プロローグ
初の連載……!お手柔らかにお願いします。
その日が多分、わたしが私になった日。……なんだと思う。
三歳になって少し経った時、わたしたち一家は引っ越しをした。
荷造り等が終わってから、おかーさんに連れられて隣の家に挨拶をしに行った。
「こんにちは。隣に越してきた者ですが」
と、おかーさんがインターホンを鳴らし、声をかける。
ガチャリという音がして、はーい、と言いながらお隣さんが出てきた。
ふわー。すっごくきれーなひと。
子どもながらにソワソワしていると、おかーさんが声をかけた。
「はじめまして。先日隣に越してきた、里見といいます。これからよろしくお願いします。こちらが娘の宥香です」
ほら、挨拶しなさい、と後ろにいたわたしを前に出す。
「……はじめまして!さとみゆかっていいます。さんさいです!」
「はじめまして。田島と申します。こちらこそよろしくお願いしますね。私たちにも宥香ちゃんと同い年の息子がいるんですよ」
そう言っておかーさんと話していたママさんは、今度はわたしの目線に合わせてしゃがんだ。
「宥香ちゃん、ちょっと待っててね。今、私の息子を呼んでくるからね」
少し経ってから、家の中からパタパタというような音がして、男の子が顔を出した。
ママさんに似て可愛らしい男の子だ。
「おかーさん?どーしたの?」
「奏太、今日からねお隣に住むことになった、里見さんよ。挨拶しよっか」
「うん!わかった!」
そう言ってわたしたちの方に向き合った。
その時に私は、なぜだろう。その男の子に既視感を覚えていた。
んー?どっかで見たことあるような?
極めつけはその名前だった。
にこにこと輝くような笑顔で自己紹介をしてきた。
「はじめまして!ぼくのなまえは たじまそうたです!さんさいです!」
その名前を聞いた途端、わたしにたくさんのなにかが入ってきた。
それと同時に割れるような頭の痛みも。その痛みに耐えられなくなり、頭を抱えてしゃがみ込む。
宥香!?というお母さんの声も、どうしたの!?というママさんの声も、そうたくんのあっけにとられた顔もわたしには何もわからず。
…すごく痛い!いたい、いたい、っ痛い!
それしか考えられなかった。
目が覚めたら知らない天井だった。
……ほんとにこんな状況ってあるんだ。漫画とか小説とかの世界の話かと思ってた。
てか、ここどこ?うん。割とマジで。
そう思いながらきょろきょろとあたりを見回そうとする。
でも、できなかった。起き上がろうとベッドの柵らしきものを掴もうとしてできなかったのだ。
……あ、あれ?私の腕ってこんなに短かった?いやいやいや、落ち着け。
私の目論見通りだと、普通に届くはず、なんだけど。
手を中途半端に伸ばしたまま固まっていると、目が覚めたのねっ!?という声が聞こえた。
声のした方に顔を向けると、今にも泣きそうな顔をした女性が。
その顔を見て、記憶がストンと私の中に落ちてきた。
「あ、おかあさん。おはよう……?」
「お、おはようじゃないでしょ!?いきなり倒れて…!お母さんすっごく心配したんだからねっ!?」
それもそうだ。三歳の娘がいきなり倒れて意識不明になったら誰もが取り乱すだろう。
心配かけちゃったし、謝らないと。
「…しんぱいかけてごめんなさい」
「お母さんこそ、大きな声出しちゃってごめんね」
それからは目が覚めたということで検査とかをした。いろいろ検査したけど、何もなく。でも一応大事を取って一日だけ入院することなった。
お母さんとか看護師さんがいなくなった部屋で、今日のことを考える。
初対面で倒れちゃうって、けっこうなことしちゃったなあ。
そうたくんとかトラウマになってなければいいんだけど。
と、まあいろいろ現実逃避をしていたんですけど。
私が覚えているよりもだいぶ短く、ぷくぷくした体を見つめ、はぁ、とため息をつく。
それはどう見ても子どもの手。
今世の名前 里見宥香。
どうやら転生してしまったようです。