1話 大事な妹
立ち入り禁止の看板を無視して、柵を越える。
水を多く含んだ土を踏む度、不快な音を立てていた。
吉田悠也は思い出す。あの、眩しかった日々を____。
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窓から光が差し込むと同時に、甘やかな声が耳元で脳を溶かす。
「おはよう!起きてお兄ちゃん!」
「起きて下さい。…後5分じゃありません!いい加減にしないと…。」
「お兄ちゃんは眠気なんかに絶対負けたりしないよね!」
月曜日の朝から元気な妹だ。
吉田悠也は目を覚ます。手を伸ばし、スマートフォンから流れ出る妹の声を停止させる。
今日も妹は可愛いなぁ。吉田悠也は妄想に耽る。
しかし、その選択は危険だ。忌もうとに見つかる可能性がある。
それだけは、駄目だ。
二つ下の忌もうと。彼女は同じ高校に通っている。妄想に耽っている瞬間を見られたならば、
終わる。色々な意味で。
吉田悠也は決意する。
吉田悠也には秘密がある。人には言えない秘密が。
双眸が光り輝く。イメージが脳裏に過る。
四角い部屋 激しい獣 二つの瞳 走る口 冷気 ナイフ 檻
「アッ、アッオッアッ!み、未来が見えた…。」
吉田悠也は一日に一度だけ未来が見える。
見えた未来は、生き地獄。
飢えた獣は、死んでいた。
立ち下がり、立ち上がる。
吉田悠也は、選択を間違えない。
今日は月曜日、学校に行かなくてはならない。襖を開けて、母の作った温かな朝食をいただく。
白米、納豆、卵焼き。そして、ミルク。
吉田悠也の朝はこれで始まる。
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朝食と身支度を済ませ、玄関を開ける。
吉田悠也の長い一日が、始まった。