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唐突に鳴る放送は大抵良いことはない。

 冬休み前の最終日である今日は、朝のHR(ホームルーム)のあとは全国津々浦々、全校集会は体育館でという決まりがあるかのように我が校でも体育館に全員集まり、参加しなくてはならない。

 

 同じクラスの面々が防寒具代わりに毛布を持ったり脱いでいた制服のブレザーを来て準備をする中、僕は職員室に向かった。

 僕が通っている厚井(あつい)商業高校は上から見ると口の字型をしている。

 東側に正面玄関や正門があり、校舎をはさんだ西側には別の建物で体育館と格技室がつながっている。


 職員室は今いる3年の教室があるフロアと同じ2階ではあるが、体育館とは方向が反対なので人の波に逆流し、人気のない廊下へと進むことになる。その上、同じフロアにある職員室とはいえ、今いる一般教室が並ぶ一般棟から特別教室が並ぶ反対側の特別棟に行かなければならない。ロの字で言うと下の棒から上の棒だと思うとその距離は測りやすいだろう。


 なぜ、呼び出されたのか考えながら、人があまりいない廊下を職員室に向かう。ただでさえ行くのに面倒な場所な上、良い予感がしない。

 先生から職員室に呼ばれていいことはないという帰納的推理によって何をしでかしたかわからないが僕は怒られるか、問い詰められるのではないか、と予想を立てて職員室のドアに立ち向かった。


 一呼吸置いてからドアをノックする。

「失礼します。3-1の鶴間です。河原先生はいらっしゃいますか?」

と、お決まりのフレーズをさらっと流しながら言ったものの3年の先生たちはドアを開けてすぐのところに机が集められている。

「おう、きたな。」

ドアの前に立つ僕の顔を確認すると、担任の河原(かわはら)先生が招き寄せた。

「これ、こないだ言っていた入学前ガイダンスの資料な。」

河原先生が軽い口調で大学のパンフレットを渡しながら言ってきたので用はこれだけなのか逆に不安になって思わず聞いてしまった。

「えっこれだけっすか?」

「それだけだ。他に書類はなかったぞ?」

 話が噛み合ってない気がするが他に用がないのならこちとら満足だ。てっきり怒られるものだと思っていたので拍子抜けだったが・・・・・・

「よし、集会が始まるから早く体育館にいけー」


 クリアファイルに入れられたパンフレットを受け取り、それを持ったまま暖房が効いた暖かい職員室を名残惜しくも出る。

 特別棟の廊下は中庭に面してはいるが冬の弱い日差しが申し訳程度に入っている程度で、暖房が効いていた部屋から出たばかりではとても寒い。そのまま体育館に向かおうと思っていたがいかんせん急いで出てきたせいで教室に体育館履きを忘れてしまった。「効率が悪いな」と思いながら来たルートを戻る羽目になった。


 思った通り、教室の電気は消えていて誰もいなかった。教室に誰もいないということは望み薄だが、ドアに手をかけた。

ガタッ

やはり鍵が閉められていてフックが抵抗する音がした。可能性は低いが前側のドアにも手をかける。

ガタッ

やはりだめか、と思っていると廊下の奥から「政経」の教科担当である林先生がやってきた。


「おおっ、どうした?」


 林先生は教科担当で政経の授業でしか会う機会がないが、親しみやすく、校内であえばお互い声を掛け合う仲だ。


「職員室に呼び出されたのですが、体育館履きを忘れて戻って来たんですが鍵がかかっていて入れませんでした」


自笑気味に言うと林先生もドアに手をかけた。やはり同じように、ガタッと抵抗音が聞こえてくる。


「あー開いてないな。諦めて体育館早くいけー」

「やっぱだめっすよね。それじゃ、失礼します。」


先生がやっても、やはりどうにかなるわけもなく、あきらめるしかなかった。

そして今度こそ僕は体育館へ脚を運ぶ。




 気づけば昼になっていた。

 集会は長期休み前、最後だからと言わんばかりに生徒指導の先生やら生徒会やらが出てきて各々言いたいことを言い、終わった。

 申し訳程度の暖房機器が稼働していたが、一時間強あったためか、この12月の寒さは生徒たちからは体温を奪っていた。そのため我先にと三三五五、教室に生徒たちが戻りだす。


 僕は職員室に寄ったせいで体育館履きを忘れて、足先から冷えてしょうがない。教室に行く前に自販機であたたかい飲み物を買って温まることにする。体育館は一階、自販機も一階。教室に戻る途中なので面倒臭さはない。


 教室に戻ると各自、思い思いに友達と話していたりして、少しばかり騒がしかった。後ろから二番目の一番窓側に自分の席がある。いわゆる主人公席だ。窓から見える中庭に生える竹や葉が落ちた木、普段は体育に出る生徒の姿も見え、季節を感じられて飽きることがない良い席だと思っている。そのせいか妙に居心地がよく気に入っている。買った缶コーヒーを机に置いて席に着くとサトルが話しかけてきた。


「そういや朝はなんの用事だったんだ?」

窓から見える反対側の校舎にある職員室の方を見ながら言った。

「ただ大学の資料渡されただけだったなぁ」

「そっか、つまらないね~」

 つまらんとはいかんせんひどいなと思っているとザザっと放送のスイッチが入る音がした。その音が各教室の黒板の上につけられているスピーカーからしたからそう思った、という訳で実際は何の音かは知らない。クラスのみんなもスピーカーを見上げ静かになった。


『本日、2階一般棟3-1の教室にて携帯2台、財布2個がなくなった。携帯にはGPSがついている。校内から出れば場所がわかる。間違えて持って行ってしまったもの。心当たりがあるものは担任か教師に名乗り出るように』


「え、3-1ってこのクラスじゃん」

「何、何?」

「誰の?」

 誰もこの突然の出来事に対応出来ず、クラスメイト達が話だし、再び騒がしくなった。

 しかし、ドアが開く音で、立って話していた級友たちが揃って席に座り出した。担任、河原先生が入ってきたからだ。


 教卓の前に立った先生は神妙な口ぶりで話しだした。

「え~今の放送で大体わかると思うが、みんなもう高校生だ。率直に言おう。先程全校集会でみんなが体育館に行っているあいだにこの教室で窃盗が起きた。二人の生徒の鞄からスマートフォン二台と財布二つが盗られていたようだ。心当たりのあるもの、何か見た、聞いたものがある奴は、このあと俺のところに来てくれ。」


 成績表が返されると思ってそわそわしていた僕たち3-1の生徒は電池が切れたように静かになった―――


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