心配と少しのイジワル
「―――」
今日は来週に控えた体育祭の予行練習。
カンカンに照り付ける太陽のもと、全校生徒がグラウンドに集まり、開会式、閉会式の練習をしている。
しっかし、なんで高校生にもなってまで行進の練習やらなんやらをしなければならないのだろうか。小・中・高ですることなんてそんなに変わらないと思うのに。
……それにしても暑いなぁ。
なんでこういう予行って午後の授業でするんだろう。絶対暑いってわかってるじゃん。午前でいいじゃん。
日光が肌をじりじりと焼く感じがする。
もうちょっと日焼け止め塗っとけばよかったかも…。
水筒と一緒に持ってきてはいるんだけど。あとで塗りなおそう。
早く終わらないかなぁと思いながら朝礼台に立つ人に視線を向ける。
あの人誰だろ。ていうか今何やってるんだっけ?きっと台に立っている人がしゃべっているんだろうけど私の頭に入ってこない。
体を動かそうとするも、なぜか体の動きも緩慢になっていく。あれ、私、こんなに体の動き鈍かった?
視界の隅がじわじわと黒く染まっていき、私の体から力が抜ける。
そこで私の記憶が途切れた。
目を開けると、割と白めな天井。
気が付くと私はベッドの上にいた。
…わぁ。すっごい既視感。
大丈夫?また小さくなってない?
自分の体を見下ろすと、見慣れた体育服が目に入った。
とりあえず体を起こそう。
シーツに手をつき体を起こす。
まだ少し頭がふらつくのは…許容範囲だろう。
「あら、目が覚めたの?気分はどう?」
えっと…?
ここはきっと保健室で、目の前にいるのは先生なんだろうけど。如何せん保健の先生を間近にみたことがないから確証が持てない。
「あ、はい。大丈夫です…?」
「あなた、さっきの予行練習で倒れちゃったのよ。軽度の熱中症と貧血で。覚えてない?」
熱中症と貧血…?
倒れる前の記憶があやふやで自分の体調が悪かったなんて覚えていない。
覚えていないという風に首をかしげると、先生は授業が終わるまで休んでていいと言ってくれた。
幸いここは窓から外の様子がわかる。私はみんなの様子を見ることにした。
……やっぱり冷房が効いてるっていいな。文明の利器最高だわ。
窓からみんなの様子を観察していると、生徒たちが続々と校舎内へ入っていくところが見えた。
ここからだとマイクの音が聞こえにくいからよくわからないけど、きっと終わったのだろ。時間的にもそうだし。
体調も良くなったわけだし、教室に戻ろうかな。
「先生、私教室に戻りますね」
「体調はもう大丈夫なの?」
「はい。ありがとうございました」
先生に挨拶をし、ドアを開けようとすると、コンコンとドアをたたく音が聞こえた。
この場所にたっていると邪魔だろうから後ろに下がる。
「一年三組の田島です……って宥香!?体調は!?」
目の前に現れたソウ君はわたしの両肩に手を置いて顔を覗き込んだ。
「えと、体調は大丈夫だけど…ソウ君はなんでここに?」
「どうしてって……宥香が倒れたって聞いたから」
それに…とソウ君は言葉を続けた。
「宥香がまた目を覚まさなかったらって…」
ソウ君は昔の、私が倒れた時のことを思い出しているようだった。
「わ、私はもう大丈夫だから、外に出よう?」
そ、それに保健の先生も驚いているし。
いつまでも保健室に居座るのもなんだし、私はソウ君の体を反転させ外に踏み出した。
教室の外は暑くて、でも少し静かで。
私はソウ君の様子をそろりとうかがう。なんか怒ってる…?
沈黙が場面を支配した。
「……宥香。倒れたのはなんで?」
「は、はい!軽い熱中症と貧血だそうです!」
原因はわかりません!
すると突然、ちょっとごめん、と声がかけられ、私の体は宙に浮いた。
ひぁぁ!情けない声が上がる。
私はソウ君によ、横抱きなるものをされていた。
お姫様抱っこってよく少女漫画でやってるときは、きゅんってしてるけど、実際やられるときゅんじゃない。心臓がぎゅんってなる。ときめきじゃなくて足が地についてない恐怖。
きゅんきゅんじゃない。ぎゅんぎゅんだ。
「そ、ソウ君…?どうして私は横抱きをされているのかな…?」
「どうしてって、宥香の体に負担をかけないように?」
絶対そんなのが理由じゃないでしょ!えーっとえーっと、
「あ!荷物!ソウ君、私、荷物、置いたまま!後重いから下ろしてください…!」
なんか焦りすぎて片言っぽくなってしまった。
「荷物は橘たちが持って行ってたし、宥香は重くない」
それに、とソウ君はそのきれいな顔にいじわるそうな笑みを浮かべてこう言った。
「いつも宥香に振り回されてるから、たまにはいいかなって」
良くない良くない絶対よくない。
「待って、ほら不安定だから私が歩いたほうが絶対安定感あるよ」
「宥香が俺の首に手をまわしてくれれば安定する」
これ以上言っても、ソウ君は私を下ろしてくれないと思い、そろそろと首に手をまわす。
首に手をまわしたおかげで安定感はよくなったけど、その代わりソウ君の顔がとっても近くに来た。
か、顔が良い…。じゃなくて。羞恥心に襲われている私はそのまま顔をソウ君の首元に埋めた。
あれ、この状態だと顔は見られないけど、もっと密着しちゃうじゃん!
耳元でソウ君のかみ殺したような笑いがして、私はさらにまわした腕をぎゅーっとするのだった。
一定のリズムで揺れる体とソウ君の心地よい体温が眠気を誘い。
私はソウ君に抱き着いたまま眠ってしまっていた。
ちなみに、ソウ君は眠ったままの私を抱きかかえたまま教室に入ったそうで。
もう絶対寝落ちするものかと固く誓うのだった。




