顔が熱いのは誰のせい?
すごくお久しぶりです。
これからも亀より遅い更新でのんびりと続きます~
「あれ、今日なんか人多くない?」
いつも通りの朝、私とソウ君が改札を抜けて駅のホームへたどり着くとホームは人であふれていた。
トラブルか何かで電車が遅延しているのかと思い、電光掲示板を見るも特に何も流れてはいない。
「向こうの駅が動いてないらしいな」
だから振替輸送を使う人たちがこっちの駅に来ているんだろう、とソウ君は制服から取り出した携帯で調べたであろう情報を私に伝えてくれた。
「わわ、そうなんだね。調べてくれてありがとう」
”向こうの駅”というのは私たちが通学で使っている鉄道会社とは違う鉄道会社が走らせている電車のことだ。
この駅とは正反対の位置にある。まぁ、正反対の位置って言っても歩いて15分かからないくらいだからそこまで遠い場所にあるわけじゃないんだけど。
「ほんと人多いね。いつもの時間のやつに乗れるかなぁ?」
「ほんとにな。でも乗れなかったとしても次の電車に乗れば遅刻はしないから大丈夫だろ」
そう。私たちはいつも電車の一本や二本遅らせて遅刻しないような時間に家を出ている。
なんで部活も何もない私たちが早めに出ているのかって?あれこれ考えてしまう心配性なので。主に私が。
数分待って電車がホームに滑り込む。
いつもより多く人が乗るから私たちも乗れるかなって心配だったけど、なんとか隙間を見つけて乗り込むことができた。
電車のなかはいつもより当たり前だけど人が多い。
私たちは今ドア付近にいるんだけど、このドアは私たちが降りる次の駅まで開くことはない。
私たちが降りる駅までは今いるところと反対のドアが開くのでドアにもたれかかっても問題がないのが不幸中の幸いだ。
二つ目の駅に止まり、乗客が増える。
もう満員電車と言っても過言ではないくらいの過密具合。
都会の電車ってこれよりもっと混雑してるんだろうなぁ。
絶対都会の通勤ラッシュとか経験したくない。
そんなとりとめないことを考えているとソウ君が身じろぎをし、体を回転させた。
私とソウ君の顔が向かい合わせになる。
「どうかした?」
「ちょっと揺れるから手すり掴みたくて」
苦笑しながらソウ君は近くに合った椅子横にある手すりを掴んだ。
体幹ありそうなソウ君でも手すりは使うのか。でも確かにこんなに混んでいたら何かにつかまっていた方が安全だろう。
ちなみに、今はドア付近にもたれかかっているから体がふらつかないけど、何か支えになるものがない時の私は驚くくらいよろける。体幹を鍛えなければならない。切実に。
ふと、満員電車に乗っている割には息苦しくないことに気が付いた。
きょろきょろとあたりを見渡すと私の周りだけ、ほんの少しだけどゆとりがあったのだ。
そして私は気づく。さっきソウ君が私の方に体を向けたのは、平均より不本意ながら少々身長が低い私が息苦しくないように距離をとってくれたおかげだろうと。
ありがたいと思いつつ、ソウ君が窮屈になるのも嫌なので、私は声をかけた。
もちろん電車の中なので、内緒話をするように小さな声で。
「ソウ君、もうちょっと近づいても大丈夫だよ」
人多いもん、と言葉を続ける。
「……じゃあ、ちょっとだけ」
ソウ君の体が半歩私に近づいた。
「ごめん、狭くない?」
「ううん。大丈夫だよ」
そんな言葉を交わしてすぐに、電車が揺れ、踏ん張れずにたたらを踏んだ私の体がソウ君の体にぶつかってしまう。
瞬間、思い出されるのはこの前寝ぼけたソウ君に抱き着かれたこと。
「わっ、ご、ごめんね!」
つい声が大きくなってしまった。そんな私に、大丈夫と笑い、宥香の方こそ大丈夫?と心配してくれるソウ君。
さっきぶつかった時の体のたくましさによって、あの日の記憶を鮮明に思い出してしまった。
ソウ君とは小さい頃からずっと一緒だったから、手をつないだことだって抱き着いたことだってもちろんある。記憶の中のソウ君はいつだってかわいくて子ども特有の柔らかさにあふれていた。
でも、さっきぶつかった時のソウ君と記憶の中のソウ君は全然違った。
ソウ君の手っていつからこんなに硬くてごつごつしてた?
ソウ君の体格っていつからこんなに良かった?
ソウ君っていつからこんなに男の人だった?
顔が、熱い。
なぜか顔が熱くなる。顔を見られたくなくて、顔を伏せて崩れてもいない前髪を整えるふりをした。
もうすぐ駅だな、なんてソウ君の言葉が遠く聞こえる。
電車が駅に着き、ドアが開く。
私たちが降りるこの駅は乗換駅かつ高校の最寄り駅だから人の乗り降りが激しい。
その人の波に乗じて私たちも電車を降りた。
無言でソウ君の後ろをついていく。
いつもなら横並びで話しながら改札まで向かうけど、今日は混雑しているから横には並べない。
それがなぜか今は少しありがたかった。
そんな一言も話さない私を不審がってか、ソウ君が声をかけてきた。
「宥香……?乗り物酔いした?それとも人混みに酔った?」
私の顔を覗き込むようにその長身をかがめる。
「う、ううん!大丈夫!電車にも人混みにも酔ってないよ!」
いつもならなんとも思わない顔の近さに今日は戸惑ってしまい、顔をそむけてしまった。
「何もないならいいんだけど……。てかなんで今顔そむけたの?」
「き、気のせいじゃないのかなぁ?うん、気のせいだよ」
気のせい気のせいなんてソウ君の顔を全く見ることなく答える。
何それ、なんてつぶやいたソウ君が
「宥香こっち向いて」
そう言って、むにゅりとソウ君の手が私の頬を掴んだ。
強制的にソウ君の方に顔が向かされる。
待って、待って、今の私なんか変だから……!
そんな私の願いもむなしく、私とソウ君の目が合う。合ってしまった。
ソウ君の瞳に真っ赤な顔をした私が映っている。
「なんで、そんな、顔、」
驚いたようなでも少し期待したような面持ちでソウ君は私を見つめた。
頬を掴まれている私も強制的にソウ君を見る。
無言で見つめ合う私たち。
私たちが固まっていると、
「あれ?宥香に田島?こんな朝から見つめあっちゃって……。どしたー?」
その声に私はぱっと身を翻して、声の主、真悠子に飛びつく。
な、なんて良いタイミング!これぞ神の采配!
「お、おはよう真悠子!一緒の時間になるなんて珍しいじゃん!一緒に行こ!」
変なところで手が止まっているソウ君はそのままに、田島はいいのー?なんて言ってる真悠子をグイグイ押しながらその場を離れる。
「ご、ごめんね!今日は真悠子と一緒に行くから!帰りも多分真悠子と帰る!」
ソウ君へ。
君の幼なじみは今日はなんかちょっとおかしいのでいったん距離を置かせてください。明日には多分いつもの通りになっているはずなので!
さっきから、なぜか顔が熱くて、今日はソウ君の顔はまともに見れないだろうなと、頭の片隅にいる冷静な私が悟ったのであった。




