月曜日、久々に見る友人の顔は少し違う気がする。(後編)
下駄箱に入っていた手紙の内容はこうだ。
気付けばいつもあなたのことを探しています。あなたを雑踏の中で見つけるのは難しいのです。だから隣に居て欲しいです。放課後17時、駐輪場奥にて待っています。いいお返事を
青木
「さて、まず青木の恋愛対象は女子でいいんだよな?」
これは根本的なことだが昨今の恋愛事情を鑑みると割となんでもアリな気がしてしまう。だからこそ確認しておく必要はあると思ったのだ。
「その点は僕が保証しよう。彼が女子にナンパしているところを見たことがある。Twitterでも見て
確認するかい?」
サトルがここまで言い切るならそうだろう。決して内向き志向になっているわけではない。サトルの情報収集能力は将来、探偵業でも向いているのではないだろうか、と思わせるほどにすごい。
公安職は好奇心が強すぎて向いてないだろうから薦めない。むしろ探偵以外になったらそれは十二分に犯罪臭がする。社会のためにはサトルを探偵にする他はないのだ。
(というか、ナンパの現場を目撃ってすでに探偵的だな。)
「では、この手紙は女子に向けて書かれた手紙である。というのはいいだろう」
分かり切っていても物は人の人生に少なからず影響するものだ。疑問を一つ一つ潰していく。
「今どき、手紙ってどうなんだろうねー」
人の気も知らず、サトルは楽観的だ。
「まあ、メールやSNSだと情報が文字になってすぐさま返ってくるからな。それにその情報は残り続ける。だから、手紙で呼び出しってのもいいんじゃないか?」
「たしかに。便利な世の中になってもその辺は変わらないわけだ。」
サトルの同意を得てさらに勢いづく。
「青木はそいつに対して深く知らない。更にいえば連絡先すら持っていないということだ」
「そうか、だから手紙しか方法がなかったって訳かい?けどどうして深く知っているとはいえないんだい?今どき、アプリで出会ってすぐ連絡先を交換するくらいわけないだろう」
サトルの疑問はもっともだが今回の発端を忘れたらいけない。
「それは、手紙を出したいにも関わらず家に送る、または直接投函という手を使わず、下駄箱に手紙を入れているからだ。しかも、場所も正しく知らなかった。一度も一緒に登下校をしたことがないってのが分かる。」
こうして口に出していくことで自分でも理解がしやすくなる。整理するために話を続ける。
「高校で始めて学校が一緒になったというのはもはや察せられるだろう」
「青木の出身中学は僕たちの中学と学区が隣の中学だったね」
サトルの情報をもらったが、これは前々から知っていた。青木の家に呼ばれて行ったことがあったからだ。まあその話は今回のことに関係ないだろう。
「サトル、雑踏でも目立つ奴ってのはどんなやつだ?」
自分の中でも考えがあるが、一応の確認としてサトルの考えを煽る。
「たとえば、派手なファッションや身長が高いとかかな」
いきなり聞いた割には望んでいた通りの答えが返ってきて驚いた。そんな素振りは見せずに考えていた答えを言う。
「この手紙の相手は平均より小さい。」
結論から言い切らないと忘れてしまう気がした。それに、やはりサトルは反応した。
「なんでそんなことがいえるんだい!?」
驚いた様子で、手紙を凝視するサトルに説明を入れる。
「雑踏の中というのは人混みだろ?目立つ奴はさっき上げてもらったが、目立たない奴はその逆だ。地味とかあるだろうがこの手紙では身長が低いってのが考えられる」
「なんで地味という線はなくしたんだい?」
「そうだな。学校で出されるラブレターということを考えれば地味という点は考えにくい。みんな同じ制服を着ているのだからわざわざそんなことを書かなくても良いはずだからな。」
「それで、身長が低いってのかい。平均より小さいってのは?」
「女子の中で、小さいってのがそいつの特徴なんだろうよ。だからこそ書く意味があったんじゃないか?」
これには、少し厳しい気もしないではないが憶測の所も仮定で話していかないと結論にはたどりつけない。
「加えて言えば、今日、月曜日に部活動があるところに所属している」
