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絶望した日

初めての投稿になります。

思い付きで書き殴った稚拙な作品ですが、一読して頂ければ幸いです。


※最初は少しグロいので耐性のない方はご注意下さい。

 濃い緑が鬱蒼と生い茂る森の中にあって充満する血の匂い。

 光を遮る程に覆い茂った森の中でここだけ不自然に日の光が差し込んでいて、この一帯だけ異質な、ともすれば地獄とも形容される光景が広がっていた。


 折れた木々や下草に乱雑に飛び散った臓物。

 その持ち主だったであろう、すり潰された大小様々な肉塊。

 それは執拗に何度も何度も叩きつけられ、何度も何度も踏み潰されたと思われる。


 比較的原型が分かる黒い毛で覆われた獣の脚が落ちていたが、それですら何ヶ所も折れた形跡があり、引き千切られた断面からは白いモノがのぞいていた。


 辺りを見渡せば、この一帯を中心に樹木は半ばからへし折られていて、地面はいたるところが抉れ、そこかしこに血溜まりが出来ていた。







 そんな場所に、少女が一人佇んでいた。








「っう、ゔぇぇぇぇ」


 そして、少女は吐いた。





♢ ♢ ♢





 雷が落ちたような轟音で目が覚めた。


 ……いや、気のせいか。


 もう少し寝るか……。



 んぅ……にしても……このお布団、妙にチクチクするな。それに硬いし……。

 お布団としては失格だな……。



 ……眠れん! いい加減に起きるか。


「ん……何だこれ……」


 目を開けると薄暗い森の中だった。


 うん。ちょっと意味が分からない。



 この私の灰色の脳細胞を持ってしても、この状況は如何とも理解しがたいものである……などと、どこかの文芸作品にありそうなフレーズで現状を表そうとする程度には軽く現実逃避してしまったが、おかげで少し落ち着いた。


 周りを見渡せば、木々が視界を覆い尽くさんばかりに至る所に生えていて、こんな場所には不自然な大小様々な石の欠片が転がっている。

 上を見上げれば枝葉が空を遮っているせいで薄暗い。


 さながら樹海といったところだろうか。

 そしてどういう訳か、私はそんな大自然溢れる森の中で寝ていたようだ。



 何気なく頭を掻こうとすると、何か硬いものに触れた。

 

 何だこれ?

 ゴツゴツしてるけど。

 あっ、角か! えっ……角!? ……角?


「もう訳分からん……」



 口の中にも何か違和感があり、何気なく舌で歯をなぞってみる。


「ふぁがふぉがっふぇふゅ!」


 いや、歯が尖ってるんだって!


 鏡が無いから何とも言えないけど、普通じゃない。それだけは分かる。



 夢かとも思い一応ほっぺをつねってみた。


 痛いような痛くないような……よく分からん。

 ふむ、もしかするとこれが噂の明晰夢なのでは……?


 まぁ、いいや。

 で、明晰夢って何するの?


 このままここに座っていてもしょうがないと思い、辺りを確認する為に立ち上がる事にした。


「って、なんで裸足やねん……!?」


 シンデレラに憧れるにしても片足だけにしとこうよ!


 そして立ち上がって気付いた。

 すっごく髪が長い! 腰まであるんですけど?


 ここまで長いと流石に鬱陶しいな。ほんとにこれどんな夢なんだ。

 いや、落ち着け私。明晰夢なら靴ぐらい出てもおかしくないはず。


「いでよ、靴!」


 ……あれ? 何も出ないな……?


「プリン!」


 おかしい……。


「焼肉!」


 …………。



 考えたくはないけど、もしこれが夢じゃなかったら結構まずい状況なのではなかろうか。

 それにさっきから何だか頭がモヤモヤするし、まるで誰かに邪魔されている様な……気のせいか……?


 というか今更気付いたが、私は……誰だ……?


 ここにきてまさかの記憶喪失説が浮上してきた。

 夢遊病で記憶喪失とか絶望感しかないんですが?

 しかもピンポイントで自分の事だけ分かんないし……。


 この状態で自力で森を抜けろと……?


 角や歯の事は一先ず置いておくとして、今の私の格好は色んな所が破れてボロボロの汚い色のドレスみたいな服を着ている。

 ドレス……うん……多分ドレスだと思うけど本当に汚いな。

 何があったらこんな格好で、こんな山の中に居る状況が作れるのだろうか?

