2話 このくらいは朝飯前
ゆっくりと階段を下る。
段々と気持ちが落胆していく。また、平和でない日常が始まろうとしている。
いや、既に始まっていた。一日に一度しか使うことのできない未来視。
それを半身の欲望開放のために使用してしまった。
吉田悠也の、今日という一日に対しての気持ちは既に最底辺まで来ている。
居住しているアパートを出て、いつもの道をただ、ひたすらに歩く。
遅刻の心配はない。だが、他の心配がある。
家を出てから、十五分程経った。
Y字路に差し掛かった。ここが問題の道だ。
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吉田悠也には敵がいる。三人の敵が。
大門 駿河
山田 雅
鈴木 聖
彼らの為すことは全て悪だ。人類悪といっても過言ではある。
吉田悠也の平穏な日常は彼らによって破壊される。
いや、正確に言えばこの三人だけではないのだが、この三人は未来視を以てしても太刀打ちすることが難しい。彼らにも何か未来視のような異能があるのだろうか。
吉田悠也は錯綜する。答えの出ない謎を。
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「おっ、やっさん。今日もグッドな朝だねぇ」
軽快で安穏な声が後ろから聞こえる。やっさんというのは、吉田悠也のあだ名である。
安直なあだ名、その名を聞くだけで吉田悠也は憂鬱になる。
この茶髪の男は大門 駿河、人類悪の一人だ。
「おはよう、大門」
いつも通り、適当な挨拶を返す。
大門とはいつもこのY字路で出会ってしまう。
Yの右上から吉田、左上から大門、二人が登校途中に出会ってしまうのは偶然にして必然だった。
「ん?この匂いは…。さては、やっさん、朝からちん____」
刹那、理解する。吉田悠也は瞬間的に理解した。常日頃から未来を視ている吉田には、この先の言葉を予想するのは簡単なことであった。そして、吉田悠也は知っている。それは十八歳未満の者が口にして良い言葉ではないことも。
だから、口を、挿む。
「待て、待て待て。やれやれ、まだ朝の八時だぞ。それにおれは朝から行為に耽るようなことしてないから。勘違いだから。それ自分の匂いでしょ。」
吉田悠也にとって、そのぐらいの推理は朝飯前だった。
吉田悠也は朝食を既に摂っている。しかし、そんなことには気づかない。それが吉田悠也という男だ。
「バレてしまったか、そう今日のおかずは_____」
そんな、生産性の無い会話をしながら二人はゆっくりと歩みを進めていく。