七夕に願いを
1000文字以下の恋愛モノです。
7月7日
それは、彦星と織姫が、一年に一度だけ逢うことを許された日。
丁度、その七夕の日に、日本へ帰国した私は、遠距離恋愛中の淳一と久し振りに出逢うべく、少し早い夏休みを貰って、元々住んでいた町へやって来たのだ。
「ここも、変わって無いなぁ」
田舎の風景を、感慨深い面持ちで見回して居ると
「当たり前だバカ! お前が越してった春休みから、半年も経たないのに、そんなに変わってたまるかよ」
そう、ぶっきらぼうな声がする。
間違いない、淳一だ。
「ただいま。ねえ、少し背が伸びた?」
「竹の子じゃねーんだ。そう簡単に伸びるわけねーだろ」
そう言って、私の荷物を持ってくれた。
暑さで陽炎の立つ田舎道を、淳一の後をついて歩きながら
「そう言えばさ、今日七夕じゃない? 稲荷神社で、お祭り遣ってるでしょ。一緒にいこ」
「他に行く奴いねーの?」
「綾子には、連絡したんだけど、用事があるんだって」
「何だよ、しゃーねーな。じゃあ、7時に境内で落ち合おうぜ」
そう約束し、祖父母が住んでいる家の前で別れた。
何よ! 淳一ったら! 久し振りに逢ったのに、綺麗になったぐらい言えないの!? 浴衣姿で行って言わせてやる。
その後、お婆ちゃんに、浴衣を着せて貰って、お祭りに出掛けたは良いが、慣れない草履のお陰で捻挫してしまったのだ。
「私って、ドジだなぁ」
「まったくだ」
淳一にまで、言われてしまった。
ほら、背中に背負ってやるからと、屈んでいる彼の背中へ身を預ける。
「ねえ、重くない?」
恐る恐る尋ねると
「いや、お前は細過ぎんだよ。もっと食え」
ふっくらしてる方が好みだし、と消えそうな声で言った。
淳一は境内の裏手に回ると、そろそろかなと呟くと同時に、前方で花火が上がり始めた。
誰もいない、二人きりの特等席で、花火を見る。
来年もまた来れるだろうか?
本当は、海外なんか行きたくない。ずっと淳一の隣に居たい。
一年に一度しか逢えない、彦星と織姫の気持ちが良く分かる。
「お前……何泣いてるんだよ?」
「だって、もう淳一と、離れ離れに成るのは嫌だよ」
ポロポロと、溢れだした涙は止められない。
淳一は、そんな私を抱き締めて
「来年も再来年も、ずーと一緒にここで花火を見よう。約束だ」
そう言った唇で、私の唇を塞がれた。
二人は、花火が上がる七夕の夜空の下で、約束を交わす。
きっと願いは成就するだろう。
だって、今宵は七夕なのだから。
お読みくださり、ありがとうございました。