幼なじみを思い出した
昨日はとっても疲れた日だった。
なんせ、転生したということに気づいてしまったから。まぁ、特に何か覚えているかって聞かれたら、わかりませんっていうことしか言えないけどね。ぼんやりって感じで。
一日入院して、家に帰る。あれからどうなったかをお母さんに聞いてみると、いきなり倒れた私を救急車で運び、大事を取って入院ということしか言ってないらしい。
今日、お詫びというか説明?に行くというので私もついていくことにした。
「宥香ちゃんっ!大丈夫?美香子さんには大事を取って入院っていうことを聞いてたけど…… でも、元気な姿が見れて安心したわ」
田島家に行くとすぐにママさんの熱烈なハグで迎えられた。ちなみに美香子、というのは私のお母さんの名前だ。
「えぇ…。先生が言うには検査をしても何も異常はないらしいんだけど。多分、引っ越しで疲労が溜まったんじゃないかって」
そ、そうだったのか……。確かに、こういう前世を思い出す時って痛みを伴うのが定石だしね。
多分あれでしょ?前の私が何年生きたとかわかんないけど、三歳児の脳には情報過多でオーバーヒートしたって感じでしょ?そんな漫画あったもん。
……あ、これ多分前世の記憶だわ。
う~ん、でもなんで前世を思い出したんだろう。
そんなことをつらつらと考えていると、ママさんに声をかけられた。余談だが、ママさんの名前は紫織である。きれいな名前。
「宥香ちゃんが元気になって本当によかったわ」
「ありがとうございます!でもわたしげんきだよ! あのね、そうたくんとまたおはなしできないかなぁ。このまえはあんまりおはなしできなかったから……」
初対面で倒れるとか絶対トラウマ案件じゃん。
「ふふっ。それじゃあ奏太を呼んでくるわね。ちょっと待ってて」
そう言ってママさんは家の中へと戻っていった。
一、二分してママさんが戻ってきた。横には奏太君がいる。
前世っぽいものを思い出して二回目の奏太君は、めちゃくちゃかわいかったです。
え、いや、めっちゃかわいいんだけど。髪はこうなんていうの?触ってないからわかんないけど絶対キューティクルやばいやつ。風に吹かれてフワッみたいな感じ。
目とかもなんかすごくて、ザ・美少年。
……私の語彙力の無さが露呈しただけの説明だわ。
いや、あれだよ。人類皆かわいいものやかっこいいものを見ると語彙力が一時的に消滅するんだよ。うん。
決して私の語彙力が皆無だということではないと信じたい……!
そうやって私が必死に誰かに向かって弁明していると、ママさんの声が聞こえた。
「お隣に引っ越してきた、宥香ちゃんよ。奏太とお話がしたいんだって」
「ゆかちゃん……?」
どうやら私は奏太君に認識されていないようだ。悲しい。
と、ここまで大体空気だったうちのお母さんが私の背中を押した。物理的に。
あれは、話してこいということかな。よし!話しかけるぞ!
「あ……」
……あっっぶな!さらっと改めましてとか言おうとしたよね、今!普通三歳児が改めましてとか言わないよね!てことは私の前世はOLだった、とか?あぁもうなんでこういうどうでもいい情報がでてくるのかなぁ!
「あ……」って言ったまま止まったから、奏太君、絶対不審に思ってるんじゃ……。
とりあえずなんか言おう。ええいままよ!
「あ、遊ぼうっ!」
……遊ぼうってなんだよ。お話したいとか言ってたじゃん。
と一人で反省していると「ゆ、ゆかちゃん」と声が聞こえた。
顔を上げるとニコニコ笑顔の奏太君。
「ぼくもあそびたい!いっしょにあそびたいなっ」
……かわいい。い、いかんいかん。奏太君のかわいさに呆けてしまった。
「どこであそぶ?」
奏太君が聞いてきた。あ、考えてなかった。
「え~っとね。どこがいいかな」
言って、越してきたばかりだからここの地形?には疎い。
「ねぇねぇおかあさん。どこかそうたくんとあそべるところ、ないかな」
そうやって聞くも、「私もわかんないわよ~」と言われた。
「あら、じゃあ私の家に来る?」
そういったのはママさんだった。
「でも、いいの?」
と聞くお母さん。
「えぇ大丈夫よ。それに家の中の方が何かと安全じゃないかしら?私たちもおしゃべりできるし」
と、ママさんが言葉をつなげる。
「ここから公園とかに行くより、私の家の方が近いわよ。どうせお隣同士なんだし」
「じゃあ、お言葉に甘えようかしら」
お母さん同士が話すこと数分。
ずっと玄関前で立ち話していたわけですけども、奏太君の家で遊ぶことが決まりました。
玄関から奏太君たちの家に入るや否や。
こっちだよっ!ととても元気な奏太君につられて家の中を探検?することになった。
いきなり手をぎゅっっと握られてあわあわしていたら、ぼくがゆかちゃんをあんないするね!と。
早かった。とっても早かった。
二階にある寝室とか奏太君の部屋とかいろいろ見て回った。
そして最後に、お母さんとママさんがいる一階のリビングへ。
ガチャリとドアを開けてリビングに入る。
お母さんたちの視線が私たちに注がれる。
正確には私と奏太君の手だ。
ずっと私たちは手をつないでいた。……手を放すっていう選択肢はないのかって?奏太君は美少年です。
手を放そうとすると、ダメ?と小首をかしげられる。キラキラしい笑顔でこんなこと言われたら拒否することなんてできないわ。
ママさんが奏太君に声をかける。
「奏太、宥香ちゃんと仲良くなれたのねぇ」
「うん!ぼくね、ゆかちゃんだいすき!」
……え?こんな短時間で?
「ゆかちゃんも、ぼくのことすきだよね?」
奏太君が私に問いかける。あざとくない?
「……う、うん。わたしも、そうたくんす、すきだよ」
さすがに好きってのは、ためらう。
自分の言葉に照れていると、奏太君がつないだままの手をグイっと引っ張った。
「むこうにね、たくさんのかみがあるの。いっしょにおえかきしよ!……あとね、ぼくのことはそうってよんでほしいな!」
そう言って私にキラキラとした笑顔を向ける。……まぶしいなぁ。
目を細めているのに気付いたのか、どうしたの?と声をかけてくる。
「ううん。なんでもないよ。そうくん」
「そっか。はやくいこう!おいていっちゃうよ」
あれ、なんか奏太く、違った。そう君だ。のセリフに違和感がある。なんていうんだろう。既知感?っていうやつっぽい。
なんか見たことあるような……。でもどこで?
あれは確か、パッケージに描かれていた、そう君に似た男の子。
男子高校に入学した田島奏太。そこで出会うさまざまな男子たちとどんどん仲良くなっていく。
最後に選ぶのは青春・友情それとも、恋愛?
「一緒に行こう!」
忘れられない三年間が今、幕を上げる……!
遠い昔に中古屋のゲーム売り場で見た記憶。
ゲームをあまりやらない私が何となく手に取ってみたBLゲーム。
プレイしたことはないけど記憶の片隅に残っている。
これを思い出した途端、体に力が入らなくなり、その場に倒れる。
「ゆかちゃんっ!?」
「宥香!?」
「宥香ちゃん!?」
みんなから声をかけられる。でも体がうまく動かない。
薄れゆく意識の中で思ったことが一つ。
そう君が、私のここでの初めての友達が、まさかのBLゲームの主人公だったなんて……!
前世の記憶を思い出して二日目、友達がBLゲームの主人公ということを知りました。