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四話 『 良い値で売れるって言ったってw 』

 アグニとミーナ。何でもなさげで大変で、愉快なようで物悲しいという、なんだかんだがあり、今こうして旅をしている訳だが。

 さて、哭竜(ハウリングドラゴン)という小型ではあるが列記とした竜族の、とてつもなく臭い死体を香水で誤魔化して、エイバフ商会という商業組合の一つに売りつけたところ、提示された金額は金貨にして三千枚。紙幣額に換算すると、一千五百万ガルという目を疑うような金額だった。少ないのではない。多いのだ。これだけあれば幌付きの馬車どころか、貴族が乗る様な樫の木造りだって夢じゃない。こんな王都でもなければ、一軒家に牛と馬と豚とヤギと鶏、なんなら羊を買ってもまだ余るような大金だ。ミーナなど、あまりの金額に口を開けて固まっている。

 即断即決するような金額を提示されたアグニは、ホクホクの笑顔で契約書にサインをしようと羽ペンをインク壺から引き抜いて、さあサインだ! と意気込んだそのとき。

 ドバンッ! と商会の扉が蹴破られるような勢いで開かれた。

「待ちなよ、兄ちゃん。うちなら金貨にして六千だ」

 唐突さもさることながら、金貨六千という子供の戯言のような言葉に、アグニとミーナを含めたその場の商人連中が一斉に振り返れば、日に焼けた褐色の肌が汗で光る、まだ年若い女性にしては体格の良い長身の人物が立っていた。

「ルターナ・エリフォン……また貴女ですか」

 憎々しげに女の名前を口にするのは商会長のゲッタ・エイバフだ。

 ルターナ・エリフォンと呼ばれた長身の女は、腰に提げる硝子の兎を揺らしながらアグニに近づくと、持っていた羽ペンを取り上げて、エイバフへと突き返した。

「また、とはこちらが言いたいね。エイバフの三代目。哭竜(ハウリングドラゴン)一体丸々の値段が金貨三千のはずがないだろう。竜の目玉はないようだが、それにしても安すぎる」

 その言葉にゲッタ・エイバフは舌を打った。窺うようにアグニ達を一瞥する。だが、二人ともに金額が途方もなさ過ぎて、事態がよく呑み込めていないようだった。

 透かさず咳払いを挟み、

「あこぎ、とはいやはや。そこは商売上手と言ってほしいものです。第一、この方はうちの商売相手ですよ。横からしゃしゃり出ていい話じゃない。商会同士の規則は貴女の方が知っているでしょう?」

「扉を越えた勧誘がご法度だという事は、知っちゃいる」

「ならば、早々にお引き取りを」

 恰幅の良い体つきからは想像出来ない流麗な身のこなしで、ゲッタ・エイバフは商売敵を追い返そうとする――が、ルターナ・エリフォンは含み笑いをわざわざ見せつける様に表情を作ると、こう言った。

「おっと、今回ばかりはそうはいかない。こっちにも事情ってもんがあってね」

「と、言うと?」

「勅命だよ」

 その一言で大よその見当がついたのか、ゲッタ・エイバフはくだらなそうな息を鼻から抜いて、カウンターの陰に隠れた椅子に苛立った様子でどっかりと座りこんだ。

「……一様、確認は取らせてもらいますが、まあ、無駄なのでしょうね。グロウス国営商会様の伝令役である貴女が、ここに居るという事は」

 近くを掃除していた小姓の娘を手で呼んで、くすんだ銅貨二枚を握らせてから尻を叩く。叩かれた娘はほんの僅か顔をしかめ、けれど渡された金を握りしめて雇い主であるエイバフに頭を下げると、小走りに出ていった。

「変わらないね。三代目」

 汚い物でも見るような目でルターナ・エリフォンが眉を寄せ、エイバフはさらにくだらなそうに鼻から息を抜いてみせる。

「さて、さっきの小姓が戻ってくる前にここを出ようか。一刻どころか四半刻だってこの場に居たくないからね」

「良いのか、さっきの娘の帰りを待たなくて?」

「いいさ。これ以上ここに居たら三代目を張り倒してしまいそうだ。それに、こっちは王様の命令で動いているんでね。文句があるなら王様にしろってんだ」

「まあ、確かに。でも、なんでまたドラゴンを?」

「理由なら知らないよ。ただ一年くらい前に、バナコーラの貴族が何らかの秘密をどこかに隠して死んだことが絡んでいるらしいとは聞いた。……まあ、貴族なんていつでもどこかで死んでるもんだ。嘘か本当かわかりゃしないよ」

「違いない」

 そう言うとアグニは肩を竦め、鑑定料含めた迷惑料としてゲッタ・エイバフに粗悪な銀貨を一枚握らせた。

「悪いな、おっさん」


 

 ルターナ・エリフォンに連れられて着いた先は、グロウス国営商会が誇る王冠を頂いた秤という、国が商人の領分まで犯してなお存続することを紋章として堂々と謳う看板が掲げられた建物の、小奇麗に整った二階の応接室だった。

 アグニとミーナは部屋の中央に据え付けられた樫作りのテーブルを挟む高級感漂うソファーに身を沈め、国営商会の主自らが用意した紅茶に口を付けながら話を聞いている。

「金額の内訳は、紙幣で二千万ガル。金貨で千五百枚。残りは馬が一頭と幌馬車が一台。次の町までの地図と、各種肉や魚の壺漬けや燻製、葡萄酒など食料が十日分。もちろん美味しい物を――良ければ傷霊薬(ポーション)などもご用意しますが、いかがいたしますか?」

 型にはまったきっちりとした笑顔でそう口にするのは、線の細い顔に理知的な眼鏡を掛けた商会の主、ロアラ・ガルバン・マグティーノ。白という高級さを表す色のスーツを着こなし、高位の人間だという事を表す紫のタイをする金髪を撫でつけた男だ。

 アグニは内訳を聞いて一つ頷き、けれど最後の提案には首を横に振った。

「いや、いい。傷霊薬より寝具と防寒具を頼む。次に向かう街はここから東北にあるリーベンスだ。向こうは野晒しで寝たら次の朝日を見ることはないってほど寒いらしいからな。出来るだけ暖かい物を頼む」

「それは、大きい物を一つ(、、、、、、、)、という事で?」

「いいや。個別の物を二つ(、、、、、、、)、用意してくれ」

 アグニがそう言うと、マグティーノは驚いたようにミーナ達二人の顔を数度往復した。

「これは、いやはや。私はてっきり」

「想像は自由だよ。同じでないにしろ年も近い。しょうがねぇさ」

 その言葉に嫌な顔をするミーナの尖る唇を見て、マグティーノはすぐに話を戻した。

「えー、では、その様に承ります。金額が金額なだけに今すぐ全額をお支払できる訳ではございませんが、明日の正午には馬車を含め、すべてをご用意させていただきます。本日の宿は既に用意してありますので、この後にはどうぞ王都観光などをしていただければ」

 型にはまった笑顔のままでそう言いながら、マグティーノは契約書を差し出した。

 差し出された契約書に目を通すアグニは、一通り確認し終ると記名欄にサインをした。最後に契約書の上段は中央に設けられた〝契約の印〟という『約束を守らせる魔法陣』に親指を押し付け、自分とマグティーノに魔法をかける。

「これで成立です。お取引、ありがとうございました」

次回 「 薄墨の笑顔 」

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