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理由あって動きだす。

「それじゃー本題に入ろう!!まず被害者は誰だっけ?」


そんなことも知らないのかと冷ややかな目でサトルが桜ヶ丘を見ている。だが、僕もそれすら知らなかったから言えば僕まで同じ冷たい目で見られるのでサトルと桜ヶ丘の話を聞いているだけにした。

「し、知ってるし!ちょっと忘れちゃっただけだし」

目が泳いでいるぞ、桜ヶ丘よ。

「それなら話が早いね。その被害者の佐藤花華さんと容疑者の一人になっている青木が付き合っているのも知ってたかい?」

俺は知らん。知りたくもなかったが。

「知らなかった!!」

素直だな、桜ヶ丘。しかし、聞き役にばかり回っては居られない。


「サトル、携帯が一台だけ戻ってきてないけどそれは今教室にいない佐藤さんのか?」

 一つ疑問を投げかける。が、そこはサトル。立てかけたまな板に水を流したよう滞りなく答える。どうやら僕が取り調べを受けている間にも話を聞いて回ったりしていたのだろう。

「うん、そうらしいよ」


 被害者に非があるとは思わないが率直な感想が口を出た。

「このご時勢に教室に財布も携帯も置いていくなんて防犯意識が低いんじゃないか?」

「そりゃあ教室に鍵をかけるんだから気が抜けたんじゃないかな」


 学校にどんな奴がいるかしれたことじゃないのにな。サトルに話し出したことで頭の中が整理されていったのか、ふと思い付いたことがあった。

「そういえば鍵をかけた日直が疑われていないのはどうしてなんだ。一番疑われそうじゃないか?」

「そりゃあ愛生(あき)ちゃんと私が一緒にいたからだよ」

無い胸を張りながら桜ヶ丘が説明してくれたが、あまりにも言葉が足りてない。


「何一つ説明になっていないが?」

「なんでよ!?私と愛生ちゃんが日直で鍵をかけたんだよ?」

「ああ、なるほど。おまえ一人では信憑性にかけるが、岡本が一緒なら信頼に足ると?」

「ぐぅ・・・」


これは、冗談に近かったが、そうでもなかったようだ。しかし、ぐうの音しか出ないとは面白い。


「それじゃあ、お前と岡本がグルって可能性だってあるじゃないか」

「グルじゃないよっ」


 僕のくだらない冗談に頬をまたリスのようにふくらませて否定する桜ヶ丘だったが、それもほんの短い時間だった。

「ヨシハルの冗談はさておき、その愛生ちゃんこと岡本愛生さんがもうひとりの被害者だったんだよ。というか、ヨシハルも被害者が誰か知らなかったのかい?」


と、的確な情報と的確なツッコミをくれるのは、やはりというかサトルの方だった。


「愛生ちゃん被害者だったの!?犯人許さん!!」

 怒ってばかりの桜ヶ丘はそれを聞いてすぐに岡本の方へ向かって行った。友人が被害者だったのに知らなかったのか。まあ、僕も同じ部活に所属している部員ではあるが。

 

 その被害者の一人である岡本愛生はうちのクラスでは学級委員をやっているせいかクラスメイトからだけでなく担任からの信頼も堅く、近寄り難い高嶺の花といった感じだ。しかし、同じ部に所属する僕はそれが外面だと知っているし、それを言いふらしたりもしない。簡単に言うなら内弁慶だろう。桜ヶ丘を見送りながらサトルに現状を確認する。


「今、行方がわからないのは佐藤さんの携帯一台で他の3つはもう戻ってきたんだろ。なら岡本が盗まれたモノはもう返ってきているということか」

「そうじゃないかな。じゃなかったらここで人と話しながら笑ってないよ。」


 教室の前方にいる岡本に目を向けるとはしゃぐ子犬のような桜ヶ丘の相手をしている。と、岡本と目があってしまった。岡本が席を立ち、じゃれついていた桜ヶ丘をサトルと僕が座っている方へと連れてきた。

「どうした()()()()、よ。」

若干嫌みっぽくなってしまったのは決して岡本がクラス内で猫をかぶっているからではない。


「心配してくれるのは嬉しいのだけれどちょっと夏海うるさいからしっかり手綱を握っていてくれるかしら鶴間くん。」


残念な娘よ、桜ヶ丘夏海。


「ということだ、桜ヶ丘、席にもどれ。」

「えーひどいよ愛生ちゃん!」


 全く世話が焼けるやつだ。だが、もう小学校からの付き合いで10年以上もだと思うとさすがにもう慣れて厄介だとか何も思わなくなってきた。確実に桜ヶ丘という生物に毒されている。決して手綱を握る飼い主ではないのだが、そんな僕の気も知らずに桜ヶ丘はまだ騒いでいた


