5話 鳥の散歩は三歩
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意味がないことが好きだ。意味のあることも好きだが、意味のないことは殊更好きである。
しかし、意味のないこと全てが好きなわけでもない。
意味のないことでも、とりわけつまらないものは嫌いだ。意味があるから面白いわけじゃない。意味がないから面白いわけでもない。
なら、意味がないのに面白いことは、意味があって面白いものよりも価値が、値打ちが、取り柄が、美点が、意味が、ある。
そう、______は考える。
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よしだ君へ
よしだ君の
おおきな背中を見て、すごい頼りある人だなって
思います。
悲しいときも嬉しいときも
どんなときでも
よしだ君と一緒にいたいなってそう思います。
凛々しくて気品のあるあなたが好きです。 つきあってください。
今日の放課後、校門前で待っています。
Sより
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「なんだこの恋文は」
吉田悠也は憤慨する。知能指数の低い作文に。これではまるで小学生が書いたものではないか、と。
しかし、小学生ならば、それはそれでいいとも思った。
「小学生か……」
「えっ、ついに目覚めたのか」
後ろにいた、山田に独り言を聞かれてしまった。
そんな山田を無視して、手紙を丁寧にポケットにしまい、教室の後ろ側の扉を開ける。
席に着き、頭の中を整理する。
今日も朝の妹の目覚ましは最高だった。いや、最高という言葉では表すことのできない、美しさ可憐さ可愛さ儚げさ、自分の語彙では言い表すことのできないものだった。
吉田悠也の頭には既にラブレターのことなど無かった。
午前の授業が終わり、昼休みになった。
三人の男が周りに群がる。大門、山田、鈴木だ。なんの許可もなく周りの席に座り昼飯の準備を始めた。
いつも通りの光景だった。
気にせず自分も持ってきた母お手製の弁当を広げる。
「やっさん、今週末ナンダムやりに行かないか?」
鈴木が、ハンバーグを頬張りながらデートのお誘いをしてきた。
「あー、ナンダムか、いくいく」
ナンダム、それは巨大ロボ同士が戦う熱い男のゲームなのだ。この誘いに乗らずして、何に乗るというのか。
「じゃあ、そのあと大門の家で泊まりでゲームしようぜ」
「あー、行けたら行くかな」
きっとナンダム以外のゲームであることに違いない。そんなものに行く意味はない。しかし、理由もなしに断るのは、よくない。
吉田悠也は気遣いのできる男だった。と、自分でそう思っている。
「絶対来ないだろやっさん」
笑いながら、指摘する大門。
「まぁ、そもそもおれは今週末無理だわ」
大門は何やら予定があるのか、断った。
こんな年中暇な人間に予定があるとは、恐れ入った。
吉田悠也は心の上っ面で謝罪した。
昼食を済ませ、ゆっくりと、眠りに落ちていく。