ヒーロー
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「はぁはぁ、あと、どれくらいっ! くッ! かな」
「もうっ、少し、だりゃあああ!」
「はは、そう、だねっ!」
彼等の周囲には二百に近い数のゴブリンが取り囲んでおり、互いが背中合わせで周囲の敵を牽制し合う事で辛うじて膠着状態を保っている。
しかし、極度の緊張に晒されるあまり集中力は乱れ、更に疲労により体の動きも鈍り、次第に彼らの体には傷が増えていった。
「ルーク、もう、はぁはぁ、腕、上がんない、かも」
「ダメだ! フラン、諦めるな!」
フランの持つ短槍は通常の槍と比べて軽いが、それはあくまでも通常の槍と比べての話である。
僅か十五歳の少女が我武者羅に振り回していれば、すぐに力尽きてしまう事は目に見えていた。
それはルークとて同様で、剣を持つ彼の手も既に力が入っていない事が分かる様にぷるぷると震えていた。
ひとたび自分達の間合いへの侵入を許してしまえば、そこから雪崩式に攻め込まれ、数秒ともたずに蹂躙されてしまうだろう。
それも最早時間の問題と思えたその時、ゴブリン達が一斉に退がり、二人を逃すまいと展開していた筈の包囲網が解かれる様に広がっていった。
「な、なんだ……?」
「あきらめた……とか……」
ありえないと思いつつも、自分達が生き残れるかも知れない僅かな希望を抱きかけた瞬間、空から一本の矢が二人の間を駆け抜けていった。
それは無情にも彼らの淡い期待を打ち壊すかの如く、一射目を皮切りに次々と矢が降り注いできた。
「きゃっ!」
「フラン! ぐッ!」
足元に突き刺さった矢に驚いたフランが転倒した。
それを見たルークは咄嗟に倒れたフランを庇う様に矢面に立ち、咄嗟にゴブリンの死体を盾にしながら降り注ぐ矢を剣で弾く。
「うぐっ! があああああ!」
「ルーク! ルーク! もうやめてルークが死んじゃう!」
しかし、その全てを処理するに敵わず、矢の斉射が止んだ時には彼の身体に四本の矢が突き刺さっていた。
「大丈、夫……か?」
「やだよぅ……死んじゃやだよルークぅ……」
「何、言ってんだ、こんぐらい、ッぐ!」
弓矢の一斉斉射が止むと、息つく間もなく再び包囲網がじわりじわりと展開されていく。
頭部や胴体にこそ矢を受けていないが、ルークの肩や太腿には矢が刺さっており、左腕に受けた矢は腕を貫通してしまっていた。
誰が見ても戦闘など出来る状態ではく、早急に治療をしなければ命にも関わる状態だ。最早剣を握るどころか立ち上がる事すら困難だろう。
それでも彼は、大切な人を守る為に気力を振り絞り、覚束ない足で立ち上がった。
しかし、既に死に体のルークが立ち上がった程度では大勢にさしたる影響がない事は火を見るより明らかである。
せいぜい数分、命を長らえるだけに過ぎないのだから。
つまり、彼等のこれまでの抵抗ですら初めから無意味でしかなかったのだ。
「立てフラン! まだ諦めんな!」
未だ座り込んで泣きじゃくるフランに、ルークが立って戦えと言った。
「ルーク……」
「……まだだ! まだアイツがいる! だから諦めんな!」
「……アイ……ツ……?」
「ナナシだ! アイツは! ナナシは! 絶対来る!」
「ナナシさんが……でも……」
ルークの言葉はただの気休めに過ぎなかった。
彼自身ですらそんなに都合の良い話があるとは思ってはいない。それに、どれだけ彼女が強かろうとこの数の相手をどうにか出来るなどとは思っていない。
だが、無力な彼にはそれ以外にフランを励ます言葉が見つからなかったのだ。
「絶対に俺がお前を守る! だから最後まで諦めんな!」
「ッ!? ……ルーク……分かった、私も最後まで諦めない!」
何か特別な事を言った訳では無かった。
だが、彼の心からの叫びは、彼女をもう一度奮い立たせるには十分だった。
ゴブリンの集団に取り囲まれ、逃げ道すら失った若い冒険者達は最後まで抗う決意をした。
満身創痍の彼らに残された時間は残り少ない。
一つのミスが死に繋がる極限の中で、お互いを支え合うように気力だけで立ち上がり、力の限り刃を振るい続ける――
「うっ……!」
カランカラン
「フラン!」
まともに動く事すらままならない疲労の中で、辛うじて握っていた槍をフランが取り落とした。
