4話 友達未満恋人未満
山田と二人きりの環境を抜け出す為の策を必死に考えていた。
すると、いつの間にか学校へ到着していた。
「これが、ジャネーの法則か……」
ネットサーフィン中に見つけた法則の名を思い出す。
時が過ぎるのが早く感じる現象の名前だった。と、吉田は思い出す。
※ジャネーの法則……主観的に記憶される年月の長さは年少者にはより長く、年長者にはより短く評価されるという現象。
「いや、ジャネーの法則じゃねーよ。さっきからずっとガン無視決め込んどいて、急にしゃべったと思ったら意味わからないこと言って、やっさん頭トチ狂ったのかよ」
山田は少し早口に捲し立てる。
「あっ、いや、なんでもない。あと、もう少し離れて歩いて。友達だと思われちゃうだろ」
吉田は少し早足になって、玄関に急ぐ。
「まぁ?あっ、そっかぁ。おれたち友達じゃなくて恋人だもんね」
甘えた口調で山田が肩を寄せる。
「いや、汚いから。汚くて汚くて震えるから。やめて」
そう言って、歩みを早める。
「はー、キレそ」
諦めたのか、山田は少し離れた。
玄関の正面扉は、開いていた。自分の下駄箱を開ける。
ひらり___と。何かが落ちる。
「やっさん、何か落としたよ。」
山田が落ちたものを拾い上げ、それに目をやる。
丁寧に折られた紙。折り紙なのか、何故折り紙が。
「やっさん、これは、恋の文と書いてラブレターだ」
山田は告げた。
「_____________」
動揺する。激しく、動揺する。
彼女いない歴=年齢の彼に恋文など、バレバレのオレオレ詐欺のようなものだった。
いないはずの息子からオレオレ詐欺がかかってくるくらいには滑稽であった。
今更そんなものに情熱が湧き出るわけがない。熱情が迸るわけがなかった。
「ま、こんなの大門の悪戯でしょ。まえ、聖にもやってたし。芸がねーな。な、やっさん」
山田は夢の無い男だ。ロマンの欠片もへったくれもない男だ。だから、彼女どころか友達もいないのだ。
「やれやれ、おれにも春が来たか」
人というのは気まぐれな生き物だ。先刻までは山田の言う通り、悪戯の線で考えていたが、山田と同じ意見ならば、即否定しなければならない。脳みその無い、いや、脳みそに寄生虫が湧いているような人間と同じ思考など、あってはならない。
「まぁ?正気かよ、やっさん。絶対悪戯だから。やっさんにラブレターなんて来る訳ないから」
毒を吐く。吉田は傷ついた。
山田の手から、ラブレターを奪い取り、乱暴にポケットに入れて、教室へと向かう。
道中、ラブレターを読む。
「________っ」
吉田は困惑した。