容疑をかけるのは誰だ。
全校集会中に僕が所属している教室から携帯や財布がなくなった。先生も言っていたが率直にいえばこの学校の3-1の教室で窃盗事件が起きたのである。
そしてここが一番問題なのだが僕もこの事件の容疑者になってしまったことだ。全校集会中に盗まれたのであるから集会に遅れてきたもの、途中で抜けたもの全員に犯行が可能なため、職員室に行っていて遅れた僕も容疑者の一人になってしまったわけだ。
まったくもって面白くない。朝から職員室に呼ばれた上に、こんなことに巻き込まれて犯人に対して少しばかり怒りの情を抱いてもいいだろう。
「それじゃ一応話聴きたいから遅れてきた鶴間、青木、森、岩田は会議室に行ってくれ」
と、人ごとのように言う担任である。さっき先生が僕を職員室に呼んだせいにもかかわらず、だ。
同じクラスではあるが他の容疑者三人が仲良く固まって話しているので僕は先にひとり会議室に向かうことにする。どうせ、朝から遅刻してきたのであろう。
職員室横にある会議室に入ると10人ほどの容疑者がすでに座って待っていた。
学年こそバラバラだったがたまたま全員が男だった。無作為に1000人近い生徒から抽出しても珍しくもない結果だろう。
寒い中、永遠と話を聞き続けるのは面倒だと思うが、そんなに集会をサボるなよとは思う。だが、まあ致し方ない。とりあえず会議室に入ってすぐの場所の席に座り、何か動きがあるまで待つことにした。
容疑者が全員揃うとすぐに、今回の事件のあったクラスの担任である河原先生が来て、これからのことを軽く説明しだした。
管理職の教頭と思われる先生とそれぞれのクラスの担任に一人ずつ呼ばれ、取り調べをすることになったそうだ。取り調べという体であってそんなにかしこまらなくて良いと、最後に付け足していた。3-1の僕は先生が、教室を出るついでかそのまま呼ばれた。
場所は会議室がある南校舎の同じ階にはあるが、校舎の一番端にある教室に連れてかれた。ドアの上についているプレートには「物理室」とかいてあった。普段、使われていないせいか、埃っぽく日もあまり入らない暗い部屋だった。いや、電気は付いていたが、心霊やそういった類いのが好きそうな陰湿な暗さだ。あまり気持ちの良い部屋ではない。
「……ってなわけで今回の件は僕は知らないっすね。」
河原先生に呼ばれ職員室に行ったことをかいつまんで話した。それに対して河原先生がアリバイの証人になってくれたおかげですぐに疑いが晴れたようだ。
しかし、自分が一時とはいえ容疑者として疑われた事件について少なからず興味があるのも事実だった。
「ところでこの事件どうなんですかね?」
僕の問いに管理職であるところの教頭はただでさえ怖い顔の眉間にシワが寄り、渋るような顔をしたが、担任である河原先生は疑ったからには事件概要を語るのは当然だ、という風に話してくれた。
先生の話によると教室の鍵は日直によって前後のドアとも施錠されていた。が、集会が終わり最初に戻ってきた生徒によれば後ろ側のドアが開けられていたという。ピッキングした形跡もない。鍵は日直が施錠後、体育館で点呼していた担任に渡していた。点呼でいなかったのは僕と先程の青木、森、岩田だけだったようだ。他の3人は朝からいなかったようだ。
教室のドアは何らかの方法で開けられて、窃盗が起こったようだ。被害は携帯と財布が盗まれたのは女子生徒2人だけのようで他のクラスに被害はなかったそうだ。そしてここが一番面白いのだが二つの財布は何も盗まれることなく特別棟の最上階、4階の階段踊り場で、またその財布の横に携帯一台のみが無事見つかったそうだ。
つまり、見つかっていいないのは携帯1台のみだ。
容疑の疑いが晴れ、無事解放された僕だったがどうも釈然としない気持ちで教室に戻った。誰が、何の目的で盗ったのかわからなかったからだ。なぜ財布だけは二つとも無事に戻っているのか?