 誘拐された? でも犯人とか見当たらないしな。

 持ち物も何もないしな。

 そういえば何だろこの石ころ? いっぱい落ちてるけど水晶か……? いや、それどころじゃないや。



 すんなり森を抜けられればいいけど、そう上手くは行かないだろうと心のどこかで理解している。

 なにせ見知らぬ森で、方角も何もあったものではない。

 だけどここにいても生存の可能性は薄いだろうと思う。

 ふう、とため息をひとつ吐き、覚悟を決めて歩き出した。



 ……そろりそろり



 私は石橋は叩いて渡る主義である。

 ふむ、裸足だが意外と痛くない。

 おそらく雑草が私の足を優しく包みこんで守ってくれているのでしょう。いや、知らんけど。

 何はともあれ、これならどうにか進めそうだ。




 三十分も歩いただろうか。

 不思議と肉体的な疲れもなく、足も全然痛くない。だが見通しが悪く薄気味悪い森の中で気を張っているせいか精神的な疲労が大きく、気分も落ち込んできた。

 そして、代わり映えしない景色に早くもウンザリしてきた私は気分転換に歌う事にした。


「あるぅーひ、もりのなか、クマさ――」


 しかし、どうやら選曲を誤ったみたいだ。

 考えてみて欲しい、このシチュエーションでこの歌を歌わずにいられるだろうか? 否! これ程までに今を体現している歌は無いだろう。


 ……だから悪いのは私じゃないはず。


 しかし、どう言い繕ったとて現実は変わらない。

 私は最悪のフラグを立ててしまったらしい。



 ……グルルル



 五メートル程離れた木の陰から、一頭の黒い獣がのそりと現れた。

 真っ黒な毛に覆われ、私の背丈を軽く上回る大きさの見たこともない巨大な四足獣。

 その手脚には曲線を描いた鋭い爪が備わっている。

 そして口元には獲物を仕留める為の長い刃物の様な牙があり、その巨体も相まって、まるで太古の生物であるかのように感じられる。

 その瞳は赤く不気味に輝き、獲物である私を睨みつけている。



「ぁ……」


 恐怖。それだけが私の頭の中を支配した。


 そんな私に追い打ちをかけるようにその周りの木陰から更に四頭現れた。

 すぐに襲っては来ないが、どれも私を値踏みするかのようにじっとこちらを見ている。



 ドクドクドクドクドクドクドクドクドクドク


 心臓が早鐘を打つ。

 鼓動が生命の危機を伝えてくる。

 早く逃げろと私を急かす。

 恐怖のあまり私の心情とは逆に膝が腹を抱えて笑っている。

 腰こそ抜けていないが、風が吹けば今にも崩れ落ちるだろう。


 どこにも逃げ場などない。


 私はここで誰にも知られる事なく獣の腹の中に収まるのだろうか。


 嫌だ!


 無抵抗で命を差し出すつもりなどない。

 たとえそれがほんの数秒だったとしても。

 何の意味もない行動だったとしても。

 私は最後まで抗ってやる。


 そんな風に強がってみる。

 だって、こうでも言わなきゃ泣き崩れてしまいそうだから。


 

 覚悟は決めた。


 私は振り返ると同時に覚束ない足で走り出す。

 だがそれも束の間、僅か二歩目で躓き、三歩目で華麗にヘッドスライディングを決めた。


 ははっ、ほんと穴があったら埋まりたいわ……。


 死――


 明確な死が背後から迫って来る。




 少女が振り返ると同時に堰を切ったかのように襲いかかってくる獣達。

 少女の必死の抵抗など何も意味をなさない。

 全身は恐怖に震えて力など入らない。

 噛みつかれ、引きずられ弄ばれる。

 迫りくる死に泣き叫ぶ。

 覚悟を決めたつもりだった、だが現実はそう甘くなかった。


 嫌だ怖い死にたくない。

 助けて! 誰か! 声にならない悲鳴を上げるが、人里離れた森の中に助けなど来ない。

 ましてや見知らぬ人間の為に命を懸けて猛獣に立ち向かえる者など、物語の主人公ぐらいだ。

 希望などここにはありはしない。


 まるで子供がおもちゃを振り回すかの様に軽々と振り回され、もはやどこが上で、どこが下かもわからない。

 目まぐるしく変化する視界に三半規管は麻痺している。

 投げつけられ、叩き付けられる体。

 もし生き残れたとしても、まともな生活は送れないだろう。

 人間の無力さをまざまざと痛感させられる。

 幸いというべきか、脳内麻薬(アドレナリン)のおかげか、不思議とまだ痛みは無い。


 だが、それも時間の問題だろう。



 ――死にたくない


 だけどそれが叶わない事は自分が一番分かっている。

 せめてこのまま苦しまず死にたい、それが私の最初で最後の願いだ――





 

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