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月曜日、久々に見る友人の顔は少し違う気がする。(前編)

12月19日 月曜日


家のドアに鍵をかけ、学生服のズボンに鍵を突っ込みながら思わずため息がでる。


金曜日の放課後に跳ね上がった分だけ月曜日朝の落ち込みぶりが異常だ。人類、月曜日に電車に乗り通学、通勤することができようか。いな、できるわけがない。

しかし、行かねばならぬ訳だからせめて座りたい。そう思うのは必然なのだが、下から数えた方が早い利用者数の、この最寄り駅でも座れることはほとんどないのだ。



 電車で座れなかった上に、自転車で急いで走ってきたから高校に着いた頃には朝に飲んできた紅茶は汗に変わっていた。その汗が風に吹かれると冷えるので、その前に昇降口に入ることにした。


 中に入っても昇降口には暖房など入っているわけもなく普通に寒い。それに陽が入っていないにも関わらず誰も電気をつけなかったせいか薄暗く、それがさらに寒く感じさせた。


下駄箱は学年ごとに色が違うシールで学年・クラス・番号の4桁の数字が各自の扉に貼られている。出席番号順に縦8人一列で、一つの棚に2クラス分入るようになっている、縦にも横にも大きい下駄箱だ。

それも開校当初からあるのだろう、所々の扉が外れてしまっていてテトリスを下手なやつがやったかのように隙間が空いていてみすぼらしい。下の方の段が特にひどく、扉が付いている方が珍しいくらいだ。


(まあ、自分の所が一番下なのだが。)


おおよそ、屈んで取るのが面倒だったり、靴を履くときに蹴飛ばしてしまったりして壊したのだろう。と、自分の下駄箱前に行くと同じクラスの女子……佐藤花華(さとうはなか)が靴を閉まっている所だった。

佐藤は隣の列だが居ると邪魔で靴を仕舞えないのでバレないよう陰で待つ。少し寒くなってきた気がする。


 佐藤が先に行ったのを確認すると靴をしまって下履きに履き替えようとした。しかし、靴を下駄箱に突っ込むと中から『グシャッ』と何か柔らかいものが潰れる音がした。


(なんだ?)

屈んで中をのぞき込むと暗闇の中で、白い紙が潰れていた。拾いあげるとそれは手紙のようだった。


(下駄箱に手紙ってIOT化が進み何でもかんでもインターネットにつなげるこの時代に古風だな。)

のんきに考えていたら始業を知らせるチャイムが鳴り出した。急いで教室に向かおうかと思い、手紙をポケットに突っ込んだ。が、よく考えたら1分の遅刻も10分の遅刻も変わらないだろう。昇降口にある自販機で飲み物を買ってから行くことにした。



昼食はサトルといつも部室で食べている。

公立高校では珍しく、全生徒の入部が義務つけられている我が校では所属するそれぞれの部室で昼食を食べるのは珍しくない。授業は午前で終わりだが、部費が出ている以上全く部活動しないわけにも行かず、毎週月曜日と木曜日の昼はブリーディングと決まっていた。


 ポケットに入れている家の鍵と一緒につけている部室の鍵を出そうとしたときに手紙を突っ込んでいたのを思い出した。昼になるまでそれを忘れていたのはさほど興味がなかったからだろう。


家から持ってきた弁当を机に広げ、その横に手紙も置いた。


「ヨシハル、それはなんだい?」

「これか?鮭の塩焼きだが、食べたいのか?」

何を冗談言っているんだといった顔をしながら吐き捨てられた。


「そっちじゃない」


 好奇心を炸裂させたサトルを相手にするのは面倒だ。あしらうのは容易ではない。弁当を食べながら手短に答えていくことにしよう。


「朝、下駄箱の中に入っていたが、遅刻しそうでポケットに突っ込んでいたのを忘れていた」

「結局、ヨシハル遅刻してなかったかい?」

 さっきの冗談を引きずっているのか痛いところを突いてきた。


 同じクラスであまつさえ、席が横だ。覚えていて当たり前だろう。しかし、今日は月曜日で部活の活動日だ。他にも人がいた。


「あれ、遅刻なんてしてたっけ?」

 1人はこの部室の長の部長たる桜ヶ丘夏海(さくらがおかなつみ)で、厄介事を持ち込んだり作ったりするプロだ。そして、その友達で桜ヶ丘を追いかけるように入ってきたクラス1の優等生をやっている岡本愛生(おかもとあき)

「興味無いから知らなかったわ。」

 

 そう、僕なんかに一切の興味を向けない女2人も弁当を一緒に広げていた。一緒にというが別に机をくっつけて仲良しこよししている訳ではない。ただ、同じ空間で、という意味だ。

「それで、その手紙なんなの?」

()()()()は、僕より手紙の方が興味を引きつけるらしい。たかが紙に負けてもへこたれないが…

「まだ、中は見てないんだ。今から開封する」

と、言って紙が破れないようしっかり伸ばしながらゆっくりと開ける。内容はこうだ。


―――気付けばいつもあなたのことを探しています。あなたを雑踏の中で見つけるのは難しいのです。だから隣に居て欲しいです。放課後17時、駐輪場奥にて待っています。いいお返事を

青木


 なんとも言い訳が効かない、まごうことなきラブレターであった。最初に口を開いたのは岡本だった。

「青木って誰よ?」

それに続くように桜ヶ丘。

「ヨシハル良かったね、彼女ゲット!!」

「岡本さんも夏海もひどいな〜クラスメイトじゃないか!忘れたのかい、青木は男だよ?」


 サトルの指摘をそんなのいたわね、という冷たい一言で葬ってしまう岡本に恐怖を覚えながらも重要な疑問をあげる。

「で、これは一体誰宛なんだ?」

これには誰も口を開けなかった。しかし、岡本さんの冷徹な心はまたしても炸裂する。

「鶴間くんが告白される訳ないし、入れ間違えたのは明白よね」

まあ、男に告白されてもたまったもんじゃない。

「そうだろうな。」


 なぜかみんな黙り込んでしまう。人様の色恋沙汰に突然巻き込まれて、平然としているのは難しい事だろう。しかし、ここにいる奴らは全くもって常人の心を持ち合わせていない。


「正しい宛先に届けて挙げよう!じゃ、今日の写真部の活動はこれで決まりね!」


 部長、桜ヶ丘の独断で活動が決まるのはいつものことだった。だが、これは遊びで手を突っ込んで良い品物だろうか。最悪、青木の人生観に大きな転換点とならないだろうか。それを僕が口にする前に思い出したかのように桜ヶ丘が再び口を開く。

「あ、でも私、用事あるから早く帰らないとダメなんだった…

男子諸君あとは頼んだよっ!」


 桜ヶ丘と岡本は女子らしく小さな弁当だったからか、もう食べ終わったらしく桜ヶ丘が手を引いて部室から出て行ってしまった。

2人、残されてしまった。いつもの下らない厄介事ならそそくさ帰っていただろう。しかし、これは青木が薔薇色の高校生活を送れるか否かがかかった重要案件だ。

「サトル、これは俺も桜ヶ丘に一部同意しよう。正しい持ち主に届けよう。」

「うん、いいね。面白そうだっ」


 こいつの好奇心はこの「面白そうならとりあえず首をつっこみたい」という心理から来ている気がする。

 外からは、どこかの部活の音出しが聞こえだし、学校全体が騒がしくなってきた。


次話、3月19日

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