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事件は既に終わっている。

 物語中で主人公が謎について考えてはいるが、それはよくありそうな出来事であり、実際に自分の身の回りで起こっても当事者にならなければ真実を追求しないであろう程度の『謎』です。



 いつも夜だった。物語の始まりが唐突なように僕の散歩も唐突だ。


 はぁっと白い息が街灯によって真っ暗な道の中さらに白くみえる。


人それぞれ全く違うものが好きだし、考え方によって様々な幸せがあるのではないだろうか。それらは個性や特色として受け入れてもらえるだろう。

けれど人には、他の人に言えない秘密を誰でも1つや2つ持っているものだ。


そんな当たり前な事を考えながら夜道を歩いていた。

 普段から履き慣れたスニーカーは靴底が柔らかく足音は聞こえない。そのせいか、地面の固さが直に伝わってくるような安物だ。

そんなスニーカーがアスファルトの道を踏みしめる様を見続けても意味がない。そのまま下に向いていた視線を、すぐ前にある山へと上げる。



 人口15万人を越す地方中心都市であるこの市だが、昼間の喧騒は、どことやら。夜はあまり人と出会うことなく散歩ができる。


そんな理由で僕は夜に散歩をしながら考えるのがいつのまにか好きになっていた。目的なき散歩、要するに徘徊とも言えるかもしれない。深夜徘徊は青少年なんとか条例違反だがこの街には取り締まる者の姿も夜は見られない。

 昼は地方都市にありがちなしがない温泉街ではあるが、夜は静かなただの住宅街になる。その街の背後には、そびえることはない標高300mに満たない小さな山がいくつか連なっている。その山にハイキングコースを設けることで観光資源としているこの街には温泉宿はもう3軒しかない。


その中にある『陣戸(じんど)』という宿が僕の家でもある。この由緒正しい歴史ある宿の次男坊が僕、鶴間好春(つるまよしはる)だ。

 決して安くない料金でお客をとっている温泉宿だがTVや雑誌に取り上げられることが多々あるので家には宿泊客がいつだっている。つまり、繁盛しているのだ。


しかし、それが家族全員にとって良いかと、問われれば違う。自分の部屋にこもっていても、どこからか宴会か何かの声が聞こえてくるのだ。

 その音が独りでいるのを無性に実感させる。それが嫌で僕はよく夜の街に散歩へと出る。


 そして今日も、また夜の街に繰り出すことにした。補導する者の姿が見えないとはいえ、もし補導されても面白くない。だからまだ時計の針は10時を指すかどうかという時間に家を出た。


 寝巻き代わりにしている裏起毛のスウェットのポケットに家の鍵と、携帯を入れ、マウンテンパーカーを羽織る。マウンテンパーカーは元々、山で着るための物だった為か、胸や腰の部分に左右両方、たくさんポケットがついていて便利だ。その中で右側腰部分のポケットに二つ折り財布を入れた。


 温泉街を自称するこの街の道は、宿が密集する我が家の周りだけアスファルトがうっすらと黄色に塗装されている。この街が栄えていた大昔に塗装されたせいだろうか、いたるところにアスファルトの亀裂が見られる。


この黄色の道通りに進むとすぐ、駅に面する赤と灰色のレンガ敷きの歩道へとたどり着く。

 このまま駅方向へ進めばまだ夜はそんなに深くない、誰かにあってしまうだろう。家で独りを実感させられるから外に出るものの、なぜか人には会いたくないのだ。


 人と会うことが少なそうな山の麓を走る東名高速の側道へと足を運ぶことにした。


 最近、市内すべての外灯がLEDに交換されたせいか電柱の真下だけが白く煌々と黒いアスファルトを照らしていた。いくつもの光の輪を抜けて行くと家から一番近いコンビニにたどり着く。


 店に入ると店内放送でコンビニオリジナルの商品をネタに、芸人が漫才をしている。コンビ名はなんだったかな。最近、よくTVに出ていたと思うが思い出せない。


 歩いている内に小腹が空いた気がしていた。目的は飲み物と予定になかった軽食の入手としよう。


まっすぐ冷蔵庫へ行きコーラを手にしてレジに向かう。


途中、スナック菓子をひと袋だけとり、コーラを持っていた同じ手に持った。


パーカーの右ポケットから財布を出す。

いつもレジ前で、もたつくのが嫌でレジに行く前には財布を出すようにしている。

レジのカウンターに片手で持っていた商品を乗せた。

アルバイトをしない僕にとってコンビニで菓子を買う時はふとスーパーの方が安いなと脳裏をよぎってしまう。少しでも安くして節約したいのだ。と、気が変な方へ向いていたせいで確認を怠った。


「やっぱりヨシハルじゃん」


 店員の顔を見ると、ニヤついた、いつもの奴の顔がそこにあった。声を聞いた時から察しはついていた。


そいつは同じ高校に通い、同じ写真部という少し難のある部活に所属する、中学からの旧友大和悟(やまとさとる)だった。


基本表情が笑顔である、サトルの顔を殴ってやろうかと思ったが、そこは法治国家。

防犯カメラがある。

我慢して率直に思った疑問をぶつけることにした。

 「なんでお前がこんなところにいるんだよ?」

 「今日からアルバイト始めたんだ。言わなかったっけ?」


 サトルのそれは僕にとって普段いく店が潰れたに等しい発言だ。小田舎で家から近いコンビニにこれから行けないとなると、とてつもなく不便だ。散歩が好きとはいえ、夜にわざわざ隣町のコンビニまで行かないといけなくなるというのは死刑宣告に近い。


「そうか、では冬休み明けに会おう」

気持ちとは裏腹に明るく立ち去ろうとしたが、サトルは納得してくれなかったようだ。

「おいまた来いよ!てか、今日はまだ冬休み初日だろ!!」

 そんな、犬みたいにキャンキャン騒ぐサトルを後ろ手に僕は店をあとにした。


 買ったものを袋に入れてもらったが、店を出てすぐにコーラを出した。

片手に持った財布をもう一度ポケットに戻すのが億劫でコーラの代わりに袋の中に財布を入れた。


せっかく誰にも出会わないよう歩いていたのに面倒なのにあった気がしてしまう。そんな気分を流すのに、紅いキャップを外してコーラを飲みこんだ。そうしてやっと脚を家に向け再び歩きだす。


 僕は出会わないように歩く。知り合いに。友達だとか恋人とかそんな契約も何もない関係が何故か好きになれない。昔、読んだ本の主人公も同じようなことを言って悩んでいたが、僕もそうなのである。

誰にも隔てなく話すし、教師からも信頼されている方だと思う。唯一なんでも話せる友達……までは考えていないが、誰かに友達だと紹介できるやつはサトルだけだと思っている。

 不意に携帯のバイブレーションが震えメッセージの着信を知らせる。スウェットのポケットから携帯を取り出しSNSアプリを開いて確認する。


『昨日の事件にもヨシハルにも、驚いたよ』

サトルからだった。バイト中に携帯をいじってメールをしてくるでない。

『バイト中に携帯をいじるなよ。それにあれは運が良かっただけで期待されても困るぞ』


メールを返し、携帯をしまう。昨日の事件を語るには、そうだな……先週の出来事から語るのがいいだろう。

そう、先週は北からの寒波で特に寒かった。


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