その隙を待っていたかの様に、興奮したゴブリン達が今まさに彼女に襲い掛かろうとする光景がルークの瞳に映った。
咄嗟にフランを庇おうとするが、彼の身体も満足には動いてくれず、足に突き刺さった矢の鋭い痛みに彼はガクン、と膝を突き、再び立ち上がる事も叶わず、無様に地を這った。
「いやっ! ルーク!」
「フラン! やめろおおおおおおお!」
お互いがお互いの名前を必死に呼び合う、それが彼らに残された唯一であり、最後の抵抗だった。
若い冒険者達はこうして散って行くかに思えた、その時――
消えかけていた彼等の希望が一陣の風と共に現れた。
今まさに二人に群がりかけたゴブリンの一団を、その人物は拳の一振りで纏めて薙ぎ払った。
いつの間にかゴブリンの包囲網には穴が空いており、その先の直線上に乱立していたはずの木々は悉く倒れ、遥か先の方まで続く一本の道が出来ていた。
ゴブリン達は突然仲間が吹き飛び、代わりに現れた不可解な人物から目が離せなくなっていた。
諦めかけていた二人も何が起きたのか理解が追い付かず、只々呆然と目の前に現れた人物を見上げていた。
命を賭した戦場に於いて、まるで不自然な静寂がこの場を支配していた。
「私が、来た!!」
「…………」
「…………」
ナナシは何故か腰に両手を当て胸を張った姿勢で、チラリと二人の姿を見て眉を顰めた。
予想以上に深刻だった二人の状態に、彼女は勢いでやってしまったとは言え、自らの行いを後悔した。
そして、数秒前まで死の瀬戸際にいた二人は、彼女の行動も言動も理解できないといった表情でナナシを見ている。
その二人のなんとも言えない表情と、場違いな程にしんと静まり返った空気に耐えきれなくなったナナシの頬は、まるで朱を注いだ様に赤くなっていた。
「…………」
自業自得とも言える自らの言動で、居た堪れなくなったナナシは、二人にかける言葉に詰まっていた。
「ほんとに……きてくれた……」
「あぁ……」
「で、でも……一人じゃ……」
「……二人とも後で説教だから」
「「ッ!?」」
半ば八つ当たりとも取れるナナシの放った短い言葉は、油断していた二人に別の恐怖を抱かせた。
しかし、何故か二人の表情からは曇りが消えていた。
彼女は前線のたかだか十数匹を葬っただけで、それは全体として見ればごく僅かである。
依然として彼らが追い詰められている事実に変わりはなく、未だに気を抜ける状況では無いはずだが、彼女の言い草はまるでこの後が続く事が確定しているのだと言いたげで、そんな彼女の一言が無意識に二人を安心させた。
「あんた達退く気はない?」
「……ギギッ!?」
ナナシがこれまで固まった様に静観していたゴブリンに語りかけた。
「ギギャッ! ギャッギャッ!! ギギャァアア!」
「ギギャッギギャッ! ギギャアア!」
彼女の言葉に我を取り戻したゴブリン達は、奇声を上げて一斉に武器を振り上げた。
「……まぁそうだよね」
ナナシが一つ呼吸を吐いた途端、彼女の姿がブレたかと思えば三人を取り囲んでいたゴブリン達が吹き飛んだ。
そこから一瞬の間を置いて、ナナシがゴブリンの集団に向かって腕を一振りしただけで、十以上のゴブリンが哀れな骸と化した。
まるで有象無象を薙ぎ払うかの様に敵を蹴散らすその意味不明な光景に、二人は傷の痛みも忘れて、ただ呆然とその状況を眺めていた。
ナナシが周囲のゴブリンを一通り片付け、魔力探知で周辺を探ると、三十匹程茂みに潜んでいる弓兵を発見した。
それと同時に、集落の方向から他とは毛並みの違う三体のゴブリンが歩いて来ているのが見えた。
それはこれまで見てきたゴブリンと同種だとは思えない程の立派な体格を持っており、至る所に転がっているゴブリンを睥睨しながらこちらへ向かって来た。
通常のゴブリンの身長はせいぜいが百三十センチメートルなのに対し、左右を歩く二体の身長は二メートル近くあり、その間を堂々と歩く一体はそれら二体よりも更に頭一つ分程大きかった。
左右の二体は真ん中の個体を護衛するかの様に立ち進み、親玉と思われるゴブリンは二体の間を悠然と歩き、ナナシと一定の距離を置いて立ち止まった。
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