「でも愛生ちゃん、全部返ってきて良かったね!」

「そうね、携帯にパスワードをかけてなかったから余計に心配だったわ。でも全部戻ってきてなんだったのかしら?」

「わかんないけどそれはヨシハルに任しといてよ」


この娘は全く悪びれず人にすべて放りやがったな、と思っているとさらに別の方向から追撃が来た。

「あれ、鶴間くんって頭良かったっけ?」

「そりゃあ岡本さんに比べれば劣るが、指定校で四年制大学に行けるほどの学力は持っているよ」


 別に頭に来た訳ではないが、なけなしの誇りを口にする。そうすることで自らの自尊心をいくらか保つことが出来たような気がする。たぶん。


「ふ~んそうなんだ。まあ、それはどうでも良いのだけれど、犯人も気になるし、私に喧嘩を売るなんて許せないわ。」


 岡本は内弁慶らしく、クラスメイトが見ていない部員たちの前ではその本性を現すのだ。桜ヶ丘も気にする様子はなく、擁護すらするのだ。

「そうだよ、犯人は許せないよ!けど、何も盗られてなかったわけだから放課後に約束してた通りカラオケに遊びいけるね!」


 それは良かった。もう僕には関係ないなと、一度思ったが、今日は木曜日。部活の活動日ではなかったか?


「あれ、今日部活は?」

「あるわよ。ただ、私たちは放課後、用があるから先に帰るだけよ。」

ここにきてそんな言い訳が通用するものか。否、してしまうのが我が写真部よ。


「じゃ、この事件の犯人捜しはあと頼んだわよ。」

 クラスのマドンナ的ポジションにいるくせに人使いが荒い奴だなと思うが、岡本には怖くて言えない雰囲気がある。だからこそ、なのだろうか。岡本は桜ヶ丘を手で追っ払いながら自席に戻っていった。桜ヶ丘は岡本からまったく離れる素振りは見せなかったが。


「我が部はどうしてこうも女子に主導権を握られているのだろうよ」

「良いじゃないか、らしくてさ」

何がらしいのか分からないが、サトルなりの慰めだろうか。

 

 席、周辺でうるさくて邪魔だった桜ヶ丘が岡本について行っていなくなり、静かになった。そのおかげで再び事件について落ち着いて考え始めることができる。言われたからには解決まで考えなければ後が怖い。それに、僕たちだけでも活動しなければ部活動として報告すること何一つ無くなってしまうのだ。


「じゃあなにが目的で盗ったんだ?」

「そりゃあお金に困っていたんじゃないかな?」

サトルが即座に返答してくれた。が、それが理由に盗んだとは状況からして考えられない。

「それなら盗まれたものが戻ってくるのはおかしいだろ。」


この返しに対して僕は一応の反論を持っていた、予測しうる反応だった。


「仮に戻って来るなら空の財布だけだ。だが、戻ってきた財布からモノは何も盗られていなかった。それに転売すればそこそこ値が張るであろう携帯電話も戻って来ている」

「そう言われるとお金が目的じゃなそうだね」


 サトルもこの事件がきな臭いことを感じ始めたようだ。犯人は財布と携帯を盗み、それから何も取ることなく、返ってきた。ならば、と一つだけ盗んだ目的が見えてきた気がした。


「情報がほしかったのか・・・」


 思わずといった感じに口が動いていた。が、声が小さくかったのか、サトルも考え込んでいたのか、聞こえなかったようで聞き返してきた。


「なんだってヨシハル?」


別に隠す必要もないので一つ咳払いをして言った。

「いやなに、犯人の盗った目的がお金じゃないのなら情報だったんじゃないかなと」

「情報?」

サトルの眉間に(しわ)がよる。相手に浸透するように繰り返し言う。

「そうだ、個人情報」

「個人情報?」

「知らないのか?住所や名前、電話番号等、個人を識別できるモノの総称だろ」

そんなことも知らないのかと冷やかす。半分以上冗談で。


「知ってるよ。なんだって個人情報なんだって話だよ」


「お金が目当てじゃない。それは、さっきも言ったが携帯と財布の中身が無事に帰ってきている。それに、金が目当てだったら教室に置き放しになっている貴重品を根こそぎ持って行かれているはずだ。だが、被害者はこのクラスの女子生徒二名のみ。金以外が目的だったと考えるのは必然だろ?」


「財布と携帯から何が分かるんだよ?」


「財布には健康保険証や学生証、とか身分を証明する何らかのものが誰でも何らかあるだろう。それに、携帯というのは現代社会では日記のように他人には見せられないような重要な情報が入っている奴だって少なくない。そして、今回の被害者が女子生徒2人ってのも肝だ。」


 はっきりと言えることではないかもしれないが、たぶんそれしか考えられない。その程度だった。しかし、サトルも反論する余地はなかったのか口を開こうとしなかったから、僕はそのまま続ける。


「この女子生徒2人の個人情報が盗まれたというのが今回の事件の真相だろう。そして、犯人は男子生徒だ。ここは、大学ではなく高校だ。外部の人間の出入りが多少あるかもしれないが、出入りが自由でない高校にわざわざ侵入して少額しか持たない高校生を狙わないだろう。」


これで、容疑者はもう他にいないだろう。


「なんで、個人情報を盗ろうとしたか、だが、まぁ恋人を少しでも知ろうとするのは当たり前じゃないか?」


 サトルは、目を見開き、端から見ても今、私は驚いているというのを身体全体で表現していた。

「それじゃあ犯人は青木だって決まったも同然じゃないか」

「まぁ所詮は推論の域を出ないがな」

 サトルに話しかけられながら推理していったせいで、少しまとまりが悪い。歯切れが悪くなるのも僕の望むところではない。


最初から整理していくことにした。


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