【第1章3節】邂逅、冒険者ギルドにて
俺は今、冒険者ギルドを目指して王都を歩いている。
自慢ではないが、俺は村をあまり出たことがない。
ここまで人が多く、華やかな街並みを見ると多少気おくれをしてしまう。
俺は正直、村を出る事なく人生を終えると思っていた。
友人もそれなりにいたし、
親父が残してくれた家もあるし畑もある。
平和なこの世の中であれば村での生活は満足とまではいかないものの充実していた。
しかし昨今の情勢を聞いていると、いつこの平和が終わるとも限らない。
自分の身と自分の住んでいた村は自分で守りたいが、今の俺では何も守れない。
だから冒険者になって強くなりたい。
強くなって、村だけではなくもっと多くのものを守りたい。
そう考えるのは誰しも同じだと思う。
『そして・・・冒険者になればきっと可愛い女の子からモテるに違いない!!』
・・・コホン
ついつい本音が出てしまった・・・
確かに嫁さがしは気合いと根性と気合だと、今はっきり悟った!!
ありがとう!!ドレイク!!
そんな事を考えながら歩いていると冒険者ギルドの前まで来ていた。
『ここが王国最大の冒険者ギルド・・・鉄の牙か』
ここから俺の冒険者としての人生がスタートする・・・
そんな期待を胸に秘めて、俺は扉を開ける
流石、王国最大の冒険者ギルド。
想像と違わぬ騒がしさ。
依頼案件を探しているパーティ
お互いの武器を自慢しあっている屈強な男たち
煌びやかな衣装に身を包み、男を従えている女魔道士
ここには自分の強さを疑わない様々な冒険者が集まっている・・・
ここまで来た・・・
緊張はないが、流石に圧倒される・・・
「おいおい、見てみろよ!なんか田舎くさい臭いがすると思ったら、
芋くせぇ兄ちゃんがこんなところにいるぜ!」
「ハッ!違ぇねえ!入る場所を間違えてるんじゃねぇか!!」
「そういってやるなよ!ブルって声が出せなくなっちまうぜ!!」
・・・はぁ・・
早々に絡まれてしまった・・・
『俺は冒険者になる為に王都に来たんだが・・・
出来れば仲良くとまではいかなくても、優しくはしてもらいたいもんだな』
俺はそう告げる。
「聞いたか!優しくだってよ!田舎もんは仲良しゴッコがお好きみたいだ!!」
「なら、そのまま背を向けて扉を出てママん所に帰りな!そしたら報酬次第で仲良くしてやるよ!!」
「つれない言い方をしてやるなよ!!出す金なんかあるわけねぇだろ?田舎もんだぜ!!」
はぁ・・・
まぁ品行方正、清廉潔白なやつばかりではないとは思っていたが、
ここまで言われる覚えは本当にないぞ・・・
とはいえ、まだギルドにも加入していない身。
今騒ぎは起こしたくないというのが本音だ。
「おいおいビビッて声も出せないみたいだぜ?」
「これから冒険者になろうってのに!とんだ腰抜けヤローだな!」
人が精一杯こらえているのに追い打ちをかけてくる・・・
いい加減、ムカついてきた
『おい!いい加減に・・・』
「おい!いい加減にしないか!」
同じタイミングで後ろから声が響いた。
振り返ると・・・
まぁ・・・なんていうか・・・
まさに品行方正、清廉潔白を地で行きそうな見た目の男がそこにいた。
「俺は同じ冒険者として恥ずかしい!彼はこれから俺らの戦友になる男じゃないかか!」
やや歯の浮くようなセリフ回しだが、助け舟はありがたい。
「おうおう。ゲイル様は優しいお方です事。」
分かりやすい皮肉に臆する事なく、ゲイルと呼ばれた男は言葉を続ける。
「その言葉は褒め言葉と受取ろう。
だから今後は俺の名において彼の名誉を傷つける事は許さない!」
ゲイルはすごい剣幕だ。
「ちっ、興が削がれちまった」
「まぁいい。少なくとも、俺らの邪魔だけはすんなよ」
そういうと荒くれ者の冒険者たちはギルドを後にした。
「すまないな・・・。彼らも本当は悪いやつらじゃないんだ。それは俺が保障する。」
そう言うと、頭を深々と下げてきた。
『君が悪い訳ではないからよしてくれよ。えーっと・・・ゲイルだけ?
俺はロック・アルベルト。気軽にロックと呼んでくれ』
「そういってもらえると助かるよ、ロック。俺はゲイル・グリッドだ。よろしく」
『連中、ずいぶんと気が立っているみたいだったが?』
「・・・王都近くの平原に魔物の群れが押し寄せてきているらしく、
その中に小型の竜族の姿が見えたらしい」
『なるほどな。それで気が立っていると?』
「正直、みんな平静を装ってはいるが気が気ではないみたいだ」
『確かに、それであれば納得はできる・・・がムカつくものはムカツク!』
「ハハッ・・・まぁ許してやってくれよ。本当は気がいいやつらなんだ。
ただ・・・この前の依頼で仲間を一人亡くしたみたいで余計に気が立っているみたいだ」
『まぁ、ゲイルの顔を立てるとするよ』
「そういってくれるとありがたい。
本音を言うと、こういった事情だから仲間は一人でも歓迎したいところだよ
何はともあれ、鉄の牙へようこそ。」
そういうと、ゲイルは俺を受付まで案内してくれた。
「ようこそ、鉄の牙へ。今回は冒険者登録でよろしいですか?」
受付嬢は俺に微笑みかけながら尋ねる。
『あぁ、冒険者登録をお願いしたい』
「かしこまりました。それでは、あそこの小部屋で適正クラスの調査と面接を行います。
私についてきてください。」
「じゃあ、俺はここで失礼するよ、ロック。終わったら飯でもいこう。一杯おごるよ。」
『ありがとうなゲイル。終わったら声を掛けさせてもらうよ』
そういうとロックは依頼板のほうに向かっていった。
適正クラスと面接か・・・
面接は大丈夫だと思うが、適正クラス調査は少し不安だ・・・
可能であれば剣士、無理なら戦士がありがたい。
正直後衛や隠密向きではないのは自分でも認識している。
とはいえ、ここまで来たら贅沢は言っていられない。
依頼をこなしていけば転職も可能だと聞いている。
ドレイクではないが、気合と根性と・・・気合いだ!!
そう胸に秘め、小部屋の扉をノックする・・・