本来の自分であると語った。
しかし、それを聞いたフランが意外にも冷静である事を不思議に思ったナナシは怖くないのかと尋ねた。
「え? だってナナシさんですよね? さっきは驚きましたけど、別に怖くは……あ、でもその威圧は抑えて貰えると助かります……あはは」
「あぁ……ごめん」
ナナシは特段威圧をしている訳では無かったが、魔力を抑える為に人間状態へと戻った。
「っぐぅ!」
「ルーク! ルークしっかりして!」
その時、ルークが傷の痛みに声を上げた。
顔に大量の油汗を掻き、苦痛に顔を歪めている事から相当我慢していた事が窺えた。
ここで悠長に話し合いをしている場合ではなかったのだと気を取り戻したナナシがルークを抱え上げ、いわゆるお姫様抱っこをした。
「お、おい! な、何やってんだ!」
「とりあえず街へ帰るよ。いいから少し大人しくしてなさい、そんな体じゃ歩けないでしょ? フランちゃんは私の背中に捕まって」
「え……は、はい。……こうですか?」
「うん、しっかり捕まっててね!」
「俺は自分で――」
ルークの言葉を遮り、自分で切り開いて作った森の一本道を二人もの人間を抱えてひた走り、街への帰還を急いだ。
その道中、意識を朦朧とさせながらルークが呟いた。
「俺はナナシがどんな奴でも気にしねえからな……」
そう言って彼は意識を失った。
ルークからまさかの気遣いの言葉と、初めて名前で呼ばれた事に驚いた彼女は、一瞬目を白黒させた後「ありがとう」と一言返した。
ナナシは街へ到着してすぐに街の治療院へと二人を運んだ。
フランは比較的軽症ではあったが、極度の疲労で魔法薬による治療が終わった途端に気絶するように眠ってしまったので、大事を取って一日入院する事になった。
この世界には回復魔法があるが、矢が刺さった状態では当然意味がない為、先に抜く必要がある。
麻酔といった物は無いので我慢するしか無いのだが、ルークに刺さっている矢は五本。
彼の治療が始まると絶叫が響き渡った。
数十分後、治療が終わると彼も気絶するように眠りについた。
ルークも命に別状はないと聞かされ、一先ず安心したナナシは再びその足でゴブリンの集落へと向かった。
しかし、そこにゴブリン達の姿は無く、既にもぬけ殻であった為、再びここに魔物が住み着かないように集落を破壊して、森に置いてきた道具や二人の武器を回収して街へと戻った。
時刻は既に夜の十時を回っていたが、街へ戻ったナナシは今日の報告する為に冒険者組合へと足を運んでいた。
「あら、ナナシちゃんじゃない? 久しぶりねえ、こんな時間にどうしたの?」
「あ……ゴメスティーヌさん、お久しぶりです……」
「んもぅ、名前じゃなくてお姉さんって呼んでいいのよ? それに暗いわよ? 本当にどうしちゃったの?」
ナナシは副組合長であるゴメスティーヌに今日の出来事を話した。
考えて事に集中しすぎて対象の二人と逸れてしまった事、そのせいで二人に大怪我を負わせてしまった事をありのまま報告した。
そして、この依頼はゴメスティーヌの推薦だと聞いていた事もあり、彼女は殊更申し訳なさそうにしていた。
「そうだったのねぇ。でも、そんなに気にしなくてもいいわよ?」
「え……ですけど」
「あのね、冒険者になったからには自己責任なのよ? 二人が自分達の力を過信して勝手な行動をして死んじゃったのなら、それは本人達の責任よ。それに二人は無事だったんでしょ?」
「それは……そうですけど」
「あの子達もこれに懲りて無茶しなくなるでしょうし、魔物の恐ろしさが分かったんじゃないかしら? その事を理解したならこの依頼はむしろ成功よ」
「…………」
「……はぁ。それに、アナタも勉強になったんじゃない? 依頼中に余計な事を考えてると大変な事になるって」
「はい……」
「この依頼はね、駆け出しの若い冒険者の保護だけじゃなくて、依頼を受けた冒険者の成長も兼ねて組合から依頼を出してるの。Cランクからは護衛依頼も受けれる様になるから、この依頼はその予行訓練ってところね。だからあの子達も、ナナシちゃんも、今回はいい経験になったでしょ?」
問題ないとゴメスティーヌに説明されたナナシだったが、やはりその表情はどこか落ち込んでいた。
「それにまだ後一日残ってるでしょ? あの子達が回復してからでいいから、しっかり頑張んなさい。いつまでもそんな顔してたら相手も不安になっちゃうわよ? 冒険者なんだからもっと、どーんと構えなさい。大体ね、私達の時なんかもっと――」
落ち込むナナシを元気付ける為に語り出したゴメスティーヌだったが、話の流れがいつの間にか恋愛の話へと変わって行き「あ、これ長くなる奴だ」と思った時には手遅れで、彼女はゴメスティーヌの恋愛話を延々と二時間、聞き続ける事になった。
だが、そんなどうでもいい話を聞き続けるうちに彼女の表情にも晴れ間が差すようになっていた。
すみません二日程更新休みますm(_ _)m
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