サトルはもう一度、手紙を凝視しながら答える。
「この放課後17時ってところか」
「そう、その時間まで学校にいることだけは分かっている部や委員会はなんだ?」
サトルの情報収集能力に頼るしかない部分だ。
「目立って活動しているのは、やっぱりさっきから流れている音楽の源、吹奏楽部じゃないかい?」
こういう時に瞬時に必要な情報を即時に言えるサトルの能力は一目置ける。しかし、それは俺も気付いていた。
「あとは、ソフトボール部が毎日活動してる。サッカー部とバスケ部もあるかな」
ふむ、思ったよりあったが真の送り先がぶれるほどのことではなかった。
「最後になるが、一つ仮定しておきたい」
「なにかな?」
サトルが面白そうだとにやけながら聞いてきた。
「下駄箱だが、さすがに12月にもなってクラスの場所まで間違えないだろう。だから、僕の下駄箱に入っていたということは真の相手も我らと同じクラスで良いだろう」
「ふむ、まあそれぐらいは考えられる範疇だな」
サトルの了承が得られたこの時点でだいたいの目星は付いていた。
「では、真の手紙の相手は我らと同じクラスで、雑踏で見つけづらい体格。それに吹奏楽部に所属している女生徒。これらすべてに当てはまるのは他にいるまい。」
「「佐藤さんかっ」」
サトルが良いところを持って行きやがったが、腹を立てたりしない。なぜなら先に気付いたのは僕だからだ。
「確かに、佐藤さんが黒いケースを机の上に置いている所を何度か目にしたことがあるよ。」
一人でに納得し出す、サトルを尻目になぜか気分が落ち込むのはなぜだろうか。
「よし、靴がまだあるな」
早速、下駄箱にサトルと二人で移動していた。一番下の右から二番目の列。僕の隣の下駄箱に一度は紙と一緒に潰しかけた青木の夢を佐藤の下駄箱に入れ元通りにする。
僕の心情など知らないサトルは笑顔だ。
「これで、青木の薔薇色の高校生活にすることが出来るかもね!」
「あ、ああ」
下駄箱に行くのにそのまま帰らない理由がない。ここにくるのに通学鞄も持ってきていたので帰る心づもりでいた。この鞄の中に一応、写真部だからカメラが入っていて見た目より重い。しかし、サトルは違った。
「じゃ、僕はこの情事を見たいから17時まで待つよ。今日は時間があるんだ。」
やはり、こいつの信条は「面白ければすべてよし」なんだろうか。
「そうか、僕は興味ない。結果も知らない」
青木の出席番号は一番だった。そのため、出欠席簿で後々の人たちの番号をわざわざ聞くことなんてなかったのだろう。
寒空の元に出たとき、時刻は15時。駅前のコンビニでも寄ってご褒美にコーラでも買って帰るか。
あの日もコーラを買って帰ったな。味覚に引っ張られて記憶もよみがえってくる。コーラの赤いふたを閉める動作で記憶のバルブも閉めたい。そうも行かないからこんなにも頭を働かせているのだが。
もう22時を超え、公園の電灯も消えたばかりだった。このあと警備員が循環し始める。見つかると何かと面倒だ。場所を移動しよう。
先程いた市立の公園から歩くが、家の近くにある神明神社に移動することにした。
神明神社は天照大神を祀る神社で全国にいっぱいある神社とかだった気がする。専門家ではないからそこはあまり突っ込まないで欲しい。
神社には申し訳程度の電灯に遊具が照らされていた。どうして神社には遊具が置いてあることが多いのだろうか。
そして、神社の一角にはそれ単体で輝くものがあった。今時、珍しい公衆電話だった。ただでさえあまり人がこない神社に置かれた時代遅れの公衆電話は妙に哀愁を漂わせている気がする。それが、僕の身体に寒さを思い出させた。
12月でも雪が降ることが滅多にない関東地方では乾燥がひどく、よく火事のニュースが世間を騒がせる。こないだも都内の老舗ラーメン屋が燃え、近隣まで焼け尽くしたニュースが記憶に新しい。と、火について思いを馳せてみたが、いっこうに身体が温まらない。妄想するのは自由だが、こうも暖まらないのでは無駄だと分かっていても業腹だ。
まあ、燃えるのは家や森だけでなく、最近ではよく芸能人のTwitteやブログも燃える。だが、これは季節関係なくよく燃える。暖を取るのは無理だが。