まあ自分にはもう関係ない話だな、と割り切ることにした。
が、教室に入ると同時に声をかけてきた我が部、写真部部長桜ヶ丘女史の周りをはばからない大声によって打ち壊された。そうは問屋が卸さないようだ。
「ねぇねぇどうだったの!?情報は!?犯人は!?」
好奇心が溢れ出ている桜ヶ丘に小声で注意する。遊んで欲しくてたまらない子犬のようでうるさくてたまらない。
「このクラスに被害者がいるのだから少しは気をつかえ。」
ただでさえ小さく、中学生と見間違えるほどだが、桜ヶ丘は反省したのか肩を落としたせいでさらに小さくみえた。
こいつ、桜ヶ丘夏海とは小学生の頃から同じクラスになることが多く、こいつのせいでいくつもの厄介ごとに巻き込まれてきた。まあ要するに腐れ縁と言ってもいいだろう。
小学生の時は大人びていたイメージだったが顔が高校生になっても変わらないので今では幼く見えてしまう残念なやつだが、直接言うと怒るので言わない。とにもかくにも中身も外見も子どもみたいなやつになってしまった。
「また桜ヶ丘さんを泣かしたのかい?」
自分の席に戻ると隣の席であるサトルが開口一番に軽口を叩いてきたのでそちらの方を見ながら言い返した。
「泣かしてないな。叱っただけだ。」
「ヨシハルくんがいじめてくるー」
桜ヶ丘が反論してくるが無視だ。が、無視されたにもかかわらずあきらめずに続けて質問してきた。
「で、どうだったのだ?」
もう僕には関係ない話だと割り切ったが、質問されれば答えない理由もない。サトルと桜ヶ丘にさっき河原先生が話してくれた事件の概要とその後について話すことにした。
まず、教室のドアにピッキング跡はなかったこと、盗まれた女生徒二つの財布と携帯1台はすでに見つかっていること、中身は無事で傷一つなかったこと。
「ふむふむ、犯人はまだ分かってないのか」桜ヶ丘が小さな頬を膨らませたと思えばすぐに口角を上げ始めた。
「ということは我々写真部の出番か・・・」
と何か物騒なことを続けて言う。
「まさかまた探偵ごっこやるのか?」
桜ヶ丘の発言に率直な疑問を口にするがすぐさま桜ヶ丘が否定してくる
「ごっこじゃないよ!!写真部はこの厚井商での探偵社なのだよ!!」
サトルも一応、写真部に所属するくせに完全に他人ごとだ。
「ははーヨシハルガンバレー」
この高校は商業高校であるくせに部活動に全員参加という謎のルールがある。そのせいか部活動の申請が比較的簡単に出来るせいで目的が定かでないこの写真部のようなものができてしまったのだ。学校側には条件を見直して欲しいとは思う。
そしてこの写真部が僕、鶴間好春の落ち着いた高校生活を奪って行く原因であるのだ。この部はいつも唐突に起きる事件や何でも無い謎をこの桜ヶ丘がなんでもすぐ己の好奇心と自己探究心を満足させるためだけに騒ぎ出すのだ。
そして、人ごとのように僕にエールを送ってきたこのサトルは豊富な情報とその人あたりの良さ、コニュミケーション能力の高さを活かしてやたらめったら、いろんな人から情報を集めてくる。その上、好奇心で何でも挑戦するし、分からない事は調べて自己完結する。
それに対して好奇心で謎ばかり人に押しつけてくる所が桜ヶ丘との差だと思う。だが将来、なんでも首を突っ込むもんだからろくなやつにならんと思っている。だから少しばかり文句を言いたくなった。
「なんでサトル、お前はいつも我、関せず何だよ。」
「まぁ俺も手伝ってやるよ」
それに桜ヶ丘が乗っかるように話を進めてくる。
「それじゃー本題に入ろう!!まず被害者は誰だっけ?」
ここからは僕が頑張らないといけない場面になってしまうのだろう・・・




